明日はきっと

ノガケ雛

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番外編

ひより

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 ■


 二週間ぶりの時雨の家は少しだけ湿度が高かった。
 そして、自分の家の筈なのに時雨は居心地が悪そうに視線を彷徨わせている。


 仙波は前回の話なんて何も聞かなかったかのように、明るい声で「よろしくお願いします!」と伝え、前回よりも少し散らかった部屋を片付けていく。


 そんな中、時雨は息を殺すようにしてソファーに座り時間が来るのを待っていた。
 前回来てもらった時にした話が、仙波を傷つけてしまったのではないかと不安だったのだ。
 もしも、ここで拒否をされてしまったら……そう考えるだけで時雨の心は落ち着かなかった。


 ただ、それがどうしてかは理解が出来ない。
 たまたま片付けを依頼し、そうして来てくれた人に拒否をされたところで、また別の人に頼めばいいだけ。
 なのに仙波がΩだと知ったからなのか、自分が何かをしてしまうことで、彼を苦しめるような事態にならないかと不安なのだ。

 紬の姿が頭の中で何度もチラつく。



「──さん、市谷さん!」
「!」


 名前を呼ばれて顔を上げた。
 目の前にいた仙波に「そろそろ時間なので……」と遠慮気味に言われ、時雨はハッと時計を見る。
 あっという間に時間が来ていたらしく、慌てて立ち上がった。



「すみません。ぼんやりしてて……」
「いえ。とりあえずいつもの様にさせていただきました!」
「……ありがとうございます」


 帰ろうと荷物を片付ける仙波に、時雨は『何で、こんなに普通なんだろう』と彼の変わらない態度が不思議で仕方ない。


「あの……」
「? はい」


 なので止めておけばいいのに、時雨はつい聞いてしまった。


「何で、あんな話をしたのに……普通でいてくれるんですか……?」


 そう聞かれた仙波は、キョトン……とした後苦笑する。


「別に……普通じゃないですよ。ただこれは仕事です。プライベートなら……、そうだな。もしかしたら問い詰めちゃうかも。」
「っ、」


 キュッと胸が苦しくなる。
 つい拳を強く握って俯いた。



「でも、終わったことです。それを市谷さんに出会ってからそれ程経ってない俺が問い詰めるのは違うし……。」
「……」
「だから、俺にできることといえば……まあ、何も無いですが……。結構思い詰めてるように感じたので、俺でよければ少しくらい話は聞けると思います。」



 仙波は時雨の手を取ってほんのりと微笑む。
 時雨は驚いて手を引っ込めようとしたのだが、温かい仙波の体温に、引っ込めるどころか、鼻の奥をツンとさせた。
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