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第29話
しおりを挟む凪さんの用意してくれた朝食を食べる。
穏やかな時間だ。
ここに住まわせてもらってから、そうした時間を過ごせている。
ご飯も作ってくれる彼に、自分自身も早く彼にそういった時間を与えたいと思った。
「凪さん」
「うん?」
食後の珈琲を飲む彼に固めた決意をぶつける。
「俺、今日実家に行ってきます。」
「は?」
「オメガになったって報告します。それから、今は凪さんのお家でお世話になっていることも、いずれは凪さんと番になりたいってことも、全部話してきます。」
「待って待って。急にどうしたの」
昨日も俺が死んでしまうと思って助けてくれた。
何かあれば安心できるように一緒に考えてくれる。
そんな人と、早く何の蟠りもなく一緒に過ごしたい。
ただその欲が強くなった。
「凪さんと一緒に暮らしたい。凪さんに恩を返したい。だから……早く俺は両親に伝えて、受け入れてもらうにせよ勘当されるにせよ、前に進みたい。」
「……でもまだ性別が変わって一週間も経っていないよ。真樹はきっと今、焦ってるんだ。」
「焦ってるから動けるんです。早くこのモヤモヤを無くしたい。無くして、凪さんと一緒にいたい。」
黙り込んでしまった彼。呆れさせてしまったのだろうか。どうしようと視線を彷徨わせていると「わかった」と声が聞こえた。
「え……?」
「俺もついて行く。」
「……何で?」
「何でも。」
拒否は出来そうな感じじゃない。
少し怒っているようにも思える。
俺が両親に報告に行くのはそんなに悪い事だったのか。
「すぐに仕事を終わらせて帰ってくる。その間に御両親に会いに行くことだけ伝えておいて欲しい。」
「わかりました」
珈琲を飲むと、支度をして家を出て行ってしまった凪さん。あまりにも忙しないけど、俺のせいだから仕方ない。
早く帰って来れるように早く出社したんだ。
……俺、お荷物だな。
彼ののびのびとした生活を完全に邪魔している。
「母さんに電話……」
しばらく触っていなかったスマートフォンを手に取って、母さんに電話をかける。
時刻は七時過ぎ。朝早すぎて迷惑かなと思ったけど、凪さんが何時くらいに帰ってくるかが分からないから、早くしておきたい。
電話を掛けると意外にもすぐに出てくれた。
久しぶりに電話をしたから、母さんは喜んでくれている。
「どうしたの?こんな朝早くに」
「あの……今日、帰る。」
「そう?お仕事は?」
ゴクッと唾を飲む。
「あ……今ちょっと、休んでて……。」
「どうして?」
「その事について話したいことがある」
今伝える訳では無いのに、既に心臓がドクドクとうるさく音を立てている。
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