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第1章
第21話
しおりを挟むその日、佑里斗は最後まで講義に出るとゆっくりした足取りで家を目指した。
琉生は既に帰宅しており、あらかた家事を済ませているところだろう。
せめてお風呂洗いだとか洗濯物を畳むことだとかの仕事を残してくれていたら、全てをしてもらうことに対しての申し訳なさが薄れるのでいいのだけれど。
そんな佑里斗の気持ちを琉生は知らないので、家に着き、片付けや掃除を終えて料理を作っている琉生を見て、有難いことには間違いないのだが少しだけガクッと肩を落とした。
「お、おかえり」
「……ただいま」
「どした?」
「……先輩、俺にもすること残しといてくださいね。ここに住まわせてもらってるから少しくらい役に立ちたいので」
佑里斗は眉を八の字にして薄く笑う。
琉生はハテナを頭に浮かべ、小首を傾げた。
「別に時間があったからやっただけだし、役には立ってる」
「何もしてないのに役には立ててないよ」
「話し相手がいるのっていいよ。くだらないこと言い合えるのは楽しい」
「……」
「それより体調は?」
佑里斗は少し不満げに「大丈夫です」と呟くと、それを拾った琉生は安心したように口角を上げた。
「よかった。もう少ししたらご飯できるから、ゆっくりしときな」
穏やかな表情の琉生をちらっと見た佑里斗はハッとした。
「先輩」
「んー?」
体調のことを考えてくれてた彼の優しい行動なのに、それに対して不満を見せてしまうのは逆に失礼なのではと思えてきたのだ。
これまでそういった『誰かに助けてもらう』経験が殆どなかったので、できることは自分で何でもしないとと囚われていた。
「気遣ってくれてありがとうございます」
「気遣うというか、当たり前というか……」
その当たり前を佑里斗は知らない。
胸の中がほんわか暖かくなる。
「それでも、こうして色々してくれる人、初めてだから……。申し訳なく思ってたけど……厚意を無碍にするのは良くないですよね」
「……お前は普段からいろいろ考えすぎなんだよ。俺といる時くらい何も考えずにぼんやりしてればいい」
彼の言葉に苦笑を零した佑里斗は、もう一度お礼を言うと彼の言葉に甘えて夜ご飯まで休ませてもらうことにした。
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