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番外編
ひより
しおりを挟むカチコチに固まる時雨の胸に仙波の手が触れる。
「ちょっと強引で申し訳ないですけど、俺の香りで安心できるなら隣にいるので、しばらく眠ってください」
「ぁ、え、でも仕事……時間……」
「これは仕事じゃないです。市谷さんが眠ったのを確認したら仕事に戻るので」
とにかく睡眠不足は良くない。
自律神経が狂ってネガティブな事ばかりを無限にループしてしまう。
「いいから眠って。なんなら子守唄歌いますけど」
「……本当に強引ですね」
「すみません。でもそれくらい心配なんです」
時雨はジッと仙波を見ると、困ったように笑って頷いた。
「わかりました。すみません」
「はい。目を閉じて」
目元を手で覆われ視界が暗くなる。
近くから香ってくる包まれるような匂いに自然と体から力が抜けて、沈んでいくような感覚がした。
考えることをやめられなかったのに思考が停止して、ゆっくりと眠りに落ちる。
時雨が眠ったのを確認した仙波は、静かにベッドを抜けてリビングに戻り掃除を始めた。
溜まっていた洗濯物を洗濯機で洗う間に、ごちゃごちゃと物が散乱していた部屋を整え、それを終えると洗濯物をベランダに干す。
一時間は優に超えたけれど、時雨が起きてくる様子は無いので深く眠れているのだと安心して、今度は料理をしようと冷蔵庫を開けたのだが。
そこには特に食材が無くて、仙波は一人大きなため息を吐く。
医者に言われたのに、どうしてちゃんと食べないんだと思うけれど、食べないのではなくて食べれないのか……とまた一つ心配になった。
どんなものなら受け付けてくれるだろうか。
消化の良くて食べやすいものを作りたいのだけれど、材料も無いので困ってしまう。
「……起きてから相談しよう」
残っているお風呂洗いと、後は洗濯物が乾けば取り込んで畳むだけなのだが、それにはまだ時間がかかりそう。
一先ず休憩も兼ねて時雨の様子を見に行こうと寝室に行けば、彼は眉間に皺を寄せて、良くない夢を見ているのか少し苦しそうな呼吸をしていた。
仙波はギョッとして傍に寄り、トントンと胸辺りを軽く叩く。
「大丈夫ですよ」
「……ふ、」
「大丈夫。大丈夫」
なんの根拠も無い言葉を繰り返す。それでも効果があった様で、苦しそうな呼吸は落ち着き眉間の皺も無くなった。
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