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第23話
しおりを挟む家に着いて料理を作る彼を傍で見る。
「真樹は自炊してた?」
「全く。料理できないんです。」
「え、じゃあご飯はどうしてたの?外食?」
「米は炊けるのでお惣菜買ったり、冷凍食品食べたり。外食はほとんどしなかったですね。」
電子レンジで温めたお惣菜は美味しかったと思う。
一人暮らしを始めて最初は点けていたテレビは、最近は消したままだった気がする。
「仕事も暫く休みだし、折角なら友達とどこかに出かけてきたら?」
「友達と呼べる人も居ないんですよね」
「そうなの?」
「仕事でミーティングするのに会う程度の同級生は居るんですけどね。」
手際良く料理を作る彼にまた惚れてしまいそう。
黒のエプロンが似合っている。
俺もあれを着けて料理してみたい。作ったそれを彼に美味しそうに食べてもらいたい。
「料理の勉強したいです」
「勉強?」
「料理教室通おうかな」
真剣に教室の事を考えていると、凪さんは手を止めて真顔で俺を見る。
「料理教室はやめてほしい」
「え、どうして……?」
「真樹は綺麗だから、色んな人に可愛がられると思うんだ。それはいい事だけど、俺は心が狭いから嫉妬するに決まってる。それに料理なら俺がするから。」
「凪さんが嫉妬?」
「うん。真樹が誰かに言い寄られでもしたらって考えるだけで腹が立つよ」
笑顔でそんなことを言うものだから、嘘だと笑い飛ばそうとしたけど、雰囲気が冗談では無い。
これはきっと本気なんだ。
「じゃあ……料理教室はやめます。」
「うん。そうしてくれ」
「代わりに、凪さんに料理を教わります。」
さすがに何も出来ないのも拙い。
嬉しそうに大きく頷いた彼は、もしかすると俺と触れ合う時間が増えると喜んでくれているのかもしれない。
「さあ、そろそろできるよ。飲み物はお茶でいい?お酒がいい?」
「お茶で。お酒はあんまり強くなくて。」
「そうなの?真樹の家の冷蔵庫、いっぱいお酒が入ってたけど。」
「ああ……あれは眠れない時に飲む用で……」
眠れない夜があった。
ストレスなのか、胸の中に言葉では表現出来ない不安が渦巻いて気持ちを焦らせる。
何かをやり忘れていないか、誰かを傷つけていないか、一つ考え始めると眠れなくて、弱い癖に酒を飲んで無理矢理眠った。
「眠れないって言うのは疲れ過ぎて?それとも何か他に理由がある?」
料理をテーブルに並べ、席に着いた彼は「言いたくないなら言わなくていい」と優しく微笑んでくれる。
隠す理由も無いし、彼になら伝えても馬鹿にされたりしないだろう。
眠れない夜のことを伝えると、難しい顔をして食事をしていた手を止めた。
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