上 下
26 / 47

スライムの名前は?

しおりを挟む
 良く晴れた青い空に、白い雲が流れて太陽を隠す。
 落ちた雲の影の下。
 バルトはルティアを連れて町の真ん中にある冒険者ギルドへと向かっていた。

 本日のバルトの服装は白い半袖シャツに黒いズボン。
 ルティアは肩出しの水色のワンピースで少し涼しげな印象だ。

 温暖期も半ば、これからの気候は徐々に気温が上がっていく。
 今日などはそんななかでもやや暑い日になりそうだと思い、バルトが服を選んだのだ。

「スライムの名前はどうすっかなあ~」

「スライムの名前? スライムじゃないの?」

 他の冒険者や衛兵に勘違いされて攻撃されないように、小脇にスライムを抱え、ルティアと手を繋いで歩いていたバルトの呟きに、ルティアがバルトを見上げて首を傾げた。

「スライムは種族の名前だ。俺達人間に人間さんって言ってるようなもんだ。変じゃね?」

「変かも。じゃあ名前はどうするの?」

「それを考えてるんだよ。ペットなんて飼った事ないからなあ」

 そんな事を言うバルトだが、そもそも子供を引き取って育てている事自体初めての事だというのを彼は忘れている。

 徐々にだが、確実にバルトの生活にルティアが溶け込んできているという事なのだろう。

 結局、バルトはスライムの名前を考え付かないまま冒険者ギルドに到着してしまった。

 扉を開けると、見知った冒険者達が受付け横の掲示板で受ける依頼を探しているのが見えたが、バルトの出現に、その冒険者達が振り返った。

「バルトさんちわっす」

「よおバルト」

「こんちわー」

「よう。オメェら今から仕事か?」

 挨拶をしてきた冒険者達に挨拶を返し、バルトは受付に向かって歩いていくが、本日は丁度受付ラッシュの時間だったようで、しばらく待つ事になりそうだ。

「バルト。そのスライムは?」

「それがよお。昨日ルティアを連れて川に行ったんだが、そこから家まで着いて来てな。まあしゃあねえから飼うかってなってなあ」

「はー。スライムをねえ。で、そっちが、噂の引き取った娘ちゃんか。似てねえ」

「当たり前だろうが。血の繋がりはねえんだからよ。っつうか、噂って何んだ?」

「まあ本人は聞かねえっすよねえ。最近噂になってるんすよ。この町一番の冒険者が子供を奴隷商から助けて引き取ったらしいって」

「ちょっと情報が食い違ってるな。俺はコイツをその奴隷商から直接引き取っただけで、別に助けたわけじゃねえよ」

「そうなんすか?」

 とまあ、交友のある冒険者達と雑談していると、受付前にいた冒険者や依頼者の列が捌けたので、バルトは仕事仲間達に「そんじゃ、依頼頑張れよ」と一言いって別れ、ルティアの手を引いて受付カウンターに向かった。

「冒険者ギルドへようこそ。バルトさん、今日はお仕事ですか? ご依頼ですか?」

 受付けの冒険者ギルド職員の女性に言われ、バルトは首を横に振る。
 
「今日はコイツの飼育許可を貰いに来たんだが」

「え? スライム?」

「おう。昨日色々あってな。飼うことにしたんだ」

「へえ~。仕事一辺倒だったバルトさんがねえ。やっぱりお子さんが出来た影響ですか?」

「馬鹿。そんなんじゃねえよ」

 受付けの女性に反論しつつ、内心は「まあ多分そうだろうな」と思いながらバルトは小脇に抱えていたスライムをカウンターの上に乗せ、代わりにルティアを抱き上げた。

 ルティアがスライムに手を伸ばし、それに応えるようにスライムも体の一部を伸ばして手を繋ぐ。
 それを見ていた受付けの女性職員は、和やかな雰囲気に微笑みながら飼育許可書を取り出して受付けカウンターの上、スライムの横にそれを置いた。

「ではバルトさん。名前とギルドカードの登録番号、飼育する魔物の種類と、あとこっちに魔物の名前を記入してください」

「へいへい」

 女性職人に言われるままに、差し出された記入用紙に必要事項を記入していくバルトだったが、最後の欄。飼育する魔物の名前でペンが止まった。

「どうされました?」

「ああいや。まだ名前決めて無くてなあ」

「ポヨちゃん!」

 バルトがペンを止めて悩んでいると、小脇に抱えていたルティアが声を掛けて上げた。
 その声量に驚き、バルトはペンを取り落とす。

「ポヨ?」

「ポヨポヨしてるから、このスライムさんはポヨちゃんなの」

「ポヨか。まあ、ルティアがそれで良いならそうするか」

 カウンターの上に落としたペンを拾い、バルトは用紙の最後の記入欄に「ポヨ」と書いて記入用紙とペンを受付けに返した。

「もうすっかりお父さんですね」

「まだまだ新米だがな」

 女性職員の言葉に微笑み、肩をすくめながら答えるバルト。
 そんなバルトの優しい笑みに、女性職員は少しばかり頬を赤らめた。

「バルトさんがそうやって笑うの初めて見ました」

「んあ? そんな事無くねえか?」

「いえ、初めてです」

「そうか」

 用紙とペンを受け取った女性職員は受付けを立つと奥の事務室へと向かって行った。
 
 そしてしばらく待っていると、紙を2枚程持って女性職員が再び姿を現し、受付けに座るとその紙をバルトに差し出した。

「こちらが許可証で、こっちは結界用の貼り紙です。スライムが、ああいえ、ポヨちゃんが逃げないようにご自宅の敷地の真ん中辺りに貼り付けてくださいね」

「結界なんぞ無くても大丈夫だと思うがな」

「まあスライムですので、保護が無ければすぐに死んでしまいますから」

「ああそう言う事か。分かった、ありがとう。すまねえ、手間取らせたな」

「いえいえ、仕事ですので」

「じゃあ俺達はこれで帰るわ。ルティア、お礼言っとけ」

「うん。お姉ちゃん、ありがとーございます」

 バルトに言われ、お礼を言ったルティアを下に下ろし、差し出された書類を丸めてズボンのポケットに突っ込むと、バルトはスライムを抱えて受付けカウンターから下に、ルティアの横に下す。
 そして、2人と1匹は受付けに背を向けると、出口に向かって歩き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...