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恥ずかしい名前をつけないで
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「そうだ、ローゼ、君は明日から料理をすると聞いているから、僕の方でグライダーの試作と試乗は任されようと思うんだが、どうだい?」
「ええ、願ってもない事でございますわ。是非、お願い致します」
出来るだけ早く製作したい部類の物だったが、どうにも忙しくて手が回らなさそうだったのである。
ついでに眠る前に考えていた、勉強についても触れてみる。
「それと、今図書館は改装中でしたので、領地や領民についての勉強は何処でなら可能でしょうか?」
「ふむ、ローゼは本当に……うん、城に古文書館があるからね、そこでなら代々の領主の事や歴史や地理も学べると思うよ。それに、ローゼの部屋は城にも勿論あるからね」
ニッコリと微笑まれて、マリアローゼはうーんと考え込んだ。
今日移動した限り、相当広いのもあって、一日に何度も往復するのは面倒と言えば面倒である。
迷っているローゼに、ジェレイドが駄目押しの提案をした。
「そうだ、どうせなら料理の開発も城の厨房を使うといい。屋敷の厨房より遥かに大きいし、材料も沢山ある。城には古文書館以外の大書庫もあるからね、本も沢山あるよ」
魅力的な申し出に、マリアローゼはこくん、と頷いた。
「では料理の開発と領地のお勉強が終りますまで、お城の方へ参りますわ」
「俺も手伝うよ」
優しい兄シルヴァインの申し出に、マリアローゼは微笑んで頷き返した。
そして、いつもの如く、兄達が付和雷同する。
「僕も行きましょう、図書館も近いですし」
「……俺も行く、練兵場も少し近い」
「「俺も俺も」」
兄達の溺愛ぶりに、ミルリーリウムはころころと笑った。
「ふふ、ではわたくしもお城に行って、お屋敷の方達に楽をして頂こうかしら」
「是非、義姉上。マリアローゼの料理も食べれますでしょうし、楽しみですね」
「まあ、それは楽しみだわ」
期待を込めた眼差しを注がれて、マリアローゼはふんす、と頷いた。
食事が終ると、ジェレイドが、そうだ、と呟いて、背後に佇んでいた給仕長に手を伸ばす。
給仕長は、小さな瓶を銀盆の上に載せて、ジェレイドの手元に差し出した。
マリアローゼの目に映ったのは、小瓶の中にある銀の粉である。
「まさか、それが……」
「そう、マリアローゼの天使の涙だよ」
「お止めくださいませ!」
恥ずかしい名称を言われて、マリアローゼは瞬時に否定した。
「それは銀砂糖というお名前にすると申し上げましたでしょう!」
「そうだったっけ?」
すっとぼけるジェレイドの手から銀の粉の入った小瓶を取り上げると、コルク栓を抜いて匂いを嗅ぐ。
特徴的な香りはしないが、ほんのり甘い匂いがする。
マリアローゼは、デザート用の小さな銀匙に、銀の粉を移してペロリと小さな舌で舐めた。
(甘い……!懐かしい甘さ……!
もう、料理に使わなくてもこのままで美味しくない?)
などと思ってしまうくらい美味しい。
「甘くて美味しいです。これなら良い物が作れそうですわ」
「俺にも」
ひょいと横から手が伸びてきて、シルヴァインは武骨な掌にさっと砂糖をふって、舐める。
「甘いな」
「私も舐めてみたいです!マリアローゼ様の乙女の涙!」
「全然違うお名前ですわ!」
遠くでハイハイと手をあげたユリアに、マリアローゼがすかさず言い返す。
ジェレイドが満足そうにうんうん、と同意しているのがちょっと腹立たしい。
シルヴァインの手から受け取って、ユリアも銀砂糖を舐めると、うんうん頷いた。
「はー、本当ですね、お砂糖だ。この世界で初めて食べました、これは…マリアローゼ様……」
「お止めください」
新たな名称を思い浮かんだ!みたいな顔をして、ツヤツヤテカテカしているユリアから、マリアローゼは目を逸らす。
だが、無慈悲にも傍らの領地代理人が声を上げた。
「聞こう!」
「マリアローゼ様、妖精姫の口付け、等は如何でしょうか!」
「分かる、分かるけど、そんな不埒な名前は駄目だね!」
(いえ、その珍妙な名前の前にわたくしの名前をつける必要あります?)
チベットスナギツネの様な色々やる気を削がれた顔をして、マリアローゼは二人の遣り取りを見詰めた。
そして、侃侃諤々と議論の続く、延々と終らない大喜利大会を見て、マリアローゼは静かに静かに言う。
「よおく、分かりましたわ。お二人とも。わたくし、口を利いて差し上げませんから」
にっこり微笑むマリアローゼを見て、我に返った二人は其々テーブルに着くまで頭を下げて、やっと大人しくなったのである。
「ええ、願ってもない事でございますわ。是非、お願い致します」
出来るだけ早く製作したい部類の物だったが、どうにも忙しくて手が回らなさそうだったのである。
ついでに眠る前に考えていた、勉強についても触れてみる。
「それと、今図書館は改装中でしたので、領地や領民についての勉強は何処でなら可能でしょうか?」
「ふむ、ローゼは本当に……うん、城に古文書館があるからね、そこでなら代々の領主の事や歴史や地理も学べると思うよ。それに、ローゼの部屋は城にも勿論あるからね」
ニッコリと微笑まれて、マリアローゼはうーんと考え込んだ。
今日移動した限り、相当広いのもあって、一日に何度も往復するのは面倒と言えば面倒である。
迷っているローゼに、ジェレイドが駄目押しの提案をした。
「そうだ、どうせなら料理の開発も城の厨房を使うといい。屋敷の厨房より遥かに大きいし、材料も沢山ある。城には古文書館以外の大書庫もあるからね、本も沢山あるよ」
魅力的な申し出に、マリアローゼはこくん、と頷いた。
「では料理の開発と領地のお勉強が終りますまで、お城の方へ参りますわ」
「俺も手伝うよ」
優しい兄シルヴァインの申し出に、マリアローゼは微笑んで頷き返した。
そして、いつもの如く、兄達が付和雷同する。
「僕も行きましょう、図書館も近いですし」
「……俺も行く、練兵場も少し近い」
「「俺も俺も」」
兄達の溺愛ぶりに、ミルリーリウムはころころと笑った。
「ふふ、ではわたくしもお城に行って、お屋敷の方達に楽をして頂こうかしら」
「是非、義姉上。マリアローゼの料理も食べれますでしょうし、楽しみですね」
「まあ、それは楽しみだわ」
期待を込めた眼差しを注がれて、マリアローゼはふんす、と頷いた。
食事が終ると、ジェレイドが、そうだ、と呟いて、背後に佇んでいた給仕長に手を伸ばす。
給仕長は、小さな瓶を銀盆の上に載せて、ジェレイドの手元に差し出した。
マリアローゼの目に映ったのは、小瓶の中にある銀の粉である。
「まさか、それが……」
「そう、マリアローゼの天使の涙だよ」
「お止めくださいませ!」
恥ずかしい名称を言われて、マリアローゼは瞬時に否定した。
「それは銀砂糖というお名前にすると申し上げましたでしょう!」
「そうだったっけ?」
すっとぼけるジェレイドの手から銀の粉の入った小瓶を取り上げると、コルク栓を抜いて匂いを嗅ぐ。
特徴的な香りはしないが、ほんのり甘い匂いがする。
マリアローゼは、デザート用の小さな銀匙に、銀の粉を移してペロリと小さな舌で舐めた。
(甘い……!懐かしい甘さ……!
もう、料理に使わなくてもこのままで美味しくない?)
などと思ってしまうくらい美味しい。
「甘くて美味しいです。これなら良い物が作れそうですわ」
「俺にも」
ひょいと横から手が伸びてきて、シルヴァインは武骨な掌にさっと砂糖をふって、舐める。
「甘いな」
「私も舐めてみたいです!マリアローゼ様の乙女の涙!」
「全然違うお名前ですわ!」
遠くでハイハイと手をあげたユリアに、マリアローゼがすかさず言い返す。
ジェレイドが満足そうにうんうん、と同意しているのがちょっと腹立たしい。
シルヴァインの手から受け取って、ユリアも銀砂糖を舐めると、うんうん頷いた。
「はー、本当ですね、お砂糖だ。この世界で初めて食べました、これは…マリアローゼ様……」
「お止めください」
新たな名称を思い浮かんだ!みたいな顔をして、ツヤツヤテカテカしているユリアから、マリアローゼは目を逸らす。
だが、無慈悲にも傍らの領地代理人が声を上げた。
「聞こう!」
「マリアローゼ様、妖精姫の口付け、等は如何でしょうか!」
「分かる、分かるけど、そんな不埒な名前は駄目だね!」
(いえ、その珍妙な名前の前にわたくしの名前をつける必要あります?)
チベットスナギツネの様な色々やる気を削がれた顔をして、マリアローゼは二人の遣り取りを見詰めた。
そして、侃侃諤々と議論の続く、延々と終らない大喜利大会を見て、マリアローゼは静かに静かに言う。
「よおく、分かりましたわ。お二人とも。わたくし、口を利いて差し上げませんから」
にっこり微笑むマリアローゼを見て、我に返った二人は其々テーブルに着くまで頭を下げて、やっと大人しくなったのである。
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