49 / 55
番外編
ひより
しおりを挟む
■
時雨の体調は改善も悪化もせずにいた。
夜はやはり眠れなくて、仕事中に船を漕ぐことも多くなった。
それを見兼ねた上司が少し休みなさいと言ってくれて有給をとることもあったのだが、休んだところで眠れる訳ではない。
むしろ段々とどうしてこんなに弱いんだと、自分を責めるような考えが頭に浮かぶこともしばしば。
そして、仙波は言っていた通りに発情期がやってきたようで、家事代行をお願いをしていた日に彼から連絡があり、暫く彼には会えていなかった。
何とか生きているような状態で、家はまた段々と汚れていく。
時雨地震もこれはまずいと思い早く体調が回復するようにと、眠れるように日中体を疲れさせたりしたのだが上手くいかなかった。
ピンポーンと軽快な音が鳴って玄関に行く。
今日は仙波が来る日だ。時雨はヨタヨタと玄関に行きドアを開けた。
「あ、こんにちは……っ!?」
そして仙波を確認した途端、ふんわり漂った甘い香りに脱力して彼に寄り掛かるようになってしまう。
「え、市谷さん……? どうしました、大丈夫?」
「……すみません、ちょっと、力が抜けました……」
「い、家、入りましょう。ごめんなさい、ちょっとだけ頑張ってください」
「すみません……」
仙波に手伝ってもらって家に入り、廊下に座る。
彼は心配そうに時雨を見下ろしたあと、同じ視線の高さになるやうにしゃがみこんだ。
「体調、良くなってないみたいですね」
「あ……眠れなくて、やっぱり」
「……せめて今日、俺が片付けてる間は寝てください」
「……」
「あー……えっと、一緒にいた方が寝れますか……?」
「へ……あ、いや、大丈夫です」
体が動くようになって、時雨は立ち上がるとフラフラソファーに向かう。
後ろを続く仙波は、前に来た時より部屋が荒れているのに気づいた。
「発情期の時、来れなくてすみません」
「それは仕方ないことなので、謝らなくて大丈夫です」
「今日は前来れなかった分も働くので!」
「いつもと同じでいいですよ」
久しぶりにする仙波との会話。時雨は懐かしさすら感じてソファーに座るとウトウトし始める。
仙波の声のトーンや、リズムが心地よく感じたのだ。
「市谷さん。ここに置いてある資料って──……あれ、寝た……?」
少しして散らかっていた棚の上を整えようと思ったのだが、どうも仕事の資料のように見えたので一度聞いておこうと時雨に声をかける。が、時雨は目を閉じて静かに眠っていた。
どうせなら横になればいいのに、座ったままだ。
「あ……何か、掛けるもの……」
ずっと眠れていなかったのは仙波から見て一目瞭然だった。
目の下のクマは濃くなっていたし、顔色も悪かったので。
薬をもらっていたはずだけれど、ちゃんと飲めなかったのかな。
心配になってそっと指先で目元のクマに触れる。
「……」
このまま、この人が眠れるように傍に居てあげたいのだけれど。
そうして彼を見つめていた時、時雨がゆっくりと音を立てずに目を開けた。
時雨の体調は改善も悪化もせずにいた。
夜はやはり眠れなくて、仕事中に船を漕ぐことも多くなった。
それを見兼ねた上司が少し休みなさいと言ってくれて有給をとることもあったのだが、休んだところで眠れる訳ではない。
むしろ段々とどうしてこんなに弱いんだと、自分を責めるような考えが頭に浮かぶこともしばしば。
そして、仙波は言っていた通りに発情期がやってきたようで、家事代行をお願いをしていた日に彼から連絡があり、暫く彼には会えていなかった。
何とか生きているような状態で、家はまた段々と汚れていく。
時雨地震もこれはまずいと思い早く体調が回復するようにと、眠れるように日中体を疲れさせたりしたのだが上手くいかなかった。
ピンポーンと軽快な音が鳴って玄関に行く。
今日は仙波が来る日だ。時雨はヨタヨタと玄関に行きドアを開けた。
「あ、こんにちは……っ!?」
そして仙波を確認した途端、ふんわり漂った甘い香りに脱力して彼に寄り掛かるようになってしまう。
「え、市谷さん……? どうしました、大丈夫?」
「……すみません、ちょっと、力が抜けました……」
「い、家、入りましょう。ごめんなさい、ちょっとだけ頑張ってください」
「すみません……」
仙波に手伝ってもらって家に入り、廊下に座る。
彼は心配そうに時雨を見下ろしたあと、同じ視線の高さになるやうにしゃがみこんだ。
「体調、良くなってないみたいですね」
「あ……眠れなくて、やっぱり」
「……せめて今日、俺が片付けてる間は寝てください」
「……」
「あー……えっと、一緒にいた方が寝れますか……?」
「へ……あ、いや、大丈夫です」
体が動くようになって、時雨は立ち上がるとフラフラソファーに向かう。
後ろを続く仙波は、前に来た時より部屋が荒れているのに気づいた。
「発情期の時、来れなくてすみません」
「それは仕方ないことなので、謝らなくて大丈夫です」
「今日は前来れなかった分も働くので!」
「いつもと同じでいいですよ」
久しぶりにする仙波との会話。時雨は懐かしさすら感じてソファーに座るとウトウトし始める。
仙波の声のトーンや、リズムが心地よく感じたのだ。
「市谷さん。ここに置いてある資料って──……あれ、寝た……?」
少しして散らかっていた棚の上を整えようと思ったのだが、どうも仕事の資料のように見えたので一度聞いておこうと時雨に声をかける。が、時雨は目を閉じて静かに眠っていた。
どうせなら横になればいいのに、座ったままだ。
「あ……何か、掛けるもの……」
ずっと眠れていなかったのは仙波から見て一目瞭然だった。
目の下のクマは濃くなっていたし、顔色も悪かったので。
薬をもらっていたはずだけれど、ちゃんと飲めなかったのかな。
心配になってそっと指先で目元のクマに触れる。
「……」
このまま、この人が眠れるように傍に居てあげたいのだけれど。
そうして彼を見つめていた時、時雨がゆっくりと音を立てずに目を開けた。
403
お気に入りに追加
1,117
あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる