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沢山のお手紙
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風呂から上がってすぐ眠りに就き、起きた頃には夕暮れ刻だった。
髪の毛も乾いていて、ジェレイドが作った洗髪剤の薔薇の香りが鼻を擽る。
(ジェレイド叔父様は多才な方だわ……
しかも、わたくしが開発したい物を避けているところも、不思議ですわね)
明日から始まる料理作りに暫く力を入れるとしても、ここでの暮らしをするならば、領民や領地の勉強もしなくてはならないだろう。
とはいえ、図書館はまだ利用出来る状態ではない。
悶々と考えても答えは出ないので、晩餐の時にジェレイドに聞くしかないのである。
マリアローゼはゆっくり身体を起こした。
「お嬢様、どうぞ」
ルーナに差し出された果実水を手に取り、頷いて口を付ける。
いつもよりも爽やかな口当たりで、酸味も少し強かった。
「レモンかしら…?」
と思わず呟いた言葉に、ルーナが驚いた顔をした。
「お分かりになるのですか?この地方で取れる果実で、レモーヌという黄色い果物の汁を少し入れています。酸味が強すぎて、果実水やソースに少し入れる位しか用途がないと聞きましたが…」
(名前が似ている…分かり易い…!
でも、知ってた訳じゃないので、ルーナもオリーヴェもキラキラした目で見ないでくださいませ…!)
「いえ、本で読んだ気が致しましたの。お名前は正確に覚えていませんでしたし…」
流石に知らなかったとは言えずに、マリアローゼは言い訳を始める。
(凄くなんてないですわよ?)
という意味で言ったのに、二人は更に感動した様子を見せた。
「その様な事は些事です。素晴らしいですお嬢様」
「フィロソフィ家は叡智の結晶、と言われる所以でございますね!」
(だめですわね!
二人にはフィルターがかかってしまっていますわ!
ここは一先ず……
お兄様に丸投げ致しましょう)
「いいえ、わたくしなんて。キースお兄様の素晴らしい知見に比べたら児戯ですもの、恥ずかしいですわ」
恥ずかしいと伝えれば、二人もそれ以上は言い募って来なかった。
それにキースの神童振りは有名なのだ。
「ローゼお嬢様宛に、公爵邸からお手紙が届きまして御座います」
傍らの丸机に載せてあった銀盆を持ち上げて、ルーナが手紙の束を差し出してきた。
光沢のあるリボンで括られた束を、飲物が入ったグラスを机に置いてから両手で膝の上に移す。
膝にかかった敷き布の上で、リボンを解いて手紙の差出人を確かめる。
ヘンリクス王子、神聖国で出会った公子とも呼ばれる優秀で穏やかな王子である。
友達として、友情を前面に押し出す手紙を出したので、その返事なのだろうけど、出来れば定期的な文通は避けたいところである。
(後回しにしましょう)
マリアローゼは横に避けた。
次は、神聖国の王妃殿下、刺繍のハンカチを小間使いへの贈り物と共に贈ったので、その返事だろう。
こちらも特に続けなければいけない相手ではないし、ヘンリクス同様特に急ぎではないので、王室相手なんだからさっさと出さなくてはいけない気もしなくはないが、後回しである。
さっと、ヘンリクスの手紙に重ねて次の手紙の差出人を確認した。
エリーゼ、マスロの商業ギルドの支部長である。領地へ旅立つ前に、薬草栽培についての打診をしたところなのだ。
(これはなるべく早く、お返事を書かなくてはいけないもの)
マリアローゼは銀盆の上にそっと手紙を置いた。
ディートリンデ、その名前を見た時、マリアローゼはひゃわ、と奇声を発した。
お友達からの手紙である。
初めてのお友達のディートリンデからなのである。
(これは着替えを済ませて、正装で臨まなくてはいけないものですわ!)
ふんす、と勢い込んでマリアローゼは銀盆の手紙の上に重ねた。
ジェラルド、父からの手紙。
マリアローゼは途端に懐かしさと寂しさを覚えて、その端正な文字を指で撫でる。
(ずっと小さい頃から愛してくださったお父様。
今は遠くにいらっしゃるのですものね……)
マリアローゼは静かにそっと、手紙を銀盆の上に重ねた。
その後は王都の商会からの手紙、冒険者ギルドの長達からの手紙、駆けつけてくれた騎士団と私兵団からの手紙。
この辺りは目を通すだけで構わない部類である。
内容によっては、特に商会は返事を出さなくてはいけないが、報告のみの可能性も高い。
横に避けた手紙の後ろに束を押し込んで、マリアローゼはルーナを見上げた。
「お着替えを致しましょう」
ルーナは丁寧にお辞儀をすると、手紙の載った銀盆と、横に避けられた手紙束を手にとって、オリーヴェに手渡した。
髪の毛も乾いていて、ジェレイドが作った洗髪剤の薔薇の香りが鼻を擽る。
(ジェレイド叔父様は多才な方だわ……
しかも、わたくしが開発したい物を避けているところも、不思議ですわね)
明日から始まる料理作りに暫く力を入れるとしても、ここでの暮らしをするならば、領民や領地の勉強もしなくてはならないだろう。
とはいえ、図書館はまだ利用出来る状態ではない。
悶々と考えても答えは出ないので、晩餐の時にジェレイドに聞くしかないのである。
マリアローゼはゆっくり身体を起こした。
「お嬢様、どうぞ」
ルーナに差し出された果実水を手に取り、頷いて口を付ける。
いつもよりも爽やかな口当たりで、酸味も少し強かった。
「レモンかしら…?」
と思わず呟いた言葉に、ルーナが驚いた顔をした。
「お分かりになるのですか?この地方で取れる果実で、レモーヌという黄色い果物の汁を少し入れています。酸味が強すぎて、果実水やソースに少し入れる位しか用途がないと聞きましたが…」
(名前が似ている…分かり易い…!
でも、知ってた訳じゃないので、ルーナもオリーヴェもキラキラした目で見ないでくださいませ…!)
「いえ、本で読んだ気が致しましたの。お名前は正確に覚えていませんでしたし…」
流石に知らなかったとは言えずに、マリアローゼは言い訳を始める。
(凄くなんてないですわよ?)
という意味で言ったのに、二人は更に感動した様子を見せた。
「その様な事は些事です。素晴らしいですお嬢様」
「フィロソフィ家は叡智の結晶、と言われる所以でございますね!」
(だめですわね!
二人にはフィルターがかかってしまっていますわ!
ここは一先ず……
お兄様に丸投げ致しましょう)
「いいえ、わたくしなんて。キースお兄様の素晴らしい知見に比べたら児戯ですもの、恥ずかしいですわ」
恥ずかしいと伝えれば、二人もそれ以上は言い募って来なかった。
それにキースの神童振りは有名なのだ。
「ローゼお嬢様宛に、公爵邸からお手紙が届きまして御座います」
傍らの丸机に載せてあった銀盆を持ち上げて、ルーナが手紙の束を差し出してきた。
光沢のあるリボンで括られた束を、飲物が入ったグラスを机に置いてから両手で膝の上に移す。
膝にかかった敷き布の上で、リボンを解いて手紙の差出人を確かめる。
ヘンリクス王子、神聖国で出会った公子とも呼ばれる優秀で穏やかな王子である。
友達として、友情を前面に押し出す手紙を出したので、その返事なのだろうけど、出来れば定期的な文通は避けたいところである。
(後回しにしましょう)
マリアローゼは横に避けた。
次は、神聖国の王妃殿下、刺繍のハンカチを小間使いへの贈り物と共に贈ったので、その返事だろう。
こちらも特に続けなければいけない相手ではないし、ヘンリクス同様特に急ぎではないので、王室相手なんだからさっさと出さなくてはいけない気もしなくはないが、後回しである。
さっと、ヘンリクスの手紙に重ねて次の手紙の差出人を確認した。
エリーゼ、マスロの商業ギルドの支部長である。領地へ旅立つ前に、薬草栽培についての打診をしたところなのだ。
(これはなるべく早く、お返事を書かなくてはいけないもの)
マリアローゼは銀盆の上にそっと手紙を置いた。
ディートリンデ、その名前を見た時、マリアローゼはひゃわ、と奇声を発した。
お友達からの手紙である。
初めてのお友達のディートリンデからなのである。
(これは着替えを済ませて、正装で臨まなくてはいけないものですわ!)
ふんす、と勢い込んでマリアローゼは銀盆の手紙の上に重ねた。
ジェラルド、父からの手紙。
マリアローゼは途端に懐かしさと寂しさを覚えて、その端正な文字を指で撫でる。
(ずっと小さい頃から愛してくださったお父様。
今は遠くにいらっしゃるのですものね……)
マリアローゼは静かにそっと、手紙を銀盆の上に重ねた。
その後は王都の商会からの手紙、冒険者ギルドの長達からの手紙、駆けつけてくれた騎士団と私兵団からの手紙。
この辺りは目を通すだけで構わない部類である。
内容によっては、特に商会は返事を出さなくてはいけないが、報告のみの可能性も高い。
横に避けた手紙の後ろに束を押し込んで、マリアローゼはルーナを見上げた。
「お着替えを致しましょう」
ルーナは丁寧にお辞儀をすると、手紙の載った銀盆と、横に避けられた手紙束を手にとって、オリーヴェに手渡した。
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