303 / 357
連載
目白が押してくる
しおりを挟む
薄く透ける白い布に水色と銀色で縫い取りがある袖に、袖口には同様の刺繍が施された薄絹のレースがたっぷりとついている。
青と水色、白を基調とした今日のドレスも、少女らしいふわりとした装飾美である。
ルーナはマリアローゼの髪を片側だけ結うと、リボンと共に薔薇をあしらった髪飾りで纏めた。
「お美しいです、お嬢様」
ルーナを手伝い、脱いだ服を片付けていたオリーヴェがほう、と溜息を吐いて見上げた。
「有難う、オリーヴェ、ルーナ」
感嘆の眼差しで見てくるオリーヴェだが、マリアローゼは彼女も可愛らしく美しいと思っていた。
穏やかで優しげな美貌と、控えめな雰囲気を纏っているが、いつかはドレスで飾ってみたいものである。
(何せ、ヒロインなのですものね!
きっと、殿方を虜にするはずですわ)
でも…、とマリアローゼは表情を曇らせた。
「名前を捨てさせてしまったのですわよね、わたくし、オリーヴェも立派な貴族ですのに…」
片付けた着替えを入れた編み籠を抱えたオリーヴェがきょとん、とした顔で再びマリアローゼを見上げた。
そして、猛然と首を左右に振る。
「いいえ、いいえお嬢様。わたくしは、貴族として生きたい等と思えません。……彼らの酷い仕打ちを見てきました。お嬢様が特別なのは分かっているのです。今、わたくしはこうして穏やかに不安なく暮らせるのが、どんなに幸せか、お嬢様にはどんなに感謝しているか……分かって頂きたいです」
両手を胸の前で組んで、祈るように懇願されて、マリアローゼはこくん、と頷いた。
確かに、運命や危険からは遠ざかったのである。
彼女は、馬車の事故、毒殺、と二度死んだようなものなのだ。
「そうですわね。わたくしにとっても、貴方やルーナは特別ですから、これからも一緒に暮らしましょうね。貴方が迷惑でなければ、わたくしと一緒に色々な事を学んで参りましょう」
「迷惑だなんて、そんな、とても嬉しゅうございます」
ぱああ、と浮かべる笑顔は神々しさすらあって、破壊力抜群なのである。
(これは、きちんとわたくしが保護しなければなりませんわね…!)
傍らのルーナも静かにこくこく、と頷いているが、マリアローゼから見てもルーナも美しい少女なのである。
じっと見ていると、ルーナが少し首を傾げた。
「また、この前のように女性だけの宴を開きましょうね。ルーナもオリーヴェも着飾って頂きますわ」
オリーヴェがぽかん、としている中、思い出したのか少し頬を染めたルーナは会釈を返した。
「お嬢様がお望みでしたら」
晩餐室での、家族だけの晩餐が始まった。
長い机の端には、公爵家当主のジェラルドに代わり、弟のジェレイドが座っている。
彼の左手の角には、普段なら当主の母や家族などの身分の高い女性が座るのだが、彼にとっては義姉のミルリーリウム
が座っている。
それはいいのだけれど。
ジェレイドの右手、一番格の高い家柄の女性客か、もしくは彼の妻を迎える場所にマリアローゼは座らされていた。
「この席は空席にすべきではないでしょうか?」
と恐る恐る問いかけるも、ジェレイドは笑顔で一蹴した。
「隣が空席だなんて、寂しいじゃないか。ローゼはきちんと勉強してるんだなあ」
後半は無理矢理褒めてきてにこにことしている。
マリアローゼの右側に座るシルヴァインを見ると、肩を竦めている。
色々な国で色々な仕来りはあるものの、この大陸の作法では男女交互に座る事になっている。
シルヴァインの奥にはカンナが座っていた。
更に向こうに双子が座っていて、マリアローゼを見ると手をブンブン振ってくる。
向かいの母、ミルリーリウムの隣にはキース、ユリア、ノアークの順で座っていた。
(わたくしの本来の席次はノアークお兄様のお隣では……?)
と思って見ていると、給仕による料理の配膳が始まった。
王都では一皿ずつ配られていたものの、ここでは正式な晩餐会のように給仕の差し出す大きな料理皿から、
自分の皿へと取り分けるのだ。
王都では従僕が担っていた仕事もここでは、専門の給仕がいるらしい。
取り分けながらも、周囲を観察するように見ているマリアローゼを、ジェレイドは楽しげに見詰めた。
「珍しいかい?僕も今まで1人だったから、料理を目の前にずらっと並べられる味気ない食事が多かったんだよ。でも、これから賓客を招く機会も増えるからね。給仕達もきちんと訓練しなくてはならない」
マリアローゼは自分達兄妹の為に取り入れたのかと思っていたが、別の意味もあったことにこくん、と頷いた。
確かに、これから……大変な宴が目白押しなのである。
いつだか見たことがある、鶯色の鳥がわーっと押し寄せるそんなイメージを頭に思い浮かべた。
額には黒い文字で、宴、と書いてあるのだ。
青と水色、白を基調とした今日のドレスも、少女らしいふわりとした装飾美である。
ルーナはマリアローゼの髪を片側だけ結うと、リボンと共に薔薇をあしらった髪飾りで纏めた。
「お美しいです、お嬢様」
ルーナを手伝い、脱いだ服を片付けていたオリーヴェがほう、と溜息を吐いて見上げた。
「有難う、オリーヴェ、ルーナ」
感嘆の眼差しで見てくるオリーヴェだが、マリアローゼは彼女も可愛らしく美しいと思っていた。
穏やかで優しげな美貌と、控えめな雰囲気を纏っているが、いつかはドレスで飾ってみたいものである。
(何せ、ヒロインなのですものね!
きっと、殿方を虜にするはずですわ)
でも…、とマリアローゼは表情を曇らせた。
「名前を捨てさせてしまったのですわよね、わたくし、オリーヴェも立派な貴族ですのに…」
片付けた着替えを入れた編み籠を抱えたオリーヴェがきょとん、とした顔で再びマリアローゼを見上げた。
そして、猛然と首を左右に振る。
「いいえ、いいえお嬢様。わたくしは、貴族として生きたい等と思えません。……彼らの酷い仕打ちを見てきました。お嬢様が特別なのは分かっているのです。今、わたくしはこうして穏やかに不安なく暮らせるのが、どんなに幸せか、お嬢様にはどんなに感謝しているか……分かって頂きたいです」
両手を胸の前で組んで、祈るように懇願されて、マリアローゼはこくん、と頷いた。
確かに、運命や危険からは遠ざかったのである。
彼女は、馬車の事故、毒殺、と二度死んだようなものなのだ。
「そうですわね。わたくしにとっても、貴方やルーナは特別ですから、これからも一緒に暮らしましょうね。貴方が迷惑でなければ、わたくしと一緒に色々な事を学んで参りましょう」
「迷惑だなんて、そんな、とても嬉しゅうございます」
ぱああ、と浮かべる笑顔は神々しさすらあって、破壊力抜群なのである。
(これは、きちんとわたくしが保護しなければなりませんわね…!)
傍らのルーナも静かにこくこく、と頷いているが、マリアローゼから見てもルーナも美しい少女なのである。
じっと見ていると、ルーナが少し首を傾げた。
「また、この前のように女性だけの宴を開きましょうね。ルーナもオリーヴェも着飾って頂きますわ」
オリーヴェがぽかん、としている中、思い出したのか少し頬を染めたルーナは会釈を返した。
「お嬢様がお望みでしたら」
晩餐室での、家族だけの晩餐が始まった。
長い机の端には、公爵家当主のジェラルドに代わり、弟のジェレイドが座っている。
彼の左手の角には、普段なら当主の母や家族などの身分の高い女性が座るのだが、彼にとっては義姉のミルリーリウム
が座っている。
それはいいのだけれど。
ジェレイドの右手、一番格の高い家柄の女性客か、もしくは彼の妻を迎える場所にマリアローゼは座らされていた。
「この席は空席にすべきではないでしょうか?」
と恐る恐る問いかけるも、ジェレイドは笑顔で一蹴した。
「隣が空席だなんて、寂しいじゃないか。ローゼはきちんと勉強してるんだなあ」
後半は無理矢理褒めてきてにこにことしている。
マリアローゼの右側に座るシルヴァインを見ると、肩を竦めている。
色々な国で色々な仕来りはあるものの、この大陸の作法では男女交互に座る事になっている。
シルヴァインの奥にはカンナが座っていた。
更に向こうに双子が座っていて、マリアローゼを見ると手をブンブン振ってくる。
向かいの母、ミルリーリウムの隣にはキース、ユリア、ノアークの順で座っていた。
(わたくしの本来の席次はノアークお兄様のお隣では……?)
と思って見ていると、給仕による料理の配膳が始まった。
王都では一皿ずつ配られていたものの、ここでは正式な晩餐会のように給仕の差し出す大きな料理皿から、
自分の皿へと取り分けるのだ。
王都では従僕が担っていた仕事もここでは、専門の給仕がいるらしい。
取り分けながらも、周囲を観察するように見ているマリアローゼを、ジェレイドは楽しげに見詰めた。
「珍しいかい?僕も今まで1人だったから、料理を目の前にずらっと並べられる味気ない食事が多かったんだよ。でも、これから賓客を招く機会も増えるからね。給仕達もきちんと訓練しなくてはならない」
マリアローゼは自分達兄妹の為に取り入れたのかと思っていたが、別の意味もあったことにこくん、と頷いた。
確かに、これから……大変な宴が目白押しなのである。
いつだか見たことがある、鶯色の鳥がわーっと押し寄せるそんなイメージを頭に思い浮かべた。
額には黒い文字で、宴、と書いてあるのだ。
583
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。