23 / 208
第23話
しおりを挟む家に着いて料理を作る彼を傍で見る。
「真樹は自炊してた?」
「全く。料理できないんです。」
「え、じゃあご飯はどうしてたの?外食?」
「米は炊けるのでお惣菜買ったり、冷凍食品食べたり。外食はほとんどしなかったですね。」
電子レンジで温めたお惣菜は美味しかったと思う。
一人暮らしを始めて最初は点けていたテレビは、最近は消したままだった気がする。
「仕事も暫く休みだし、折角なら友達とどこかに出かけてきたら?」
「友達と呼べる人も居ないんですよね」
「そうなの?」
「仕事でミーティングするのに会う程度の同級生は居るんですけどね。」
手際良く料理を作る彼にまた惚れてしまいそう。
黒のエプロンが似合っている。
俺もあれを着けて料理してみたい。作ったそれを彼に美味しそうに食べてもらいたい。
「料理の勉強したいです」
「勉強?」
「料理教室通おうかな」
真剣に教室の事を考えていると、凪さんは手を止めて真顔で俺を見る。
「料理教室はやめてほしい」
「え、どうして……?」
「真樹は綺麗だから、色んな人に可愛がられると思うんだ。それはいい事だけど、俺は心が狭いから嫉妬するに決まってる。それに料理なら俺がするから。」
「凪さんが嫉妬?」
「うん。真樹が誰かに言い寄られでもしたらって考えるだけで腹が立つよ」
笑顔でそんなことを言うものだから、嘘だと笑い飛ばそうとしたけど、雰囲気が冗談では無い。
これはきっと本気なんだ。
「じゃあ……料理教室はやめます。」
「うん。そうしてくれ」
「代わりに、凪さんに料理を教わります。」
さすがに何も出来ないのも拙い。
嬉しそうに大きく頷いた彼は、もしかすると俺と触れ合う時間が増えると喜んでくれているのかもしれない。
「さあ、そろそろできるよ。飲み物はお茶でいい?お酒がいい?」
「お茶で。お酒はあんまり強くなくて。」
「そうなの?真樹の家の冷蔵庫、いっぱいお酒が入ってたけど。」
「ああ……あれは眠れない時に飲む用で……」
眠れない夜があった。
ストレスなのか、胸の中に言葉では表現出来ない不安が渦巻いて気持ちを焦らせる。
何かをやり忘れていないか、誰かを傷つけていないか、一つ考え始めると眠れなくて、弱い癖に酒を飲んで無理矢理眠った。
「眠れないって言うのは疲れ過ぎて?それとも何か他に理由がある?」
料理をテーブルに並べ、席に着いた彼は「言いたくないなら言わなくていい」と優しく微笑んでくれる。
隠す理由も無いし、彼になら伝えても馬鹿にされたりしないだろう。
眠れない夜のことを伝えると、難しい顔をして食事をしていた手を止めた。
148
お気に入りに追加
1,972
あなたにおすすめの小説

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます


たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております

Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜
白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。
しかし、1つだけ欠点がある。
彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。
俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。
彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。
どうしたら誤解は解けるんだ…?
シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。
書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる