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頼れる相棒
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「おお、何と麗しい姫君か……これはこれは、勿体無い。ふむ、もう少し使い道を考えねばならんな」
「何を…口を慎め!」
最初は大袈裟に褒めちぎり、後半は蛇のようにねっとりと観察するような目を向けた男に、まさかのルドルフが反抗した。
少し驚いた顔をしてみせたものの、ロードス卿は大袈裟に最敬礼する。
「これはこれは殿下、まさかこの短い時間で篭絡されるなど、やはりお血筋ですかな?おい、姫君を丁重に案内せよ」
「止めろ!汚い手で触れるな!」
必死で止めようとするルドルフを振り返り、マリアローゼは人差し指を唇に当てて、微笑んだ。
「殿下、お静かになさいませ。あと、お約束をお忘れなきよう」
静かに囁くと、マリアローゼはルドルフから離れて、身を翻した。
「わたくしは自分で歩いて参りますから案内だけなさい。この身に触れたら、腕ごと切り落としますわよ」
「これは、また、帝国にお輿入れ戴くには良き姫君だ。聖女だなんだと言われていたが、重畳重畳」
無礼な言い方ではあるが、喜んでいるようだ。
マリアローゼは脅えたように案内する騎士の後ろに付いて、部屋を出て行こうとして振り返った。
「勿論、晩餐には招待してくださるのよね?」
「ええ、ええ、勿論ですとも。ご馳走を用意致しますし、お部屋にはドレスも用意してございます」
途端に慇懃無礼になったロードス卿を見て、マリアローゼは微笑んで部屋を後にした。
騎士の後ろをついて、二階分ほど階段を下りた船倉に、その場にそぐわない豪華な扉が付いている。
その扉の横には兵士がいて、開けられた扉から中へ入ると、美しく整えられた部屋になっていた。
調度品は女性に合わせて用意してあるのを見ると、持ち主の妻が乗船した時に使う部屋なのかもしれない。
それか、こうして誰かを拉致して閉じ込める部屋なのか。
背後で戸が閉められて、マリアローゼは部屋の中を見て回った。
部屋の中には人はいない。
両隣の部屋の壁に耳を付けてみるが、物音や人の話し声もしない。
最後に船の外側に耳をピッタリ付けている所で、入ってきた男と目があった。
オルサスだ。
「失礼致します。ルドルフ殿下の命を受けてまかり越しました」
「わたくしは逃げませんわ。それよりオルサス、殿下の近くにいて守っておあげなさい」
何故名指しされたのか、何故逃げないと言うのか、色々な考えで混乱したオルサスは、口を開けたまま数瞬立ち尽くした。
「は……しかし」
「あと、出来るだけ貴方の部下はこの部屋の近くに近づけない事。もし上に漕ぎ手がいるなら、それもです」
「………承知致しました」
オルサスは扉に向かいかけて足を止める。
そして静かに問いかけた。
「何故貴方は、殿下を助けようと?」
そう言われてマリアローゼの頭に浮かんだのは、きぐるみを着たトナカイのルドルフだった。
何故かと問われれば、可愛いから、である。
「昔飼っていた動物に似ていたからです」
「動物…」
(しまった!わたくしまだ5歳……!)
あわてたものの、オルサスは動物の方に気持ちを向けてくれたようで、ほっと胸を撫で下ろす。
マリアローゼはいらん事に気づかれてはいけない、とばかりに、オルサスに言った。
「あの男の事ですから、貴方にも見張りを付けているでしょう。何か聞かれたら、わたくしがドレスを気に入って、晩餐の食事を楽しみにしていると伝えなさい。あとくれぐれも殿下の身を守る事、良いですわね?」
「は」
今度こそ頭を深く下げて、オルサスは扉から出て行った。
また突然誰かが入ってくるのは面倒なので、小さなテーブルを動かして、ドアの取っ手の下に配置する。
そして、胸から可愛くて頼りになる相棒を取り出した。
そう、スライムのロサである。
「何を…口を慎め!」
最初は大袈裟に褒めちぎり、後半は蛇のようにねっとりと観察するような目を向けた男に、まさかのルドルフが反抗した。
少し驚いた顔をしてみせたものの、ロードス卿は大袈裟に最敬礼する。
「これはこれは殿下、まさかこの短い時間で篭絡されるなど、やはりお血筋ですかな?おい、姫君を丁重に案内せよ」
「止めろ!汚い手で触れるな!」
必死で止めようとするルドルフを振り返り、マリアローゼは人差し指を唇に当てて、微笑んだ。
「殿下、お静かになさいませ。あと、お約束をお忘れなきよう」
静かに囁くと、マリアローゼはルドルフから離れて、身を翻した。
「わたくしは自分で歩いて参りますから案内だけなさい。この身に触れたら、腕ごと切り落としますわよ」
「これは、また、帝国にお輿入れ戴くには良き姫君だ。聖女だなんだと言われていたが、重畳重畳」
無礼な言い方ではあるが、喜んでいるようだ。
マリアローゼは脅えたように案内する騎士の後ろに付いて、部屋を出て行こうとして振り返った。
「勿論、晩餐には招待してくださるのよね?」
「ええ、ええ、勿論ですとも。ご馳走を用意致しますし、お部屋にはドレスも用意してございます」
途端に慇懃無礼になったロードス卿を見て、マリアローゼは微笑んで部屋を後にした。
騎士の後ろをついて、二階分ほど階段を下りた船倉に、その場にそぐわない豪華な扉が付いている。
その扉の横には兵士がいて、開けられた扉から中へ入ると、美しく整えられた部屋になっていた。
調度品は女性に合わせて用意してあるのを見ると、持ち主の妻が乗船した時に使う部屋なのかもしれない。
それか、こうして誰かを拉致して閉じ込める部屋なのか。
背後で戸が閉められて、マリアローゼは部屋の中を見て回った。
部屋の中には人はいない。
両隣の部屋の壁に耳を付けてみるが、物音や人の話し声もしない。
最後に船の外側に耳をピッタリ付けている所で、入ってきた男と目があった。
オルサスだ。
「失礼致します。ルドルフ殿下の命を受けてまかり越しました」
「わたくしは逃げませんわ。それよりオルサス、殿下の近くにいて守っておあげなさい」
何故名指しされたのか、何故逃げないと言うのか、色々な考えで混乱したオルサスは、口を開けたまま数瞬立ち尽くした。
「は……しかし」
「あと、出来るだけ貴方の部下はこの部屋の近くに近づけない事。もし上に漕ぎ手がいるなら、それもです」
「………承知致しました」
オルサスは扉に向かいかけて足を止める。
そして静かに問いかけた。
「何故貴方は、殿下を助けようと?」
そう言われてマリアローゼの頭に浮かんだのは、きぐるみを着たトナカイのルドルフだった。
何故かと問われれば、可愛いから、である。
「昔飼っていた動物に似ていたからです」
「動物…」
(しまった!わたくしまだ5歳……!)
あわてたものの、オルサスは動物の方に気持ちを向けてくれたようで、ほっと胸を撫で下ろす。
マリアローゼはいらん事に気づかれてはいけない、とばかりに、オルサスに言った。
「あの男の事ですから、貴方にも見張りを付けているでしょう。何か聞かれたら、わたくしがドレスを気に入って、晩餐の食事を楽しみにしていると伝えなさい。あとくれぐれも殿下の身を守る事、良いですわね?」
「は」
今度こそ頭を深く下げて、オルサスは扉から出て行った。
また突然誰かが入ってくるのは面倒なので、小さなテーブルを動かして、ドアの取っ手の下に配置する。
そして、胸から可愛くて頼りになる相棒を取り出した。
そう、スライムのロサである。
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