342 / 357
連載
珍しい褒美
しおりを挟む
マリアローゼはうーんと、考えてからヴァロに持ちかけた。
「その仕事の内容についてなのですけれど、わたくしでも出来るお仕事でしたら、他の子供たちにも可能でしょうか?」
「まあ、そうかもしれんな。だが、姫さんには護衛がつくだろう?例えば薬草摘みと言っても、危険が全く無い訳じゃねえからなあ。子供だけで行かせる訳にもいかんだろう」
「それは、確かにそうですわ。例えば町の中で行う簡単な依頼とかはございますか?」
ヴァロは頷きながらマリアローゼを抱き上げると、近くの椅子にちょこんと座らせた。
髭をもさもさ撫でながらうーん、と考えると、ヴァロは言った。
「ここは裕福な町ではあるんだが、例えば飼い猫を探したい貴族がいたとして、わざわざギルドに頼むくらいなら使用人にやらせるだろう。逆にちょっとした遣いを頼みたい、としても庶民なら自分でやるだろうな。だから、冒険者である必要の無い依頼は、そんなに来ない」
「そうなんですのね!でしたら、そういった町の人を助ける小さな仕事はこちらで扱っても大丈夫と言う事ですわね。例えば子守ですとか、家事ですとか」
マリアローゼの提案に、ヴァロは目を見開いた。
そんな依頼をする人間がいるのだろうか?という疑問もある。
「庶民はそこまで裕福じゃねえからなあ、どうだろうな」
「裕福じゃないからこそですわ。女性は子供が育つまで中々働けませんもの」
「ほう」
この世界では冒険者にも女性がいて、それなりに女性も働いている世界ではあるが、国によっては差別もある。
夫を失って路頭に迷う妻もいるし、片親で育てるとすると身を持ち崩す女性達も少なくない。
そして、身を持ち崩した女性はそこから抜け出せないまま、病気や暴力に晒されて長生きは出来ないのだ。
「例えば一日50銅貨の仕事があるとして、子供の預け賃は10銅貨だとしたら、預けて働きませんか?」
「それは……働くな」
ギルド長としての鋭い視線を見せ、こくん、と頷くマリアローゼを見詰めた。
需要は多くなく、されど切実に必要とされる仕事だろう。
だが、儲けを考えたら難しい。
目の前の可愛らしい幼い令嬢が、澄んだ目で訴えかけて来た。
「親子共に安全に生きていける道を作りたいのです」
「いや…女神なんて眉唾かと思ったが、たいしたもんだ。そういう事なら姫さんに何でも協力しよう」
ヴァロが大きな身体で跪いて、マリアローゼの小さな手を握った。
後ろで控えていた厳しい目をした女性も、同じ様に跪く。
(え?待って待って?
またですの!?)
話を聞いていた冒険者達も、一部涙を流しながら跪く。
兄、シルヴァインはまた遠い眼をしていた。
「あ、あの、では皆様にお願いがございます!冒険の途中、旅先で、困っている人々を見かけたら、フィロソフィ領アイテールの泉の教会に来られます様お伝え下さいませ。来られない方はお手紙でも構いません。わたくし、領民の移動許可証を王様より頂いておりますので」
ドヤっと胸を張って言い放つと、副ギルド長が眉根を寄せて訊ねた。
「わたくし、副ギルド長のヴィオレッタと申しますが、何故そのような書状を貴方様がお持ちなのでしょうか?」
マリアローゼは問いかけられて目をぱちくりした。
確かに5歳の幼女がそんなものを一国の王から貰っているのは異例の事である。
「ええと、ある事情がございまして、王様から何でも褒美を取らすと言われたので貰いましたの」
一瞬、その場がシーンとなった。
そして、ヴァロが大爆笑をして、つられて皆も笑い出した。
「そりゃあまた、剛毅な話だ!金だか宝石だかじゃないのがすげえや」
「私も誠心誠意尽くさせて頂く所存です」
ぴしりと、立ち上がったヴィオレッタが頭を深く下げた。
「今の時期、祭りの開催に向けてこちらに向けて旅立つ人々もございますれば、冒険者を雇う人々もおります。その者達にも呼びかけましょう。早速他のギルドへ手紙を用意して参ります」
それだけ告げるとさっさと奥に走って行った。
「ああ、あいつがあんなにやる気出すの何年ぶりだ。姫さんは他人に火をつけるのが上手いな」
(そんな、人を放火魔みたいに仰らないで…!)
「その仕事の内容についてなのですけれど、わたくしでも出来るお仕事でしたら、他の子供たちにも可能でしょうか?」
「まあ、そうかもしれんな。だが、姫さんには護衛がつくだろう?例えば薬草摘みと言っても、危険が全く無い訳じゃねえからなあ。子供だけで行かせる訳にもいかんだろう」
「それは、確かにそうですわ。例えば町の中で行う簡単な依頼とかはございますか?」
ヴァロは頷きながらマリアローゼを抱き上げると、近くの椅子にちょこんと座らせた。
髭をもさもさ撫でながらうーん、と考えると、ヴァロは言った。
「ここは裕福な町ではあるんだが、例えば飼い猫を探したい貴族がいたとして、わざわざギルドに頼むくらいなら使用人にやらせるだろう。逆にちょっとした遣いを頼みたい、としても庶民なら自分でやるだろうな。だから、冒険者である必要の無い依頼は、そんなに来ない」
「そうなんですのね!でしたら、そういった町の人を助ける小さな仕事はこちらで扱っても大丈夫と言う事ですわね。例えば子守ですとか、家事ですとか」
マリアローゼの提案に、ヴァロは目を見開いた。
そんな依頼をする人間がいるのだろうか?という疑問もある。
「庶民はそこまで裕福じゃねえからなあ、どうだろうな」
「裕福じゃないからこそですわ。女性は子供が育つまで中々働けませんもの」
「ほう」
この世界では冒険者にも女性がいて、それなりに女性も働いている世界ではあるが、国によっては差別もある。
夫を失って路頭に迷う妻もいるし、片親で育てるとすると身を持ち崩す女性達も少なくない。
そして、身を持ち崩した女性はそこから抜け出せないまま、病気や暴力に晒されて長生きは出来ないのだ。
「例えば一日50銅貨の仕事があるとして、子供の預け賃は10銅貨だとしたら、預けて働きませんか?」
「それは……働くな」
ギルド長としての鋭い視線を見せ、こくん、と頷くマリアローゼを見詰めた。
需要は多くなく、されど切実に必要とされる仕事だろう。
だが、儲けを考えたら難しい。
目の前の可愛らしい幼い令嬢が、澄んだ目で訴えかけて来た。
「親子共に安全に生きていける道を作りたいのです」
「いや…女神なんて眉唾かと思ったが、たいしたもんだ。そういう事なら姫さんに何でも協力しよう」
ヴァロが大きな身体で跪いて、マリアローゼの小さな手を握った。
後ろで控えていた厳しい目をした女性も、同じ様に跪く。
(え?待って待って?
またですの!?)
話を聞いていた冒険者達も、一部涙を流しながら跪く。
兄、シルヴァインはまた遠い眼をしていた。
「あ、あの、では皆様にお願いがございます!冒険の途中、旅先で、困っている人々を見かけたら、フィロソフィ領アイテールの泉の教会に来られます様お伝え下さいませ。来られない方はお手紙でも構いません。わたくし、領民の移動許可証を王様より頂いておりますので」
ドヤっと胸を張って言い放つと、副ギルド長が眉根を寄せて訊ねた。
「わたくし、副ギルド長のヴィオレッタと申しますが、何故そのような書状を貴方様がお持ちなのでしょうか?」
マリアローゼは問いかけられて目をぱちくりした。
確かに5歳の幼女がそんなものを一国の王から貰っているのは異例の事である。
「ええと、ある事情がございまして、王様から何でも褒美を取らすと言われたので貰いましたの」
一瞬、その場がシーンとなった。
そして、ヴァロが大爆笑をして、つられて皆も笑い出した。
「そりゃあまた、剛毅な話だ!金だか宝石だかじゃないのがすげえや」
「私も誠心誠意尽くさせて頂く所存です」
ぴしりと、立ち上がったヴィオレッタが頭を深く下げた。
「今の時期、祭りの開催に向けてこちらに向けて旅立つ人々もございますれば、冒険者を雇う人々もおります。その者達にも呼びかけましょう。早速他のギルドへ手紙を用意して参ります」
それだけ告げるとさっさと奥に走って行った。
「ああ、あいつがあんなにやる気出すの何年ぶりだ。姫さんは他人に火をつけるのが上手いな」
(そんな、人を放火魔みたいに仰らないで…!)
200
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。