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悪女の誤算
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ディアドラの人生は、概ね順調だった。
使用人として仕えた公爵家の夫人が亡くなり、公爵を篭絡して子供を産んだまでは良かったが、その後に持ち得た権力に浮かれすぎて転がり落ちるまでは。
人々から背を向けられて、やっと孤立した事に気づいた時にはもう公爵の心も完全に離れていた。
優しくしようにもヒルシュは学園の寮に入り、干渉も出来なくなって、彼は自由に学園生活を謳歌した。
成績も良く、見目麗しいヒルシュには、侯爵令嬢のフローラという婚約者がいつのまにか出来ていたのだ。
家同士ではなく、当人同士が学園で出会っての恋愛結婚だったので、ディアドラの知る由も無かった。
気付いた時には、両家で話し合いも終わっていて、婚約した後に全て知らされた。
片やディアドラの息子のディーンが恋したのは子爵令嬢で、それもディアドラは気に入らなかった。
邪魔しようとしても、うまくいかない。
何故なら新しい嫁候補を物色しようにも、ディアドラの伝手など皆無だったからだ。
むしろ、あんな後妻のいる家に入れば何をされるか分からないと言われる始末である。
結局、伯爵家の妻になら子爵令嬢が無難だよ、というディーンに返す言葉もなかったのであった。
自分が折角公爵夫人となったのに、何故息子は伯爵なのか、とディアドラが恨んだのは言うまでもない。
更に、公爵を継ぐヒルシュの妻となるフローラは侯爵令嬢として美しく優しく、品のある女性だった。
だがフローラ主催で開かれる公爵家の茶会の席にも、ディアドラが出る事は許されない。
「お前が顔を出して、また評判が落ちたらどうする」
冷たく公爵に言われてしまえば、逆らうことも出来ない。
対抗して別のお茶会を開こうとしても、出席する人間は低位貴族ばかりでは話にならなかった。
高位貴族からの招待状も、ディアドラにだけ届かない。
どんなに後悔して、その後努力をしたところで、披露する場はもう無かった。
夫と先妻の産んだ優秀な義息と、美しく上品な侯爵令嬢だった嫁が、仲良く煌びやかな夜会へと出かけていく。
静かにずっと蚊帳の外に置かれ続けて、ディアドラは恨みを深めていった。
「許さない……絶対に……」
機会があれば、全てを奪おうとディアドラは蛇の様に狙い続けた。
後継者であるカッツェがヒルシュとフローラの間に生まれて、ディーンの所にもその後子供は生まれたのだが、女だと聞いて、ディアドラは酷く落胆した。
嫁のリアーヌにも、男を産みなさいと癇癪をおこしたけれど、それとは別にディアドラとディーンの色を受け継ぐシヴィアはとても可愛く思えて、心が癒されたのである。
リアーヌから取り上げて、ディーンを連れてよく散歩へと出かけた。
それが後に別の確執を産むとは気づかないまま。
そうやって可愛がっている内に情が湧き、ディアドラは欲を出した。
三人を喪えば、公爵の地位を譲るしかなくなる。
お忍びで出かけた時に見た、下らない戯曲がその背を押した。
事故を装って、三人が死ねば良いのだと。
だが、その目論見は惜しくも外れた。
後継者のカッツェだけが、生き残ってしまったのである。
だから、公爵にも毒を盛った。
一日も早くその爵位を奪う為に。
そして今、漸く自分の愛する孫娘が後継となる事が決められたのである。
ディーンは確かに優秀ではなかった。
だが、その娘のシヴィアが飛びぬけて優秀なら問題は無い。
ディアドラにとっては、愛しい娘だ。
天から授けられた美しい娘は、ディアドラの窮地をこれからも救ってくれるだろう。
やっと幸福になれるのだと、ディアドラは満足げに微笑んだ。
使用人として仕えた公爵家の夫人が亡くなり、公爵を篭絡して子供を産んだまでは良かったが、その後に持ち得た権力に浮かれすぎて転がり落ちるまでは。
人々から背を向けられて、やっと孤立した事に気づいた時にはもう公爵の心も完全に離れていた。
優しくしようにもヒルシュは学園の寮に入り、干渉も出来なくなって、彼は自由に学園生活を謳歌した。
成績も良く、見目麗しいヒルシュには、侯爵令嬢のフローラという婚約者がいつのまにか出来ていたのだ。
家同士ではなく、当人同士が学園で出会っての恋愛結婚だったので、ディアドラの知る由も無かった。
気付いた時には、両家で話し合いも終わっていて、婚約した後に全て知らされた。
片やディアドラの息子のディーンが恋したのは子爵令嬢で、それもディアドラは気に入らなかった。
邪魔しようとしても、うまくいかない。
何故なら新しい嫁候補を物色しようにも、ディアドラの伝手など皆無だったからだ。
むしろ、あんな後妻のいる家に入れば何をされるか分からないと言われる始末である。
結局、伯爵家の妻になら子爵令嬢が無難だよ、というディーンに返す言葉もなかったのであった。
自分が折角公爵夫人となったのに、何故息子は伯爵なのか、とディアドラが恨んだのは言うまでもない。
更に、公爵を継ぐヒルシュの妻となるフローラは侯爵令嬢として美しく優しく、品のある女性だった。
だがフローラ主催で開かれる公爵家の茶会の席にも、ディアドラが出る事は許されない。
「お前が顔を出して、また評判が落ちたらどうする」
冷たく公爵に言われてしまえば、逆らうことも出来ない。
対抗して別のお茶会を開こうとしても、出席する人間は低位貴族ばかりでは話にならなかった。
高位貴族からの招待状も、ディアドラにだけ届かない。
どんなに後悔して、その後努力をしたところで、披露する場はもう無かった。
夫と先妻の産んだ優秀な義息と、美しく上品な侯爵令嬢だった嫁が、仲良く煌びやかな夜会へと出かけていく。
静かにずっと蚊帳の外に置かれ続けて、ディアドラは恨みを深めていった。
「許さない……絶対に……」
機会があれば、全てを奪おうとディアドラは蛇の様に狙い続けた。
後継者であるカッツェがヒルシュとフローラの間に生まれて、ディーンの所にもその後子供は生まれたのだが、女だと聞いて、ディアドラは酷く落胆した。
嫁のリアーヌにも、男を産みなさいと癇癪をおこしたけれど、それとは別にディアドラとディーンの色を受け継ぐシヴィアはとても可愛く思えて、心が癒されたのである。
リアーヌから取り上げて、ディーンを連れてよく散歩へと出かけた。
それが後に別の確執を産むとは気づかないまま。
そうやって可愛がっている内に情が湧き、ディアドラは欲を出した。
三人を喪えば、公爵の地位を譲るしかなくなる。
お忍びで出かけた時に見た、下らない戯曲がその背を押した。
事故を装って、三人が死ねば良いのだと。
だが、その目論見は惜しくも外れた。
後継者のカッツェだけが、生き残ってしまったのである。
だから、公爵にも毒を盛った。
一日も早くその爵位を奪う為に。
そして今、漸く自分の愛する孫娘が後継となる事が決められたのである。
ディーンは確かに優秀ではなかった。
だが、その娘のシヴィアが飛びぬけて優秀なら問題は無い。
ディアドラにとっては、愛しい娘だ。
天から授けられた美しい娘は、ディアドラの窮地をこれからも救ってくれるだろう。
やっと幸福になれるのだと、ディアドラは満足げに微笑んだ。
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