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第2話

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「何かオメガに嫌な過去でもあるの?」
「オメガには中学の頃に、一人だけ会ったことがあって、俺がアルファだったからか発情期に入ったそいつにやたらと誘惑された。それがトラウマ」
「その子、発情期は初めてだったんじゃない?」
「だとしても、知識はある筈だろ。性別だって中学生ならわかってる。抑制剤はいつでも持っておくべきだった。」
「それで、その子はどうなったの?」


 タイピングをしていた手を止め、記憶を蘇らせる。


「確か転校かな。俺の母さんがオメガが俺を襲ったとかなんかで、被害届を出すとかそんな話になって……」
「災難ね」
「だろ」
「貴方じゃなくて、そのオメガの子が。誘惑されただけなのに被害届だなんて……」
「新木さんは擁護派だもんね」
「貴方は過激派ね」


 フロア中に嫌な雰囲気が流れる。
 サッと席を立ってリュックを背負った。


「じゃあ俺、今日は外でミーティングあるから。またね新木さん。」
「ええ、また。」


 来た道を戻るようにしてビルから出る。
 初夏の爽やかな風が髪を揺らした。
 新木さんとは時々、少し言い合ったりしてしまう。それが終わったあとは別にお互い何も思っていないけど、アルファの高いプライドが自分の考えを曲げてたまるかと思ってしまうんだろう。


 ミーティングをするカフェまで移動すると、すでに相手がそこにいた。


三森みもりさん。おはようございます。」
「おはようございます。」


 定型文の挨拶をすると、お互い肩の力を抜いて椅子に座った。


「大学の頃みたいに遊びたいよなぁ。」
「本当だよ、全く。」


 砕けた調子で話すのは、三森が大学の同級生だから。
 別のところに就職したけど、お互いに担当になってはや数ヶ月。最初こそ真面目にしていたミーティングも、息抜きの場のようになっている。



「じゃあ、今回もこれでいい感じ?」
「うん。それでよろしく」


 珈琲を飲んで、落ち着いていると、三森が外を見て「あ」と声を零した。
 気になって三森の視線の先を見ると、チョーカーをした女性が道端で倒れてしまっているのが見えた。


「珍しい。オメガだな。発情期か?……っておいおい、あれまずいだろ。」
「チッ……」


 女性に男が群がっていく。
 どいつもこいつもフェロモンに充てられているみたいだ。
 立ち上がり、三森が止めるのを気にせずに店を出て女性に群がる男達を追い払う。


「抑制剤は?」
「っ、かば、ん……っ」


 女性の落とした鞄の中から抑制剤を取り出す。錠剤しかないことに苛立ちを感じながら、三森の方を見て「水!」と叫ぶと店員からそれを貰いこっちまでやってきた。


「ありがとう。離れとけ」
「わ、悪い……」


 三森はベータで、抑制剤なんて飲んでいない。だからこのフェロモンに耐性がない筈。
 女性に抑制剤を飲ませ、道の隅に移動した。


「病院行くか?」
「い、いえ、大丈夫、です……」
「……なら、あんたのフェロモンが治まるまで一緒にいる。」


 三森にリュックを持ってきてもらい、ミーティングはちょうど終わった所だったので先に帰ってもらった。
 自分の持っている抑制剤を一応の為に飲んで、女性が落ち着くのを待った。
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