元アラフィフ令嬢はお父様の薄い本が作りたい 聖女を愛で運命を破壊する腐道を逝く

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
6 / 12

鍵を開けて欲しかっただけですが、気が変わりました

しおりを挟む
冒険者ギルドに行く分の時間が余ってしまったが、のんびりしている余裕はない。
ディートリンデは図書室へと急ぎ足で向かった。
フォールハイト帝国には新聞がある。
ディートリンデは印刷技術についてはよく知らないが、帝国貴族宛には日々届くようになっているのだ。
帝都で作られるものなので、辺境に至ると二週間以上のズレが出来る事もある。
父の用事に合わせて社交期間を早目に切り上げて、領地に戻って来たのでこの土地には5日程度の誤差で届く。
特に急ぎではないので、誤差は問題無さそうだ。

冒険者の中でも若手で有名なパーティであったのなら、新聞に載っている可能性も高い。
過去3年分の新聞の束を用意して貰い、若い順に読んでいく。

「……これかしら?」

怪我による引退、とだけ短い記事がある。
パーティ名は暁光。

その名前を留め置いて、更に古い記事を読むと、幾つかの冒険の記録が見つかった。
そして、仲間の情報も出てくる。

聖騎士クラウス、剣士カンナ、戦士ダーウィド、神官フィリーチェ、斥候アレン、魔術師イオル

この斥候約を務めているのが、紹介される予定のアレンだろう。
TRPGだとシーフやローグ等、盗賊系に属しているが、現実的には犯罪者ではない。
犯罪にも使える能力がある、というだけだ。
斥候は危険察知や危機回避能力に長けている為、偵察したり、扉や宝箱の罠や鍵を解除する。
犯罪者にもギルドは存在するのだろうが、表向きは存在していないだろう。
冒険者としての生業を終えた後、斥候の能力を生かして狩人になる人々も多いと聞く。
仕事内容も加味した上で、デニスがツェーザルを伴なって来たのはそういう事なのだろう。

能力的には申し分なさそうで、安心してディートリンデは新聞を元の場所に戻した。

挿絵がある事はあるが、写真が無いのがもどかしい。
印刷の技術も今のままではコピー本程度が関の山だ。
もちろんそれはそれでいいのだが、やはりオフセット……大量印刷……
原理は何となく分かるのだが、魔法でこう、うまいこと何とかならないだろうか、
とディートリンデは図書室を見回した。

やはり、下地が無いでは話にならない。

きゅっと形の良い唇を引き結ぶと、ディートリンデは参考になりそうな本を探し始めた。
魔法の本に、政治経済、歴史に図鑑等々、とりとめはないが、別系統の読みやすそうな本を一通り選び出し、
グレーテに部屋まで運んでもらった。
魔道具を開発するにしても、まずは魔法の基礎が必要だし、
逆に何の関連もなさそうな本でもひらめきを与えられる事もある。
ディートリンデは静かに本を開いて、読み始めた。

アレンの第一印象は

チャラい。

である。
まるでホストのようにツンツンと盛ったような金髪に、後ろ髪は結ぶほどの量ではないが少し長い。
顔も何だか軽薄そうで、だが整ってはいる。
目の色は薄萌黄で、薄くて明るめの緑色のせいか、目つきは鋭く見えるがやんちゃな雰囲気のせいで、
少し子供っぽく見えるのが可愛らしい。
冒険者というだけあって、筋肉はついているものの、背は170cm前半といったところだろうか。
身軽でないと斥候は務まらないので、体重も動きも軽そうだ。

「で、あんたみたいなお嬢ちゃんが、盗賊スキル学びたいって?」
「盗賊といいますか、罠の発見、作成、設置、解除、それから鍵開けですわね」

ふっふーん、と鼻歌のように拍子をつけて、アレンは笑った。

「で、何すんの?犯人探し?って聞いたけど、それだけ?」
「色々出来るようになりたいのですわ。ここまで来たという事は、条件が気に入ったのではなかったのですか?」

有名なパーティだったから、後援者もいた筈だし、まだ引退から間もないので、お金に窮したという事はあまり考えられない。
としても、早ければ一週間で解放される、破格の収入ではあるはずだ。

「んーん、興味あってさ。どんなお嬢様がそんな珍しい事言ってるのかって。でもま、断るわ」
「何故ですの?」

アレンは、フン、と肩を竦めて尊大な態度で足をぞんざいに組んだ。

「別に俺じゃなきゃいけないって仕事でもなさそうだし、ガキの相手ってだけで面倒だろ」
「そうですの。でもわたくし、貴方の力量を知りませんの。この箱の鍵、開ける事が出来まして?」

つい、と机の上に先日阻まれて開けられなかった小箱を載せて、アレンの方へ押す。

「断るって言ってんだから、別にいいじゃねえか」

馬鹿にしたような目に、ディートリンデは口角を上げて微笑んだ。

「まあ、自信がありませんのね。有名な冒険者だと聞いたのだけれど、偽者だったのかしら?
残念ですわ。お帰り頂いて結構です。次は、これを開けられる人を紹介するようにとお伝えくださいませ」

「あ?ふざけんな。開けられねえなんて言ってねえだろ?」
「あら?貴族の様に曖昧な口上で逃げたのかと思いましたのよ」

口に手を当てて、笑って見せると、アレンはイライラした様子で、箱を一瞬で開けて見せた。
手甲に忍ばせていたピンの様な物を使って、少し弄っただけで魔法のように開いたのだ。

「ほらよ」

「まあ」

興味なさげに、机に放られた箱は、カタリと音を立てた。
手にとって小箱の蓋を持ち上げると、嘘のようにすんなりと開いて、中に手紙があるのが確認できた。
ディートリンデはそれを見て、ほくそ笑む。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...