41 / 55
番外編
ひより
しおりを挟む
■
二週間ぶりの時雨の家は少しだけ湿度が高かった。
そして、自分の家の筈なのに時雨は居心地が悪そうに視線を彷徨わせている。
仙波は前回の話なんて何も聞かなかったかのように、明るい声で「よろしくお願いします!」と伝え、前回よりも少し散らかった部屋を片付けていく。
そんな中、時雨は息を殺すようにしてソファーに座り時間が来るのを待っていた。
前回来てもらった時にした話が、仙波を傷つけてしまったのではないかと不安だったのだ。
もしも、ここで拒否をされてしまったら……そう考えるだけで時雨の心は落ち着かなかった。
ただ、それがどうしてかは理解が出来ない。
たまたま片付けを依頼し、そうして来てくれた人に拒否をされたところで、また別の人に頼めばいいだけ。
なのに仙波がΩだと知ったからなのか、自分が何かをしてしまうことで、彼を苦しめるような事態にならないかと不安なのだ。
紬の姿が頭の中で何度もチラつく。
「──さん、市谷さん!」
「!」
名前を呼ばれて顔を上げた。
目の前にいた仙波に「そろそろ時間なので……」と遠慮気味に言われ、時雨はハッと時計を見る。
あっという間に時間が来ていたらしく、慌てて立ち上がった。
「すみません。ぼんやりしてて……」
「いえ。とりあえずいつもの様にさせていただきました!」
「……ありがとうございます」
帰ろうと荷物を片付ける仙波に、時雨は『何で、こんなに普通なんだろう』と彼の変わらない態度が不思議で仕方ない。
「あの……」
「? はい」
なので止めておけばいいのに、時雨はつい聞いてしまった。
「何で、あんな話をしたのに……普通でいてくれるんですか……?」
そう聞かれた仙波は、キョトン……とした後苦笑する。
「別に……普通じゃないですよ。ただこれは仕事です。プライベートなら……、そうだな。もしかしたら問い詰めちゃうかも。」
「っ、」
キュッと胸が苦しくなる。
つい拳を強く握って俯いた。
「でも、終わったことです。それを市谷さんに出会ってからそれ程経ってない俺が問い詰めるのは違うし……。」
「……」
「だから、俺にできることといえば……まあ、何も無いですが……。結構思い詰めてるように感じたので、俺でよければ少しくらい話は聞けると思います。」
仙波は時雨の手を取ってほんのりと微笑む。
時雨は驚いて手を引っ込めようとしたのだが、温かい仙波の体温に、引っ込めるどころか、鼻の奥をツンとさせた。
二週間ぶりの時雨の家は少しだけ湿度が高かった。
そして、自分の家の筈なのに時雨は居心地が悪そうに視線を彷徨わせている。
仙波は前回の話なんて何も聞かなかったかのように、明るい声で「よろしくお願いします!」と伝え、前回よりも少し散らかった部屋を片付けていく。
そんな中、時雨は息を殺すようにしてソファーに座り時間が来るのを待っていた。
前回来てもらった時にした話が、仙波を傷つけてしまったのではないかと不安だったのだ。
もしも、ここで拒否をされてしまったら……そう考えるだけで時雨の心は落ち着かなかった。
ただ、それがどうしてかは理解が出来ない。
たまたま片付けを依頼し、そうして来てくれた人に拒否をされたところで、また別の人に頼めばいいだけ。
なのに仙波がΩだと知ったからなのか、自分が何かをしてしまうことで、彼を苦しめるような事態にならないかと不安なのだ。
紬の姿が頭の中で何度もチラつく。
「──さん、市谷さん!」
「!」
名前を呼ばれて顔を上げた。
目の前にいた仙波に「そろそろ時間なので……」と遠慮気味に言われ、時雨はハッと時計を見る。
あっという間に時間が来ていたらしく、慌てて立ち上がった。
「すみません。ぼんやりしてて……」
「いえ。とりあえずいつもの様にさせていただきました!」
「……ありがとうございます」
帰ろうと荷物を片付ける仙波に、時雨は『何で、こんなに普通なんだろう』と彼の変わらない態度が不思議で仕方ない。
「あの……」
「? はい」
なので止めておけばいいのに、時雨はつい聞いてしまった。
「何で、あんな話をしたのに……普通でいてくれるんですか……?」
そう聞かれた仙波は、キョトン……とした後苦笑する。
「別に……普通じゃないですよ。ただこれは仕事です。プライベートなら……、そうだな。もしかしたら問い詰めちゃうかも。」
「っ、」
キュッと胸が苦しくなる。
つい拳を強く握って俯いた。
「でも、終わったことです。それを市谷さんに出会ってからそれ程経ってない俺が問い詰めるのは違うし……。」
「……」
「だから、俺にできることといえば……まあ、何も無いですが……。結構思い詰めてるように感じたので、俺でよければ少しくらい話は聞けると思います。」
仙波は時雨の手を取ってほんのりと微笑む。
時雨は驚いて手を引っ込めようとしたのだが、温かい仙波の体温に、引っ込めるどころか、鼻の奥をツンとさせた。
193
お気に入りに追加
1,119
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる