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薄く透ける白い布に水色と銀色で縫い取りがある袖に、袖口には同様の刺繍が施された薄絹のレースがたっぷりとついている。
青と水色、白を基調とした今日のドレスも、少女らしいふわりとした装飾美である。
ルーナはマリアローゼの髪を片側だけ結うと、リボンと共に薔薇をあしらった髪飾りで纏めた。

「お美しいです、お嬢様」

ルーナを手伝い、脱いだ服を片付けていたオリーヴェがほう、と溜息を吐いて見上げた。

「有難う、オリーヴェ、ルーナ」

感嘆の眼差しで見てくるオリーヴェだが、マリアローゼは彼女も可愛らしく美しいと思っていた。
穏やかで優しげな美貌と、控えめな雰囲気を纏っているが、いつかはドレスで飾ってみたいものである。

(何せ、ヒロインなのですものね!
きっと、殿方を虜にするはずですわ)

でも…、とマリアローゼは表情を曇らせた。

「名前を捨てさせてしまったのですわよね、わたくし、オリーヴェも立派な貴族ですのに…」

片付けた着替えを入れた編み籠を抱えたオリーヴェがきょとん、とした顔で再びマリアローゼを見上げた。
そして、猛然と首を左右に振る。

「いいえ、いいえお嬢様。わたくしは、貴族として生きたい等と思えません。……彼らの酷い仕打ちを見てきました。お嬢様が特別なのは分かっているのです。今、わたくしはこうして穏やかに不安なく暮らせるのが、どんなに幸せか、お嬢様にはどんなに感謝しているか……分かって頂きたいです」

両手を胸の前で組んで、祈るように懇願されて、マリアローゼはこくん、と頷いた。

確かに、運命や危険からは遠ざかったのである。
彼女は、馬車の事故、毒殺、と二度死んだようなものなのだ。

「そうですわね。わたくしにとっても、貴方やルーナは特別ですから、これからも一緒に暮らしましょうね。貴方が迷惑でなければ、わたくしと一緒に色々な事を学んで参りましょう」

「迷惑だなんて、そんな、とても嬉しゅうございます」

ぱああ、と浮かべる笑顔は神々しさすらあって、破壊力抜群なのである。

(これは、きちんとわたくしが保護しなければなりませんわね…!)

傍らのルーナも静かにこくこく、と頷いているが、マリアローゼから見てもルーナも美しい少女なのである。
じっと見ていると、ルーナが少し首を傾げた。

「また、この前のように女性だけの宴を開きましょうね。ルーナもオリーヴェも着飾って頂きますわ」

オリーヴェがぽかん、としている中、思い出したのか少し頬を染めたルーナは会釈を返した。

「お嬢様がお望みでしたら」


晩餐室での、家族だけの晩餐が始まった。
長い机の端には、公爵家当主のジェラルドに代わり、弟のジェレイドが座っている。
彼の左手の角には、普段なら当主の母や家族などの身分の高い女性が座るのだが、彼にとっては義姉のミルリーリウム
が座っている。
それはいいのだけれど。
ジェレイドの右手、一番格の高い家柄の女性客か、もしくは彼の妻を迎える場所にマリアローゼは座らされていた。

「この席は空席にすべきではないでしょうか?」

と恐る恐る問いかけるも、ジェレイドは笑顔で一蹴した。

「隣が空席だなんて、寂しいじゃないか。ローゼはきちんと勉強してるんだなあ」

後半は無理矢理褒めてきてにこにことしている。
マリアローゼの右側に座るシルヴァインを見ると、肩を竦めている。
色々な国で色々な仕来りはあるものの、この大陸の作法では男女交互に座る事になっている。
シルヴァインの奥にはカンナが座っていた。
更に向こうに双子が座っていて、マリアローゼを見ると手をブンブン振ってくる。
向かいの母、ミルリーリウムの隣にはキース、ユリア、ノアークの順で座っていた。

(わたくしの本来の席次はノアークお兄様のお隣では……?)

と思って見ていると、給仕による料理の配膳が始まった。
王都では一皿ずつ配られていたものの、ここでは正式な晩餐会のように給仕の差し出す大きな料理皿から、
自分の皿へと取り分けるのだ。

王都では従僕が担っていた仕事もここでは、専門の給仕がいるらしい。
取り分けながらも、周囲を観察するように見ているマリアローゼを、ジェレイドは楽しげに見詰めた。

「珍しいかい?僕も今まで1人だったから、料理を目の前にずらっと並べられる味気ない食事が多かったんだよ。でも、これから賓客を招く機会も増えるからね。給仕達もきちんと訓練しなくてはならない」

マリアローゼは自分達兄妹の為に取り入れたのかと思っていたが、別の意味もあったことにこくん、と頷いた。
確かに、これから……大変な宴が目白押しなのである。
いつだか見たことがある、鶯色の鳥がわーっと押し寄せるそんなイメージを頭に思い浮かべた。
額には黒い文字で、宴、と書いてあるのだ。
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