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第24話
しおりを挟む彼の手が止まったのを見て、自分の手も止める。
何を考えているんだろう。不思議だけど彼が何かを言うまで待つ。
「ずっと感じていたけど……」
漸く聞こえてきた声は少し小さい。
「真樹は完璧主義者だね。」
「……そう、でしょうか。」
「うん。何でも完璧にしないといけないと思ってる。俺にはそう見える。」
彼からテーブルに視線を落とす。
「だから、何かを手放して新しい方向に移れない。アルファという性別にしがみついて、オメガ性を受け入れられない。不安になるのも自分の良い点を見ないで欠点を見てしまうからだ。」
「……」
「それは悪いことじゃないよ。完璧主義者は積極性があるし、それに感化されて周りもよく動くようになる。真樹はオメガに偏見があると言っていたけど、発情期になった女性を助けた。誰にでもできることじゃない。……ましてやあの時はアルファだったんだ。」
とても複雑な気持ち。
全てを見透かされたような感覚。
泣きそうになって、目に膜が張る。零してたまるかとぐっと堪えた。
「そんな真樹は、俺から見れば完璧だよ。だから自分自身にもっと優しくしてあげてほしい。」
けれど堪えた意味は無く、目から雫が落ちていく。
自分自身に優しく。その意味を理解できない自分が嫌になる。
「まあ、真樹が自分に優しく出来なくても、俺が愛してこれ以上ないくらいに甘やかすからいいんだけどね。」
「俺……」
「うん」
「俺、あんまり『疲れた』とか『しんどい』とかマイナスな言葉を言わないようにしているんです。言ってしまえば本当にそうなると思うし、それに……周りに失望されたくなかったんです。」
ちょっとの事で疲れたなんて言えば、こんな事も簡単にこなせないのかと思われる。
それが怖かった。
「でも、凪さんは失望しないと、思う。」
「しない。誰だってそういう時がある。」
「……凪さん」
「うん。真樹が今、何を思ってるのか教えて。」
ゆっくりと瞬きをして、彼と目を合わせる。
優しくて、思い遣りのある素敵な人。
「俺、疲れました。」
簡単に吐き出せた言葉。今までは出来なかったのに、不思議だ。
「よく頑張ったね。」
「多分、オメガになる前からずっとしんどくて、もうやめたいと思ってて、でも誰にも言えなかった。俺の言葉を受け止めてくれるの、凪さんしかいないの。」
料理は冷めてしまっている。
それでも止まらなかった。一度溢れた言葉は止められなかった。
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