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第一章
第六話
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紬のお腹が少し大きくなった。
少し苦しそうだし、動きもゆったりしている。
恭介はそんな紬が心配で、心配されている本人が過保護だなと思うくらいにはいつも傍にいた。
段差などがあると必ず体を支えてくれるし、転ばないようにと手を貸してくれる。
紬は大変有難いと思うと同時に、俺達の関係って何だろうと頭を悩ませていた。
初めの頃は緊張や不安、そして番を解消したせいで起きる体調不良から、いつも恭介を疑っていた。
だが恭介は定期的に病院に連れて行ってくれる上に、上手く話したり動くことができない紬を決して嫌がることなく、それどころかいつも丁寧に優しく接してくれる。
なので少しずつ心を開き、恭介に対しては微笑んだり、小さなことならお願いもできるようになった。
休日の今日、恭介が少し運動をしようと言い、二人で散歩に出かけていた。
暫く歩いた後、小さくフゥと息を吐いた紬を見て予定より随分早く帰宅することに。
「はい、ただいまぁ。ちょっと疲れちゃったね。お腹は痛くない?」
「ん、痛くない」
「よかった。あ、後で足マッサージしようね。」
「ううん。大丈夫」
「えー?でもさせてほしいな。浮腫みやすくなってるからね」
恭介はそうしてお腹の中にいる子供の本当の父であるかのように、紬を献身的に支えた。
紬はそれに感謝をするのと同時に、どうしてそうしてくれる相手が時雨では無いのだろうと切なくなる時がある。
そして、体調が戻り子供が生まれた時のことを考えると紬の心には寂しさが広がった。
なぜなら紬は恭介と離れることになると思っているからだ。
恭介は温かい。
上手く話せなくても、伝えたいことをしっかり汲み取ってくれる優しい人。
できることなら、この人に子供の父親になってほしい。
そうすればきっと、子供も優しく温かい人に育つだろうから。
「あの……」
「ん?」
「……赤ちゃん、生まれたら……」
「えっ、赤ちゃん生まれそう?お腹痛い?」
「あ、違う、違うくて……生まれたら、抱っこ……してあげて、ほしい」
「いいのっ!?」
紬はコクコク頷き、嬉しそうな恭介の表情を見て柔らかく口角を上げる。
この人が父親だったら、きっと幸せな家庭が築けるんだろうな。
ふとそんな考えが過り、慌てて首を左右に振った。
そんな未来はきっと来ないから。
一方その頃、恭介は葛藤していた。
『赤ちゃんが生まれたら抱っこしてあげてほしい』なんて、そんなことを言ってもらえると思っていなかったから。
恭介は体調不良の紬がずっと心配だった。
目の前で倒れた後、病院で子供と離れ離れにならないように必死だった姿が頭から離れない。
だからこそ自分が何かをすることで彼を助けられるなら……と思ってこの生活が始まったわけだが、最近は紬の体調の良い日も多くなってきたし、ほんのり笑ってくれることも増えた。
嬉しさを感じる一方で、紬を手放したくないなとαの欲が湧いてくる。
最近では、どうにかこうにか丸め込んで紬を自分のものにできないかと企むこともしばしば。
「あ!蹴った……!」
「え、赤ちゃん?蹴ったの?」
「うん……ほら、ここ触ってて」
膨らんだお腹に触れる。
自分が紬の番で、本当にこの子供の父親になったかのような気分だった。
──だから、許せなかった。
ある日の夜、仕事から帰ると紬がシクシク泣いていた。
どうしたのかと問いかけると、元番から連絡があったとのこと。
『あの時は酷い事をしてごめんなさい。連絡が欲しい。』
見せられたスマホの画面。そこに羅列された文字を読んで、恭介は憤慨し表情を落とした。
少し苦しそうだし、動きもゆったりしている。
恭介はそんな紬が心配で、心配されている本人が過保護だなと思うくらいにはいつも傍にいた。
段差などがあると必ず体を支えてくれるし、転ばないようにと手を貸してくれる。
紬は大変有難いと思うと同時に、俺達の関係って何だろうと頭を悩ませていた。
初めの頃は緊張や不安、そして番を解消したせいで起きる体調不良から、いつも恭介を疑っていた。
だが恭介は定期的に病院に連れて行ってくれる上に、上手く話したり動くことができない紬を決して嫌がることなく、それどころかいつも丁寧に優しく接してくれる。
なので少しずつ心を開き、恭介に対しては微笑んだり、小さなことならお願いもできるようになった。
休日の今日、恭介が少し運動をしようと言い、二人で散歩に出かけていた。
暫く歩いた後、小さくフゥと息を吐いた紬を見て予定より随分早く帰宅することに。
「はい、ただいまぁ。ちょっと疲れちゃったね。お腹は痛くない?」
「ん、痛くない」
「よかった。あ、後で足マッサージしようね。」
「ううん。大丈夫」
「えー?でもさせてほしいな。浮腫みやすくなってるからね」
恭介はそうしてお腹の中にいる子供の本当の父であるかのように、紬を献身的に支えた。
紬はそれに感謝をするのと同時に、どうしてそうしてくれる相手が時雨では無いのだろうと切なくなる時がある。
そして、体調が戻り子供が生まれた時のことを考えると紬の心には寂しさが広がった。
なぜなら紬は恭介と離れることになると思っているからだ。
恭介は温かい。
上手く話せなくても、伝えたいことをしっかり汲み取ってくれる優しい人。
できることなら、この人に子供の父親になってほしい。
そうすればきっと、子供も優しく温かい人に育つだろうから。
「あの……」
「ん?」
「……赤ちゃん、生まれたら……」
「えっ、赤ちゃん生まれそう?お腹痛い?」
「あ、違う、違うくて……生まれたら、抱っこ……してあげて、ほしい」
「いいのっ!?」
紬はコクコク頷き、嬉しそうな恭介の表情を見て柔らかく口角を上げる。
この人が父親だったら、きっと幸せな家庭が築けるんだろうな。
ふとそんな考えが過り、慌てて首を左右に振った。
そんな未来はきっと来ないから。
一方その頃、恭介は葛藤していた。
『赤ちゃんが生まれたら抱っこしてあげてほしい』なんて、そんなことを言ってもらえると思っていなかったから。
恭介は体調不良の紬がずっと心配だった。
目の前で倒れた後、病院で子供と離れ離れにならないように必死だった姿が頭から離れない。
だからこそ自分が何かをすることで彼を助けられるなら……と思ってこの生活が始まったわけだが、最近は紬の体調の良い日も多くなってきたし、ほんのり笑ってくれることも増えた。
嬉しさを感じる一方で、紬を手放したくないなとαの欲が湧いてくる。
最近では、どうにかこうにか丸め込んで紬を自分のものにできないかと企むこともしばしば。
「あ!蹴った……!」
「え、赤ちゃん?蹴ったの?」
「うん……ほら、ここ触ってて」
膨らんだお腹に触れる。
自分が紬の番で、本当にこの子供の父親になったかのような気分だった。
──だから、許せなかった。
ある日の夜、仕事から帰ると紬がシクシク泣いていた。
どうしたのかと問いかけると、元番から連絡があったとのこと。
『あの時は酷い事をしてごめんなさい。連絡が欲しい。』
見せられたスマホの画面。そこに羅列された文字を読んで、恭介は憤慨し表情を落とした。
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