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第一章
第八話
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恭介と話し合った結果、『子供のことは伝えるべき』という結論に至った。
考えながら時雨にメッセージを送り、次の休日に会う約束をする。
話をする場所には恭介が着いてきてくれるらしい。というのも恭介は妊娠中の紬に何かがあってはいけないと心配で堪らなかった。
『面倒くさくなった』と言って番を解消するような奴だ。ろくな奴ではないだろうと思って。
メッセージを送ってから、紬は不安で押し潰されそうだった。
指先が冷たくなって、細かく震える。
またあんな酷い言葉を言われたらどうしよう。
連絡が来て喜んだくせに、こんなにも怖い。
「大丈夫……?」
ソファーに座っている紬の隣に恭介が座り、無意識に揉んでいた両手をそっと大きな手に包まれる。
「すごく冷えてる。寒い?それとも……話しに行くの、怖い?」
「っこ、こわい」
「……やっぱりやめておく?君がこんなに怖い思いをしてまで会う必要は無いよ」
彼は優しい。どこまでも自分の味方でいてくれる。
けれど子供のことは時雨に伝えないといけないことだと思うので、紬は唇をへの字になるほど歪めて「行く」と呟く。
恭介は同じような表情をして「わかった」と言い、その後も紬の手が温かくなるまでずっと傍にいた。
■
約束の日。
紬は恭介と一緒に時雨の元に向かった。
相変わらず緊張と不安で震えていたが、恭介が「やめとく?」と言っても「行く」と聞かないので、恭介はずっとヒヤヒヤしている。
大きなストレスがかかってしまったら折角良くなってきた紬の体調がまた悪くなってしまうのではないかと思って。
約束の場所に着くと、すでに時雨がいた。
紬はゴクリと唾液を飲み込み、「久しぶり」と思うように動かない口を無理矢理動かす。
時雨は恭介を一瞥すると、「その人は?」と返事すること無く問いかけた。
「ぁ……ぁ、い、今、お世話になってる、人」
「……そうか」
恭介にあまり興味が無いのか、それだけ言うと紬を見て眉間に皺を寄せる。
「……それ、腹、何」
「ぁ……」
「嘘だろ。お前別れてすぐその人とシたの?」
「っ!」
紬はあまりのショックに声も出なかった。
隣で会話を聞いていた恭介は額に血管を浮かせるほど怒っている。
「番を解消して悪かったと思ってたけど……お前、直ぐに乗り換えてたんだな。」
「っ、ち、ちが、」
「何が違うんだよ。妊娠してるんだろ。そいつとの子供なんだろ」
冷たい目。
一瞬息が止まり、紬は思わず恭介の袖をキュッと掴む。
上手く声が出せずに口を開けては閉じて、しまいには引き攣った呼吸が漏れていく。
恭介は紬が過呼吸にならないようにそっと自身の肩に紬の顔を抱き寄せ、呼吸を制限した。
「ゆっくり吐いて」
「ッ……は、」
「大丈夫だよ」
柔らかい優しい声は紬の耳にしっかり届いて、次第に呼吸が落ち着き、恭介にもたれ掛かる。
そんな様子をずっと見ていた時雨。
恭介はジッと時雨を睨みつけ「で、」と低い声を出す。
「あんた、謝る気で来たんじゃなかったのか。」
もう我慢ができなかった。
考えながら時雨にメッセージを送り、次の休日に会う約束をする。
話をする場所には恭介が着いてきてくれるらしい。というのも恭介は妊娠中の紬に何かがあってはいけないと心配で堪らなかった。
『面倒くさくなった』と言って番を解消するような奴だ。ろくな奴ではないだろうと思って。
メッセージを送ってから、紬は不安で押し潰されそうだった。
指先が冷たくなって、細かく震える。
またあんな酷い言葉を言われたらどうしよう。
連絡が来て喜んだくせに、こんなにも怖い。
「大丈夫……?」
ソファーに座っている紬の隣に恭介が座り、無意識に揉んでいた両手をそっと大きな手に包まれる。
「すごく冷えてる。寒い?それとも……話しに行くの、怖い?」
「っこ、こわい」
「……やっぱりやめておく?君がこんなに怖い思いをしてまで会う必要は無いよ」
彼は優しい。どこまでも自分の味方でいてくれる。
けれど子供のことは時雨に伝えないといけないことだと思うので、紬は唇をへの字になるほど歪めて「行く」と呟く。
恭介は同じような表情をして「わかった」と言い、その後も紬の手が温かくなるまでずっと傍にいた。
■
約束の日。
紬は恭介と一緒に時雨の元に向かった。
相変わらず緊張と不安で震えていたが、恭介が「やめとく?」と言っても「行く」と聞かないので、恭介はずっとヒヤヒヤしている。
大きなストレスがかかってしまったら折角良くなってきた紬の体調がまた悪くなってしまうのではないかと思って。
約束の場所に着くと、すでに時雨がいた。
紬はゴクリと唾液を飲み込み、「久しぶり」と思うように動かない口を無理矢理動かす。
時雨は恭介を一瞥すると、「その人は?」と返事すること無く問いかけた。
「ぁ……ぁ、い、今、お世話になってる、人」
「……そうか」
恭介にあまり興味が無いのか、それだけ言うと紬を見て眉間に皺を寄せる。
「……それ、腹、何」
「ぁ……」
「嘘だろ。お前別れてすぐその人とシたの?」
「っ!」
紬はあまりのショックに声も出なかった。
隣で会話を聞いていた恭介は額に血管を浮かせるほど怒っている。
「番を解消して悪かったと思ってたけど……お前、直ぐに乗り換えてたんだな。」
「っ、ち、ちが、」
「何が違うんだよ。妊娠してるんだろ。そいつとの子供なんだろ」
冷たい目。
一瞬息が止まり、紬は思わず恭介の袖をキュッと掴む。
上手く声が出せずに口を開けては閉じて、しまいには引き攣った呼吸が漏れていく。
恭介は紬が過呼吸にならないようにそっと自身の肩に紬の顔を抱き寄せ、呼吸を制限した。
「ゆっくり吐いて」
「ッ……は、」
「大丈夫だよ」
柔らかい優しい声は紬の耳にしっかり届いて、次第に呼吸が落ち着き、恭介にもたれ掛かる。
そんな様子をずっと見ていた時雨。
恭介はジッと時雨を睨みつけ「で、」と低い声を出す。
「あんた、謝る気で来たんじゃなかったのか。」
もう我慢ができなかった。
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