ダイヤモンド・リリー

ノガケ雛

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第1章

第35話

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 発情期が始まってから少し。
 琉生はベランダに一人でいた。
 抑制剤が効いてくると両手で顔をパンっと挟むように叩き、室内に戻ってスマホで今の佑里斗に必要な物を検索する。


 まずは抑制剤。これは彼自身が持っているので良いとして、後は飲み物と消化しやすい食べ物。それから汗をかくので着替えも必要らしい。肌触りのいいものは刺激が少なくて発情期中のオメガにとって良いらしく、後で買いに行くことにした。
 発情期と風邪が重なってしまうのは大変しんどい様なので、そうならないように定期的に体を拭いてあげなければならない。


「……抑制剤、余分に飲んどかないとな」


 ベータならまだしも、うっかりフェロモンに負けて項を噛んでしまっては取り返しのつかないことになる。
 琉生は先に買い物に行こうと、佑里斗の部屋の前から声をかけた。返事はなかったけれど苦しそうな声が聞こえてきて心配になる。

 すぐに帰ってこないと、と車の鍵を取って近くのショッピングモールに行き、必要なものを全て買って帰宅した。


 じんわりと汗をかいたまま、コンコンとドアをノックする。
 やはり返事は無いけれど、「入るよ」と言って中に入れば佑里斗がベッドの上で小さく丸まっていた。


「佑里斗」
「っ、ふ……せ、んぱい……」
「薬効いてきたか? 食べ物と飲み物、ここに置いてるから」
「ぅ、先輩、ごめ、ごめんなさい……」


 ポロポロと涙を流す佑里斗。
 その顔は真っ赤で、目が合うと琉生は一瞬クラッとしたのだが踏ん張って無理矢理口角を上げる。


「謝らなくていい。それより体は気持ち悪くない?」
「ん……大丈夫」
「わかった。薬、切れる前に飲んで」
「うん」
「何かあったら遠慮なく呼んで。夜中でも、いつでも」


 佑里斗は下げた目尻からポロッとまた涙を零し、小さく頷く。
 発情期なのに、アルファである彼がこんなに冷静に自分の心配をしてくれるだなんて思っていなかった。


「俺はリビングに居るから」
「……ありがとう、ございます」


 クシャッと頭を撫でられる。
 今の佑里斗にとってはそれも刺激となって少しばかり苦しいのだが、それでも彼の手は温かくて、ホッと小さく安堵の息を吐いた。
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