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新しいお菓子と白焼き
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「お嬢様出来ました!」
という言葉と共に、油取り用の紙に、揚げた煎餅たちが転がされる。
狐色にこんがりと揚がっている。
まずはふうふうして、かり、と食べてみる。
ウニの濃厚な味と僅かな甘味が美味しい。
やはり塩は振るべきですわね。
マリアローゼは傍らに添えられた塩を、パラパラと振りかけて軽く混ぜてから、もう一粒口に運んだ。
かりかり。
さくさく。
小気味の良い音に、周囲の料理人や従僕がごくりと唾を飲み込んだ。
「さあ、召し上がって」
こくん、と満足そうに頷いたマリアローゼの言葉で、わっと周囲から手が伸びて、あっという間に空になった。
「こ、これは美味しいです、お嬢様」
「菓子に塩なんて、と思いましたがこれは……」
この世界に限った事では無いと思うが、基本的に塩は料理を作るもので、菓子を作る際にも隠し味という立場を貫いている。
そしてお茶会の華ともいうべき菓子は甘味で構成されている。
必ず、セイボリーと言う軽食も含まれるが、それは食事に近いものであって甘味ではない。
しょっぱい菓子というものが立場を確立していなかったのである。
食べられなかった他の作業組の恨めしそうな(主にユリアの)視線を受けて、うにせん組はまた作業を始めた。
「材料を使いきるまで作りますね!」
やる気である。
遠くで殺気を送っていたユリアのガッツポーズが見えた。
「ユグム、お鍋にお肉とお野菜を入れて少し煮込んでいただきたいの」
「どのお野菜に致しましょうか?」
新鮮な野菜を入れた籠を見せながら、ユグムがゆったりと微笑んだ。
真剣な顔で選んでいるマリアローゼの丸いほっぺは、被っている帽子の白さで幸せそうな薔薇色が際立っている。
選び出したのは玉ねぎとニンジンとじゃがいもだ。
もどきではあるものの、味にそこまでの乖離はないと見て、マリアローゼはユグムに指差して示した。
「焼けました!」
次はうな組である。
マリアローゼはとことこと移動して、鰻を3つに分けて切ってもらい、ユリアには目隠しをしてもらった。
「この魚の身に合うと思う調味料を振りかけてください。何種類でも良いです。ユリアさんには審査員になって頂きます」
にこにこと提案してくる幼女に、料理人達は魚の味見をしながら議論を始める。
マリアローゼは調味料と塩を持ち寄って、背伸びして調理台の上に置かれている魚の身に振りかけた。
「誰がどのお皿かは内緒ですわよ」
いつの間にか勝負の体になっていて、興味の沸いた人々が辺りに集まってくる。
「あー…目隠しして、マリアローゼ様の声だけ聞いてると、新しい扉が開きそう」
「それは閉じた方がいいですよ」
カンナの瞬殺で、ユリアはぶうと唇を尖らせて頬を膨らませた。
「妄想の邪魔はしないで下さいカンナさん!」
「妄想は駄目ですよ、ユリアさん」
そんな風にじゃれあっている二人の前に3つの皿が置かれる。
味見をしていない部分だけを切り取って置かれたので、形はほぼ同じ為見た目での判別は出来ない。
目隠しをとったユリアは、端から順番に口に入れていく。
「ふむふむ、これはこれで美味しいし、爽やかです」
「これはちょっと…うーん、私の口には合わないです」
「こ…これは100億満点です、絶対マリアローゼ様ですこれぇぇ!!」
最後の皿を食べた瞬間に、ユリアは目を見開いて叫んだ。
確かに当たっているので、周囲の人々は拍手をした。
「当たりです、ユリアさん」
「はわわああ、マリアローゼ様の手料理……」
いえ、調味料を振っただけなのですけれど…
ぐんにゃりとしたユリアを支えて苦笑するカンナは、ツッコミを控えたらしい。
マリアローゼもそれを見て、ユリアの幸せに水を差すことは諦めた。
調理台に視線を移すと、ユグムが其々ユリアに提供されなかった部分を食べて、味見をしていく。
そして、やはり最後のマリアローゼの皿でこく、と頷いた。
「美味で御座います、お嬢様」
「では残りはその様に味付けをして皆さんで味見なさってくださいませ。あと、レイ叔父様のお夜食にもお出し頂けますか?」
「はい、責任持って私が調理させて頂きます」
お辞儀をするユグムの傍らで、ノウェムも了解の意を示すように会釈をする。
この世界でどのようにしたら栄養素を知る事が出来るのかは分からないが、少なくとも知識の中で鰻は、疲労回復をして、
豊富な栄養があるのが分かっている。
普段の態度はどうあれ、ジェレイドは領民の為にきちんと働いているのだ。
「お嬢様、出来ました」
ケチャップ組の声に頷いて、マリアローゼは再び呼ばれた方へととことこ歩いて行った。
という言葉と共に、油取り用の紙に、揚げた煎餅たちが転がされる。
狐色にこんがりと揚がっている。
まずはふうふうして、かり、と食べてみる。
ウニの濃厚な味と僅かな甘味が美味しい。
やはり塩は振るべきですわね。
マリアローゼは傍らに添えられた塩を、パラパラと振りかけて軽く混ぜてから、もう一粒口に運んだ。
かりかり。
さくさく。
小気味の良い音に、周囲の料理人や従僕がごくりと唾を飲み込んだ。
「さあ、召し上がって」
こくん、と満足そうに頷いたマリアローゼの言葉で、わっと周囲から手が伸びて、あっという間に空になった。
「こ、これは美味しいです、お嬢様」
「菓子に塩なんて、と思いましたがこれは……」
この世界に限った事では無いと思うが、基本的に塩は料理を作るもので、菓子を作る際にも隠し味という立場を貫いている。
そしてお茶会の華ともいうべき菓子は甘味で構成されている。
必ず、セイボリーと言う軽食も含まれるが、それは食事に近いものであって甘味ではない。
しょっぱい菓子というものが立場を確立していなかったのである。
食べられなかった他の作業組の恨めしそうな(主にユリアの)視線を受けて、うにせん組はまた作業を始めた。
「材料を使いきるまで作りますね!」
やる気である。
遠くで殺気を送っていたユリアのガッツポーズが見えた。
「ユグム、お鍋にお肉とお野菜を入れて少し煮込んでいただきたいの」
「どのお野菜に致しましょうか?」
新鮮な野菜を入れた籠を見せながら、ユグムがゆったりと微笑んだ。
真剣な顔で選んでいるマリアローゼの丸いほっぺは、被っている帽子の白さで幸せそうな薔薇色が際立っている。
選び出したのは玉ねぎとニンジンとじゃがいもだ。
もどきではあるものの、味にそこまでの乖離はないと見て、マリアローゼはユグムに指差して示した。
「焼けました!」
次はうな組である。
マリアローゼはとことこと移動して、鰻を3つに分けて切ってもらい、ユリアには目隠しをしてもらった。
「この魚の身に合うと思う調味料を振りかけてください。何種類でも良いです。ユリアさんには審査員になって頂きます」
にこにこと提案してくる幼女に、料理人達は魚の味見をしながら議論を始める。
マリアローゼは調味料と塩を持ち寄って、背伸びして調理台の上に置かれている魚の身に振りかけた。
「誰がどのお皿かは内緒ですわよ」
いつの間にか勝負の体になっていて、興味の沸いた人々が辺りに集まってくる。
「あー…目隠しして、マリアローゼ様の声だけ聞いてると、新しい扉が開きそう」
「それは閉じた方がいいですよ」
カンナの瞬殺で、ユリアはぶうと唇を尖らせて頬を膨らませた。
「妄想の邪魔はしないで下さいカンナさん!」
「妄想は駄目ですよ、ユリアさん」
そんな風にじゃれあっている二人の前に3つの皿が置かれる。
味見をしていない部分だけを切り取って置かれたので、形はほぼ同じ為見た目での判別は出来ない。
目隠しをとったユリアは、端から順番に口に入れていく。
「ふむふむ、これはこれで美味しいし、爽やかです」
「これはちょっと…うーん、私の口には合わないです」
「こ…これは100億満点です、絶対マリアローゼ様ですこれぇぇ!!」
最後の皿を食べた瞬間に、ユリアは目を見開いて叫んだ。
確かに当たっているので、周囲の人々は拍手をした。
「当たりです、ユリアさん」
「はわわああ、マリアローゼ様の手料理……」
いえ、調味料を振っただけなのですけれど…
ぐんにゃりとしたユリアを支えて苦笑するカンナは、ツッコミを控えたらしい。
マリアローゼもそれを見て、ユリアの幸せに水を差すことは諦めた。
調理台に視線を移すと、ユグムが其々ユリアに提供されなかった部分を食べて、味見をしていく。
そして、やはり最後のマリアローゼの皿でこく、と頷いた。
「美味で御座います、お嬢様」
「では残りはその様に味付けをして皆さんで味見なさってくださいませ。あと、レイ叔父様のお夜食にもお出し頂けますか?」
「はい、責任持って私が調理させて頂きます」
お辞儀をするユグムの傍らで、ノウェムも了解の意を示すように会釈をする。
この世界でどのようにしたら栄養素を知る事が出来るのかは分からないが、少なくとも知識の中で鰻は、疲労回復をして、
豊富な栄養があるのが分かっている。
普段の態度はどうあれ、ジェレイドは領民の為にきちんと働いているのだ。
「お嬢様、出来ました」
ケチャップ組の声に頷いて、マリアローゼは再び呼ばれた方へととことこ歩いて行った。
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