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お届け物

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 昨夜のうちに、ルティアの新しいワンピースを洗濯しなかった事を後悔しながら、バルトは下着の上に自分のシャツを着せたルティアとリビングのソファで寛いでいた。

 特に何をするでなく、今日届くはずの昨日買ったルティアの服か家具屋で注文したクローゼットが届くのを待つ2人。

 並んで座るバルトとルティア。
 暇を持て余したのはルティアだった。
 バルトの体に頭を預け、しまいにはズリズリと崩れ落ちるように足を組んで座っているバルトの膝に頭を預けた。

「どうした? 眠いのか?」

「うん。ちょっと、眠たい」

 思えば、今朝はルティアのおねしょ騒動でまだ暗い時間に2人は目を覚ましている。
 冒険者として働いているバルトならいざ知らず、まだまだ幼いルティアは耐えがたい眠気に襲われていた。

「寝とけ寝とけ。眠いなら寝てな、誰も怒ったりしねえからよ」

「うん。ちょっと、寝る」

 その言葉を最後に、ルティアは目を閉じてバルトの膝の上で眠りについた。
 気持ち良さげに眠るルティアの寝顔には微笑みが浮かんでいる。 

 よほど安心しているのだろうか、しまいには口を開けて完全に脱力していった。

「はは。悪くねえなこういうのも」

 膝の上に感じるルティアの体温、子供の暖かさにバルトは絆され、微笑みを浮かべた。

 そして、なんだかんだでバルトも睡魔に襲われ、特に抵抗する事なくバルトは意識を手放そうとする。

 だが、座ったまま寝て、体勢を崩してしまってはルティアを起こしてしまうかと考え、バルトは起こさないようにゆっくりルティアを抱えると、ソファの肘掛けを枕に見たてて寝そべると、自分の上にルティアを寝かせた。

「俺が寝返りをうってルティアが落ちたら、その時はすまんな」

 バルトは自分の腹の上で寝かせたルティアの背中に手を乗せて、ウトウトしながら呟くと、今度こそ睡魔の誘惑に逆らわずに目を閉じた。

 それからしばらくバルトとルティアは眠っていた。
 しばらく、というよりは太陽が高く上って昼頃までは2人は夢の中だった。

 しかし、バルトの自宅の玄関がノックされた事で、バルトはハッと目を覚ます。
 ルティアはまだまだ夢の中から目覚めてきそうには無い。

 バルトはルティアをそっと抱えると、今度はソファにそのまま寝かせて自身はノックの聞こえた玄関へと向かった。

「バルト・ネールさぁん。エルフの衣服屋でえす」
 
「へいへい、すまんね。今開けるわ」

 玄関の扉の向こう側から聞こえて来た女性の声に、バルトは丸いドアノブの中央に嵌め込まれた魔石に触れる。
 カチャンと聞こえてきた開錠の音。
 玄関の扉を開くバルト。

 扉を開いたその先には衣服屋の制服を着用した女性と、荷物運びの男が乗ってきた馬車から服が入っているであろう箱を店員の後ろに往復して運んでいるのが見えた。

「お買い上げありがとうございます。店主のミシェル様からコレを預かってきました」

 玄関を開けたバルトに、スカートの裾を摘んで広げて深々と礼をした衣服屋の女性店員は、着ている制服の開いた胸元に手を突っ込んで一枚の手紙を取り出した。

「ご覧になります?」

「ああ、見せてくれ」

 女性店員の言葉にそう答え、バルトは手紙を受け取ると封を破いて中身を取り出す。
 
 その手紙はミシェルからの物だった。
 手紙の最後にミシェルの名前とハートが描かれているので、バルトは顔を引きつらせている。

 さて、内容はというと「フランシアから来た行商人から噂で聞いた話だけど」と前置きされた後で、要約すると「フランシアの貴族ご用達の大手奴隷商の息子が奴隷を連れて家から逃げたらしい。今気になる情報はこれだけ」と手紙には書かれていた。

「新鮮な情報どうも。主人に引き続き頼むって伝えておいてくれ」

かしこまりましたわ」

 バルトの言葉に再び頭を下げる女性店員。
 
 バルトは手紙を魔法を使って燃やした後、荷運びの男と女性店員に箱を自宅内に運ぶように伝え、3人で玄関先に服の入った箱全てを移動すると、チップを渡して女性店員と荷運びの男、2人が去るのを見送った。
 
 その直後だ。
 バルトの自宅の敷地の外に衣服屋の馬車とは意匠の違う馬車が一台止まった。

 馬車の荷台には木材が積まれている。
 となれば家具屋の馬車だというのは理解に難くなかった。

「バルト・ネールさんのお宅はここだったかな?」

「親方ぁ。ボケたのか? 隠居しな隠居」

「馬鹿言ってんなよ坊主。俺は生涯現役だ」

 馬車から降りてきたのは背の低い、髭をたくわえた初老の男性だ。
 一見ずんぐりむっくりに見えるが、その実服の下は鍛えられた筋肉に覆われている。

 彼はバルトの知り合いのドワーフだ。

「昨日店に来た時は驚いたぞ。まさかお前さんが娘をなあ。しかもその娘の為に家具を新調するなんて、人間分からんもんだな」

「本当にな。俺が一番驚いてるよ。今のルティアがいる生活、別に悪くねえなって思い始めてる」

「っは。一丁前に親気取りか。だが、まだまだだぞバルト。引き取ったからにぁ、ちゃんと幸せにしてやってこそ親ってもんだからな」

「幸せねえ。あいつの幸せはあいつが掴むもんだろ? 俺がわざわざ口出さなくても」

「っかあー。分かってないなあお前さんは。まあまだ新米の父親だしなあ」

「俺は別にアイツの父親じゃないが」

「バルト、お前、絶対それあの子の前で言うなよ?」

「へいへい了解しましたよ。だからとっとと頼むぜ親方」

 家具屋から仕事を請け負った大工の親方のドワーフにそう言って、バルトは玄関を開けたまま一旦自宅に戻ると「とりあえず箱はリビングに入れるか」とルティアの服が入った箱をリビングに押し込んだ。

 その後、バルトは親方にクローゼットを置く場所を伝え、あとは親方とその弟子達に任せて自分はリビングに戻り、未だに目覚めないルティアの横に腰を下ろした。

「ルティアの幸せか。どうしてやるのが良いのかねえ」

 ルティアの頭に手を置いて、そんな事を呟くバルト。
 彼は気付かなかったが、この時、バルトは優しげにルティアに向かって微笑んでいた。
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