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冷たい家族たち
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「貴女、字は書ける?」
「……いいえ」
「では覚えなさい。今回はいいわ、図書室に私を案内してから、部屋に家令を待機させておいて」
「は、はい」
ルハリは慌てて扉を開けて、きょろきょろと周囲を確認してから図書室へ歩き出す。
「お止めなさい。やましい事があるように見えるわ。堂々となさい」
「は、はい」
幼い少女に言われて、まだ年若い小間使いであるルハリは背を伸ばして歩いて行く。
図書室で簡単な読み書きの本と、歴史書に領地の経営に関する本と、領地の地誌を持ってシヴィアは部屋に戻ると、既に家令が部屋に待機していた。
隣には、ルハリも立っている。
「貴方の名前は」
「カルシファーと申します」
「では、カルシファー、貴方の忠誠は何処にあるのか教えて」
突然家にやってきた少女の言葉に、カルシファーは瞠目した。
「レミントン公爵家にございます」
「いいわ。個人に対しての忠誠は」
「エルフィア・レミントン公爵閣下でございます」
「宜しい。では、この紙に使用人の目録を書きなさい。お祖父様に忠誠を誓う者と、お祖母様の息のかかった者、余すことなく全部よ。ルハリにも確認するし、明日はお祖父様にも見せて確認するわ」
眉を上げたが、それ以上の表情は見せずに、カルシファーは首を横に振る。
「お祖父様にお見せしたあとは燃やすから、誰に伝わる事も無いわ。不安だったら貴方か貴方の信用できる部下に監視させなさい」
そこまでシヴィアが言うと、カルシファーは深く、最敬礼をしてから白い紙に名前を書き入れ始めた。
じっと、それを目で追いながら、シヴィアは持ってきた薄い本をルハリに渡す。
「これは部屋に持ち帰って良くってよ。文字を覚えるのに使いなさい。あと、お茶の用意をして」
「あ、は、はい」
ルハリは本を受け取ると、慌てた様に部屋から出て行った。
暫くすると、お茶と茶器を載せたワゴンを押して戻ってくる。
その頃にはカルシファーも一覧を書き終えていた。
「ルハリを私付きにする事には問題があって?」
「まだ教育も足りず、気が利かぬ娘ですが、素直な娘でございますので、取り立てて問題は無いかと」
「あくまでも侍女ではなく、侍女見習いという事で部屋付きにするわ」
カルシファーは薄く笑みを浮かべて敬礼をし、ルハリを見る。
ルハリは慌てた様にシヴィアに深くお辞儀をした。
「が、頑張ります」
「お茶が冷めてしまってよ」
早速注意を受けて、そそくさと茶を注いでシヴィアの前に出す。
その紅茶はレミントン公爵家の治める領地でよく収穫されるお茶だった。
お茶の味も悪くない。
ルハリを見れば、これ以上渋さが出ないようにと茶器を傾けている。
「お茶を淹れるのは上手なのね。良かったわ。ではカルシファー、明日朝食の後迎えの者を寄越して。出来ればお祖母様を遠ざけてほしいけれど、無理はしないでいいわ」
***
晩餐の時間になると、晩餐用のドレスに着替えて晩餐室へと向かう。
煌びやかな装飾のある豪華な部屋は、伯爵家の屋敷よりも遥かに立派だった。
「まぁまぁ、シヴィアは何て美しいのかしら」
大袈裟にディアドラが喜んで見せる。
シヴィアも愛らしい笑顔でディアドラに微笑んだ。
「お祖母様の足元にも及びませんわ。それに、とても素敵な装飾品をお持ちですのね」
「気に入ったのなら、いつか貴女に譲りましょう」
上機嫌で答えるディアドラと正反対に母のリアーヌはぎこちない笑顔でやり取りを見ている。
シヴィアは母の自慢をする道具にはされても、面と向かって褒められることはない。
祖母がシヴィアだけを誉める事が、フローレンスを無視しているように見えてリアーヌは怒っているのだ。
だからこそ、シヴィアもちらりと母を一瞥したが誉める事はしない。
「嬉しゅうございます、お祖母様」
笑顔を向けて膝を屈して挨拶をすれば、さらに祖母の笑みは深まる。
そのまま母の前を通り過ぎて自分に用意された席へとシヴィアは歩いて行く。
この二人の確執は色々と利用できそうだ、と冷たい気持ちを浮かべながら。
「……いいえ」
「では覚えなさい。今回はいいわ、図書室に私を案内してから、部屋に家令を待機させておいて」
「は、はい」
ルハリは慌てて扉を開けて、きょろきょろと周囲を確認してから図書室へ歩き出す。
「お止めなさい。やましい事があるように見えるわ。堂々となさい」
「は、はい」
幼い少女に言われて、まだ年若い小間使いであるルハリは背を伸ばして歩いて行く。
図書室で簡単な読み書きの本と、歴史書に領地の経営に関する本と、領地の地誌を持ってシヴィアは部屋に戻ると、既に家令が部屋に待機していた。
隣には、ルハリも立っている。
「貴方の名前は」
「カルシファーと申します」
「では、カルシファー、貴方の忠誠は何処にあるのか教えて」
突然家にやってきた少女の言葉に、カルシファーは瞠目した。
「レミントン公爵家にございます」
「いいわ。個人に対しての忠誠は」
「エルフィア・レミントン公爵閣下でございます」
「宜しい。では、この紙に使用人の目録を書きなさい。お祖父様に忠誠を誓う者と、お祖母様の息のかかった者、余すことなく全部よ。ルハリにも確認するし、明日はお祖父様にも見せて確認するわ」
眉を上げたが、それ以上の表情は見せずに、カルシファーは首を横に振る。
「お祖父様にお見せしたあとは燃やすから、誰に伝わる事も無いわ。不安だったら貴方か貴方の信用できる部下に監視させなさい」
そこまでシヴィアが言うと、カルシファーは深く、最敬礼をしてから白い紙に名前を書き入れ始めた。
じっと、それを目で追いながら、シヴィアは持ってきた薄い本をルハリに渡す。
「これは部屋に持ち帰って良くってよ。文字を覚えるのに使いなさい。あと、お茶の用意をして」
「あ、は、はい」
ルハリは本を受け取ると、慌てた様に部屋から出て行った。
暫くすると、お茶と茶器を載せたワゴンを押して戻ってくる。
その頃にはカルシファーも一覧を書き終えていた。
「ルハリを私付きにする事には問題があって?」
「まだ教育も足りず、気が利かぬ娘ですが、素直な娘でございますので、取り立てて問題は無いかと」
「あくまでも侍女ではなく、侍女見習いという事で部屋付きにするわ」
カルシファーは薄く笑みを浮かべて敬礼をし、ルハリを見る。
ルハリは慌てた様にシヴィアに深くお辞儀をした。
「が、頑張ります」
「お茶が冷めてしまってよ」
早速注意を受けて、そそくさと茶を注いでシヴィアの前に出す。
その紅茶はレミントン公爵家の治める領地でよく収穫されるお茶だった。
お茶の味も悪くない。
ルハリを見れば、これ以上渋さが出ないようにと茶器を傾けている。
「お茶を淹れるのは上手なのね。良かったわ。ではカルシファー、明日朝食の後迎えの者を寄越して。出来ればお祖母様を遠ざけてほしいけれど、無理はしないでいいわ」
***
晩餐の時間になると、晩餐用のドレスに着替えて晩餐室へと向かう。
煌びやかな装飾のある豪華な部屋は、伯爵家の屋敷よりも遥かに立派だった。
「まぁまぁ、シヴィアは何て美しいのかしら」
大袈裟にディアドラが喜んで見せる。
シヴィアも愛らしい笑顔でディアドラに微笑んだ。
「お祖母様の足元にも及びませんわ。それに、とても素敵な装飾品をお持ちですのね」
「気に入ったのなら、いつか貴女に譲りましょう」
上機嫌で答えるディアドラと正反対に母のリアーヌはぎこちない笑顔でやり取りを見ている。
シヴィアは母の自慢をする道具にはされても、面と向かって褒められることはない。
祖母がシヴィアだけを誉める事が、フローレンスを無視しているように見えてリアーヌは怒っているのだ。
だからこそ、シヴィアもちらりと母を一瞥したが誉める事はしない。
「嬉しゅうございます、お祖母様」
笑顔を向けて膝を屈して挨拶をすれば、さらに祖母の笑みは深まる。
そのまま母の前を通り過ぎて自分に用意された席へとシヴィアは歩いて行く。
この二人の確執は色々と利用できそうだ、と冷たい気持ちを浮かべながら。
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