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第30話
しおりを挟む電話を終えて、ソファーに倒れ込む。
たった数分数秒なのにどっと疲れた。
安心できるものが欲しくて、朝眠っていた彼の寝室に入り彼の枕を抱きしめる。
「ふぁぁー……」
段々と眠たくなってくる。
本当は本人に抱きしめてもらいたいけど、そんなワガママは言えないので我慢。
「帰ってくるまで寝てるなんて悪いよな……」
もうあと五分もすれば動き出そう。
その間は凪さんの匂いを嗅いで心を落ち着ける。
少しして起き上がり、服を着替えてリビングに戻った。
けど、何をすればいいんだろう。
今まで早く起きる日は早く出社する日だけだったので、基本的には時間ギリギリまで眠っていた。
土日は飽きる程寝て、起きればもう夕方で、ご飯を食べて風呂に入り軽く掃除をすればまた眠る。そんなだらしない生活。
「……」
掃除をするって言ったって、この家は綺麗だからもう充分だと思う。
兎に角、両親にちゃんと説明ができるように伝えたい事を紙に書くことにした。
緊張からパニックになって何を話せばいいのか分からない状態になるのだけは避けたい。
自分の意思を伝えられなければ、両親は納得しないはず。
自分の荷物からメモとペンを取り出し、伝えたい事を箇条書きにした。
まずはオメガになった事。
自殺をしようとしたところを、凪さんに助けられて一緒に暮らしている事。
凪さんは職場の上司だった事。
今は休職している事。
「……凪さんと、番になりたい事……。」
メモに書こうとして手を止める。
これ、もしも彼に見られたら凄く恥ずかしい。
いやでも、仮に見られたとしてこれを書いていなかったら、彼に本当に番になる気があるのかと疑われないだろうか。
俺がアルファだったら、疑うまではなくても気にはなる。
「えぇ……悩む……」
散々悩んで、他の文字より小さく薄く書いた。
これでバレても、疑われたりしないはず。
きっと凪さんならこの文字の薄さと小ささで、俺が恥ずかしがっていたんだと察してくれるはずだ。
他に何か伝えたいことは無かったか、考えたけれど今のところは思い浮かばず、床に倒れ込む。
まだまだ、九時にもなっていない。
それでも実家に行くその時まで、刻一刻と近づいていっているわけで、落ち着けずに床をゴロゴロと転がった。
■
凪さんが帰ってきたのは正午を回った頃。
ご飯を作ろうと彼のエプロンを着てキッチンに立ったところで、玄関が開く音が聞こえた。
慌てて出迎えに行くと、凪さんが目を見開いて固まっている。
「あの……おかえりなさい。」
「……ただいま」
「どうかしましたか……?」
動こうとしない彼の視線を追い掛けると、俺が着ているエプロンを凝視していたのがわかった。
「あっ、これ!エプロン、勝手に着てごめんなさい。」
「いや、いいんだ……。」
荷物を受け取り、服を着替えに一度部屋に入っていく彼。
小さく「可愛い」と聞こえたのはきっと気の所為。
彼のエプロンを着ている俺を見て固まった原因がそれなのは些かどうかと思い、違う理由があったんだと気にしないことにした。
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