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鍵を開けて欲しかっただけですが、気が変わりました

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冒険者ギルドに行く分の時間が余ってしまったが、のんびりしている余裕はない。
ディートリンデは図書室へと急ぎ足で向かった。
フォールハイト帝国には新聞がある。
ディートリンデは印刷技術についてはよく知らないが、帝国貴族宛には日々届くようになっているのだ。
帝都で作られるものなので、辺境に至ると二週間以上のズレが出来る事もある。
父の用事に合わせて社交期間を早目に切り上げて、領地に戻って来たのでこの土地には5日程度の誤差で届く。
特に急ぎではないので、誤差は問題無さそうだ。

冒険者の中でも若手で有名なパーティであったのなら、新聞に載っている可能性も高い。
過去3年分の新聞の束を用意して貰い、若い順に読んでいく。

「……これかしら?」

怪我による引退、とだけ短い記事がある。
パーティ名は暁光。

その名前を留め置いて、更に古い記事を読むと、幾つかの冒険の記録が見つかった。
そして、仲間の情報も出てくる。

聖騎士クラウス、剣士カンナ、戦士ダーウィド、神官フィリーチェ、斥候アレン、魔術師イオル

この斥候約を務めているのが、紹介される予定のアレンだろう。
TRPGだとシーフやローグ等、盗賊系に属しているが、現実的には犯罪者ではない。
犯罪にも使える能力がある、というだけだ。
斥候は危険察知や危機回避能力に長けている為、偵察したり、扉や宝箱の罠や鍵を解除する。
犯罪者にもギルドは存在するのだろうが、表向きは存在していないだろう。
冒険者としての生業を終えた後、斥候の能力を生かして狩人になる人々も多いと聞く。
仕事内容も加味した上で、デニスがツェーザルを伴なって来たのはそういう事なのだろう。

能力的には申し分なさそうで、安心してディートリンデは新聞を元の場所に戻した。

挿絵がある事はあるが、写真が無いのがもどかしい。
印刷の技術も今のままではコピー本程度が関の山だ。
もちろんそれはそれでいいのだが、やはりオフセット……大量印刷……
原理は何となく分かるのだが、魔法でこう、うまいこと何とかならないだろうか、
とディートリンデは図書室を見回した。

やはり、下地が無いでは話にならない。

きゅっと形の良い唇を引き結ぶと、ディートリンデは参考になりそうな本を探し始めた。
魔法の本に、政治経済、歴史に図鑑等々、とりとめはないが、別系統の読みやすそうな本を一通り選び出し、
グレーテに部屋まで運んでもらった。
魔道具を開発するにしても、まずは魔法の基礎が必要だし、
逆に何の関連もなさそうな本でもひらめきを与えられる事もある。
ディートリンデは静かに本を開いて、読み始めた。

アレンの第一印象は

チャラい。

である。
まるでホストのようにツンツンと盛ったような金髪に、後ろ髪は結ぶほどの量ではないが少し長い。
顔も何だか軽薄そうで、だが整ってはいる。
目の色は薄萌黄で、薄くて明るめの緑色のせいか、目つきは鋭く見えるがやんちゃな雰囲気のせいで、
少し子供っぽく見えるのが可愛らしい。
冒険者というだけあって、筋肉はついているものの、背は170cm前半といったところだろうか。
身軽でないと斥候は務まらないので、体重も動きも軽そうだ。

「で、あんたみたいなお嬢ちゃんが、盗賊スキル学びたいって?」
「盗賊といいますか、罠の発見、作成、設置、解除、それから鍵開けですわね」

ふっふーん、と鼻歌のように拍子をつけて、アレンは笑った。

「で、何すんの?犯人探し?って聞いたけど、それだけ?」
「色々出来るようになりたいのですわ。ここまで来たという事は、条件が気に入ったのではなかったのですか?」

有名なパーティだったから、後援者もいた筈だし、まだ引退から間もないので、お金に窮したという事はあまり考えられない。
としても、早ければ一週間で解放される、破格の収入ではあるはずだ。

「んーん、興味あってさ。どんなお嬢様がそんな珍しい事言ってるのかって。でもま、断るわ」
「何故ですの?」

アレンは、フン、と肩を竦めて尊大な態度で足をぞんざいに組んだ。

「別に俺じゃなきゃいけないって仕事でもなさそうだし、ガキの相手ってだけで面倒だろ」
「そうですの。でもわたくし、貴方の力量を知りませんの。この箱の鍵、開ける事が出来まして?」

つい、と机の上に先日阻まれて開けられなかった小箱を載せて、アレンの方へ押す。

「断るって言ってんだから、別にいいじゃねえか」

馬鹿にしたような目に、ディートリンデは口角を上げて微笑んだ。

「まあ、自信がありませんのね。有名な冒険者だと聞いたのだけれど、偽者だったのかしら?
残念ですわ。お帰り頂いて結構です。次は、これを開けられる人を紹介するようにとお伝えくださいませ」

「あ?ふざけんな。開けられねえなんて言ってねえだろ?」
「あら?貴族の様に曖昧な口上で逃げたのかと思いましたのよ」

口に手を当てて、笑って見せると、アレンはイライラした様子で、箱を一瞬で開けて見せた。
手甲に忍ばせていたピンの様な物を使って、少し弄っただけで魔法のように開いたのだ。

「ほらよ」

「まあ」

興味なさげに、机に放られた箱は、カタリと音を立てた。
手にとって小箱の蓋を持ち上げると、嘘のようにすんなりと開いて、中に手紙があるのが確認できた。
ディートリンデはそれを見て、ほくそ笑む。
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