悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
304 / 357
連載

恥ずかしい名前をつけないで

しおりを挟む
「そうだ、ローゼ、君は明日から料理をすると聞いているから、僕の方でグライダーの試作と試乗は任されようと思うんだが、どうだい?」
「ええ、願ってもない事でございますわ。是非、お願い致します」

出来るだけ早く製作したい部類の物だったが、どうにも忙しくて手が回らなさそうだったのである。
ついでに眠る前に考えていた、勉強についても触れてみる。

「それと、今図書館は改装中でしたので、領地や領民についての勉強は何処でなら可能でしょうか?」
「ふむ、ローゼは本当に……うん、城に古文書館があるからね、そこでなら代々の領主の事や歴史や地理も学べると思うよ。それに、ローゼの部屋は城にも勿論あるからね」

ニッコリと微笑まれて、マリアローゼはうーんと考え込んだ。
今日移動した限り、相当広いのもあって、一日に何度も往復するのは面倒と言えば面倒である。
迷っているローゼに、ジェレイドが駄目押しの提案をした。

「そうだ、どうせなら料理の開発も城の厨房を使うといい。屋敷の厨房より遥かに大きいし、材料も沢山ある。城には古文書館以外の大書庫もあるからね、本も沢山あるよ」

魅力的な申し出に、マリアローゼはこくん、と頷いた。

「では料理の開発と領地のお勉強が終りますまで、お城の方へ参りますわ」
「俺も手伝うよ」

優しい兄シルヴァインの申し出に、マリアローゼは微笑んで頷き返した。
そして、いつもの如く、兄達が付和雷同する。

「僕も行きましょう、図書館も近いですし」
「……俺も行く、練兵場も少し近い」
「「俺も俺も」」

兄達の溺愛ぶりに、ミルリーリウムはころころと笑った。

「ふふ、ではわたくしもお城に行って、お屋敷の方達に楽をして頂こうかしら」

「是非、義姉上。マリアローゼの料理も食べれますでしょうし、楽しみですね」
「まあ、それは楽しみだわ」

期待を込めた眼差しを注がれて、マリアローゼはふんす、と頷いた。

食事が終ると、ジェレイドが、そうだ、と呟いて、背後に佇んでいた給仕長に手を伸ばす。
給仕長は、小さな瓶を銀盆の上に載せて、ジェレイドの手元に差し出した。
マリアローゼの目に映ったのは、小瓶の中にある銀の粉である。

「まさか、それが……」
「そう、マリアローゼの天使の涙だよ」
「お止めくださいませ!」

恥ずかしい名称を言われて、マリアローゼは瞬時に否定した。

「それは銀砂糖というお名前にすると申し上げましたでしょう!」
「そうだったっけ?」

すっとぼけるジェレイドの手から銀の粉の入った小瓶を取り上げると、コルク栓を抜いて匂いを嗅ぐ。
特徴的な香りはしないが、ほんのり甘い匂いがする。
マリアローゼは、デザート用の小さな銀匙に、銀の粉を移してペロリと小さな舌で舐めた。

(甘い……!懐かしい甘さ……!
もう、料理に使わなくてもこのままで美味しくない?)

などと思ってしまうくらい美味しい。

「甘くて美味しいです。これなら良い物が作れそうですわ」
「俺にも」

ひょいと横から手が伸びてきて、シルヴァインは武骨な掌にさっと砂糖をふって、舐める。

「甘いな」
「私も舐めてみたいです!マリアローゼ様の乙女の涙!」
「全然違うお名前ですわ!」

遠くでハイハイと手をあげたユリアに、マリアローゼがすかさず言い返す。
ジェレイドが満足そうにうんうん、と同意しているのがちょっと腹立たしい。

シルヴァインの手から受け取って、ユリアも銀砂糖を舐めると、うんうん頷いた。

「はー、本当ですね、お砂糖だ。この世界で初めて食べました、これは…マリアローゼ様……」
「お止めください」

新たな名称を思い浮かんだ!みたいな顔をして、ツヤツヤテカテカしているユリアから、マリアローゼは目を逸らす。
だが、無慈悲にも傍らの領地代理人が声を上げた。

「聞こう!」
「マリアローゼ様、妖精姫の口付け、等は如何でしょうか!」
「分かる、分かるけど、そんな不埒な名前は駄目だね!」

(いえ、その珍妙な名前の前にわたくしの名前をつける必要あります?)

チベットスナギツネの様な色々やる気を削がれた顔をして、マリアローゼは二人の遣り取りを見詰めた。
そして、侃侃諤々と議論の続く、延々と終らない大喜利大会を見て、マリアローゼは静かに静かに言う。

「よおく、分かりましたわ。お二人とも。わたくし、口を利いて差し上げませんから」

にっこり微笑むマリアローゼを見て、我に返った二人は其々テーブルに着くまで頭を下げて、やっと大人しくなったのである。
しおりを挟む
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
感想 135

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。