侯爵夫人の嫁探し~不細工な平民でもお嫁に行けますか?

ひよこ1号

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受け取らない贈り物の話

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「有難く存じます。……こ、侯爵家はお食事だけでなく、お菓子も美味しゅうございますね」

とりあえず、話を別な方向に向けるように私は微笑んだ。
そして、クッキーをもしゃもしゃと食べる。
美味しい。
今日のクッキーには刻んだチョコレートが入っているのだ。
ほわあっと甘みが広がって、ほろ苦いチョコレートの味が入り混じる。
実に美味しい。
無心で食べていると、無言の圧を感じた。

えっ?

まだ三枚しか食べてないのに、何でそんなに見てくるの?

ディオンルーク様は優しい笑みを浮かべている。
レオナ様は呆れたような目で見てくる。
マリエ様は怒ったような目をしていて、モニカ嬢は仕方ないなという困った笑顔。
ハンナ嬢とリーディエ嬢は蔑むような眼だ。

いや、私が食べてるの見てないで、令息と会話したらいいじゃない!

「あの……何か?」

私が問いかけると、答えたのはディオンルーク様だった。

「美味しそうに食べる姿が可愛いと思ってね。邪魔してすまない」
「あ、いえ……」

そんな事言われたことがない。
言われたことがないから、私の頬がかあっと熱くなる。
嫌味を言われるよりも、恥ずかしい。
あれ?もしかして嫌味だった?
いやいや……そんな事はない?かな?

でもこれじゃあ、思うように食べられない。

美味しいのに。
美味しいのに。

私は初めて「食事も喉を通らない」を体験する羽目になってしまった。

「さて、申し訳ないが、少し用事を思い出してしまった。今日はここで失礼するよ」

ディオンルーク様がさっと、立ち上がる。
私達もそれに合わせて立ち上がった。

「代わりに明日、またお茶をしよう」

にこっと爽やかな笑顔を浮かべたディオンルーク様に、皆が淑女の礼を執る。

彼は颯爽と立ち去って行き。
私は安心してお菓子に手を伸ばした。

「何なのよ、貴女……」

ハンナ嬢がワナワナと震えて睨み付けてくる。

手にお菓子を持ったまま、私はそれを見上げた。

「え?このお菓子、食べてはいけなかったのですか?」

「お菓子じゃないわよ!!」

お菓子じゃないのか。
じゃあいいか。
私は怒られながらも、お菓子を口に入れた。
美味しい。

「食べてるんじゃないわよ!!」

あ、食べるのは駄目なのか。
私はとりあえず、お菓子を自分のお皿に確保して、怒れるハンナ嬢を見上げた。

「少し、お静まりなさい。きっと訳が分かっていないわ」

マリエ様が冷静な声でハンナ嬢を嗜め、ハンナ嬢はキッと私を見つめた。

「貴女が黙っていたせいで、わたくし達が恥をかいたじゃないの!」
「そうよ!」

ハンナ嬢に続いてリーディエ嬢が強く同意した。
甘く残る口の中のお菓子を飲み込んで、私は首を傾げる。

「黙っていた?」
「その首飾りが、侯爵夫人から拝借した物だって事をよ!」

激高したハンナ嬢が私の首元をびしりと指さした。
目を吊り上げて、頬を紅潮させているけれど、それでもハンナ嬢は美しい。

美人て得よね……ああ、いけない、いけない。
そういう話じゃなかったわ。

私は、ほんの少し息を吸い込み考えを吐き出す。

「では罵られた宝飾品を、侯爵夫人の物だと申し出たとして、侯爵夫人の嗜好を貶めた事になりませんか?わたくしの事はどう思われても言われても構いませんけれど、侯爵夫人の名誉を穢すような事をしたくはございませんの。自分が罵られ、その自分を守るために、尊き御名を盾に使えと仰いますの?」

二人は驚きに目を見開いた。
今までそうやって、何かしらの権力を振り翳してきたのだろう。
それを使わないと言われたのは初めてだったのかもしれない。

「……は?何も、そんな事は……」
「ディオンルーク様がお気づきにならなければ、口に出すことはありませんでした。わたくしは別に誰かを貶めたいとは思っていませんから」

口篭もったハンナ嬢に、私は自分の気持ちを伝える。
だって、誰かが次期侯爵夫人になるかもしれないし、私はそもそも庶民で平民で、貴族に逆らえる立場じゃない。

「……でもそうなったじゃないっ」

そこまで私の所為にされても。
リーディエ嬢の文句に、私はため息を吐く。

「わたくしが貴女から贈り物を頂いたとして、わたくしが受け取らなかったらどうなりますか?」

激高していた二人はきょとんとその言葉に疑問符を浮かべる。
代わりにモニカ嬢が答えた。

「お二人に戻されますね」
「そうです。悪意や悪口もそうです。受け取らなければ、持ち主に返る、それだけの事でございます。わたくしの行動に悪意は無かったとわたくしは分かっていますが、貴女がたが他人の持ち物を貶すという行為はどうでしょうか?」

二人は黙り込む。
他者を笑い者にしたのは事実。
その持ち物が、他人の物だったとしても、やった事は変わらない。
そして、それは、貴族社会では当たり前、と言われてきたのだろうか?
他人と比べ、自分の方が優位だと力を見せつけるのは大事な事だが、それは相手を貶める事で示すものではないと思う。
だが、私には貴族として生きてきた経験はないので、自分なりの見解を伝えた。

「貴族ではありませんでしたが、わたくしは商いに携わって参りました。他人を蔑んだり貶めたりする事で、人は離れていきますし、敵も作ります。それは商売をする上で邪魔にしかなりません。出来るだけより良い関係を作るのが、わたくしは最善だと思っておりますの」

それから、早く紅茶が飲みたいし、お菓子も食べたい。
だって、調理場の皆様が心を込めて、作って下さったんですよ。
美味しいし。

私がちらちらとお菓子に目を向けるのを見てか、レオナ様が笑いを滲ませた声で言った。

「もう良いでしょう。お互いの言い分は伝わりましたから、お茶を頂いて解散致しましょう」

「はい」

意気消沈した二人は、敵意ある眼差しは向けるものの、レオナ様の言葉に従って渋々と席に着いた。
遠慮なく私もお菓子に手を伸ばす。

やっぱり、美味しい。

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