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ルティアはまだまだ甘えん坊

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 魔法の練習もそこそこに、その日は特に何もなく平穏な一夜を過ごすことになったバルトとルティア。

 その日以降、朝はバルトの傍らでルティアは剣を振り回して遊び、夜はバルトと魔法の練習をするのがルティアの日課になっていった。

 朝の剣の素振りは遊びみたいなものだ。

 ルティアはポヨを相手に木剣を振るが、どうにも当たる気配がない。というよりは日に日にポヨの回避が旨くなっている印象だ。

 どうやら、ポヨもルティア同様にほんの少しずつではあるが鍛えられているらしい。

 数日経つ頃には、決して広くない庭でポヨはルティアの一撃を受けることなく追いかけっこをするに至っていた。

「スライムも成長するんだなあ」

 跳ねて逃げ回るポヨと、それを追って木剣を振りかぶったままトテトテ走るルティアの姿を、庭の中央で座って眺めていたバルトが苦笑する。 

 走る事、追いかける事に集中してしまい、ルティアは剣を触れないでいたが、そんな事よりどちらかというとポヨとの追いかけっこが楽しいのか、ルティアは額や頬から汗を滲ませ、それでもキャッキャと笑いながらポヨを追いかけまわしている。

 こうなると、追いかけられているポヨが可哀そうに見えてきそうなものだが、ポヨはポヨでその状況を楽しんでいるようで、時折疲れて足を止めたルティアを中心に、周囲を円形にピョンピョン跳ねていた。

 それがどうにもバルトにはポヨが「もう疲れたのか? 俺はまだまだ元気だぜ?」と、ルティアを煽っているように見え、可笑しくなって笑ってしまう。

「さあて、今日の朝の鍛錬は終わりだ。風呂入るぞ風呂」
 
「ポヨに負けたの」

「鍛錬に勝ち負けなんて無い……いや、そうでもねえか。俺も兄弟子との鍛錬は対抗意識むき出しだったしなあ」

 鍛錬で使った斧を担ぎ上げ、バルトはほくそ笑みながら立ち上がると髪をかき上げて南の空を仰ぎ、その方向で今も冒険者稼業に勤しんでいるであろう兄弟子の事を思い出していた。
 
「バルトのお兄ちゃん?」

「実の兄じゃねえぞ?。俺より先に師匠に戦い方を教えてもらってた人の事だ」

「その人はバルトより強い?」

「うーむ。正直に言っちまうと俺より強い。本人の前では絶対言わんがな!」

 修業時代や兄弟子と共に赴いた戦場での事を思い出し、バルトは不服そうに声を上げると自宅の武器庫に斧を放り投げた。

「ねえバルト?」

「んあ? なんだ?」

「私のししょーはバルトになるの?」

「ん~? まあ、そうなるんじゃないか?」

「じゃあ私も大人になったらぼーけんしゃになるね」

「はっはっは! そうかあ、そりゃあ」

 そりゃあいいや、と言おうとして。不意にバルトは少しばかり前に思い描いた未来のルティアの姿を再び思い出して言葉を詰まらせた。
 自分に似て粗暴でガサツに育ったワイルドなルティア。
 それはそれで有りだなあと思いつつ、それでも、せっかくならやっぱり可愛いまま成長してほしいと思うのは親心、というよりはバルトの我儘か。 
 バルトは廊下の途中で立ち止まるとルティアに向かって振り返り、しゃがみ込んでポンとルティアの頭に手を置いた。

「べ、別に今俺から剣や魔法を教わってるからって絶対冒険者にならなきゃなんねえってことは無いんだぞルティア。お前の未来はお前が決めるもんだ、俺はどうこう言うつもりはねえ……ん? 今どうこう言ってるな俺。ま、まあアレだ。ほれ、未来は無限に広がってるってやつさ。ルティアはまだ子供だからなあ。これから頑張ればなんにだってなれるんだ。冒険者はもちろんだが、お花屋さんとか、お医者さんとか、商人とか色々な。だから、無理して危ない仕事である冒険者になんてならなくていいんだぞ?」

 冷や汗を滲ませながら、どうにか冒険者以外の道を示そうとするバルト。
 しかし、ルティアは子供特有の頑固さをここで発揮「やだ。私もぼーけんしゃになる!」と、バルトの手を頭に乗せたまま首を横に振った。

「お、おおそうか。そうかあ、まいったなこりゃ」

 頬を膨らませてご立腹のルティアに圧され、バルトはルティアの頭から手を離すと降参するように両手を上げて困ったように苦笑する。
 そんなバルトの様子を見てか、ルティアは俯いてポツリと一つ、言葉をこぼした。

「バルトは、私と一緒にぼーけんいやなの?」
 
 そのルティアの言葉に、バルトはため息を一つ吐き出して苦笑すると再びルティアの頭に手を乗せてグリグリと撫で、そのあとルティアの腰に手を伸ばすとバルトはルティアを抱え上げる。

「まったく嫌ではないなあ。それはそれで面白そうな未来だ。でも本当に覚えていて欲しいのは、俺はその未来を強制しないってこった。
 今後成長すりゃあ考え方も変わるかもしれんからな。ルティアはルティアの生きたいように生きてくれ。俺は年長者として、親として助言はしてやるからよ」

 まあ、その助言も正しいかは分からんがな。という出掛けた言葉を吐かずに飲み込んで、バルトはルティアを抱えたまま風呂場へと向かう。

 バルトの言葉を全ては理解したわけでは無いのだろうが、それでもバルトが自分を大事に思っているということは伝わったのだろう、その日は一日中ルティアはバルトの側から離れず甘え、隙あらば抱っこをねだったのだった。
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