悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
301 / 357
連載

ぬくぬく泡風呂

しおりを挟む
再び馬上の人となったマリアローゼは、馬に揺られて聳え立つ巨大な城に向かっていた。
幾つかの尖塔を擁した佇まいは、映画や観光雑誌で見てきた西洋の美しい城と遜色が無い。
象牙色の壁に、屋根は公爵家の色フィロソフィ・サフィルスと呼ばれる美しく深い蒼である。
光の加減で水色に光っている部分も見え、あまりの美しさにマリアローゼは感嘆の吐息を漏らした。

城の前庭部分には薔薇の花壇や、蔓科の植物が絡まったアーチなども配されており、城の出入り口の正面に花壇を挟んで見事な三連の噴水も佇んでいた。
そして、青々とした生垣を使った迷路の様な空間も見える。
庭を巡回していた兵士や、扉の入口に控えている騎士は、通りかかるマリアローゼ一行に、其々敬礼をしていく。
城の前をゆったり通り過ぎると、次は使用人棟や兵舎の立っている木立の横を通り抜ける。
練兵場のある場所だけ、大きく開いた道が現れ、剣戟の音や掛け声等も聞こえてきた。

「グランスとウルススはこちらに参加されますのね」

マリアローゼの問いかけに、グランスが優しい声音で答えた。

「はい。任務の合間に」

マリアローゼはこくん、と頷いて微笑んだ。

「では此処は、ウルススやグランスが訓練の時に改めて参りましょう」

一旦足を止めさせた馬を、またゆっくりと歩かせて漸く厩舎に辿り着き、馬を返すとマーノに任せて、全員は部屋へ
引き上げた。
そして、部屋に入ると入口付近に何か倒れていた。

そう、ユリアである。

「あの…どうかされまして?」

心配そうに首を傾げて近寄ろうとするマリアローゼを、ルーナがその身体の前に手を広げて制止した。

「構ってはなりません、お嬢様」

冷たい言葉に、ユリアはむくりと上半身だけ腕の力で起き上がった。

「ええ~~冷たいですよ、るうなさあんっ、私ローゼ様不足で倒れてしまったんですよ?」
「さっきまで元気にお菓子食べてましたけどね」

若干うざいユリアの訴えを、後ろの長椅子に座って紅茶を飲んでいたカンナが秒殺した。
んばっとそのままの体勢で振り返ったユリアが、今度はカンナに不平を言う。

「あっ、カンナさんバラしましたね!?」

その隙にルーナはそそくさとマリアローゼを続きの間へ続く廊下に誘導すると、扉の前で一礼した。

「お嬢様はお疲れですのでお休みになります。お静かになさいますようお願い申し上げます」

「あっ!」

ユリアが再度振り返った時には、マリアローゼはもう目の前から姿を消していた。
マリアローゼの世話の為に寝室への扉を閉めて退出した姉に代わって、ノクスがユリアに無慈悲な言葉を投げつける。

「静かにして頂けないと、部屋から出て頂きます」

何か叫びだしそうだったユリアは、更に起き上がって、しおしおとカンナの隣に戻った。

「カンナさあん…」
「はいはい、今日の晩餐会のドレス姿が楽しみですね」

泣き言を言いそうなユリアにカンナが笑顔で先手をうつと、ユリアは途端にぱああ、と笑顔になった。

「きっと寿命が延びますね!!」

ユリアは今日も何時もどおりなのである。


そんなユリアの多大な期待を他所に、マリアローゼはオリーヴェとルーナに世話をされながら湯浴みをしていた。
可愛いらしい金色の猫足のついた浴槽の近くにはお湯の注ぎ口が有り、温度調節も出来るダイヤルまでついていて、それとは別にシャワーまである。
全てこの城の魔道具開発で作られた物であると、オリーヴェが丁寧にルーナに使い方を教えていた。
マリアローゼはぬくぬくと泡の浮いたお湯に浸かりながら、身体を伸ばす。

(乗馬って意外と疲れますのね……?)

浴槽に入るまで気付かなかったが、身体のあちこちが疲れているのにやっと気付いたのだ。
そして、小鳥の囀りの様な二人の話し声を聞きながら、考える。
記憶の中の彼女は、あの世界では平凡な一生を送っていた、と思う。
料理は自分で作ったし、着替えも一人でしていたし、風呂にも勿論1人で入っていた。
その感覚で言えば、風呂に自分以外がいるというのは異常事態である。

はずかしい!自分でやるから出て行って!
となるかもしれない事態なのだ。

でもマリアローゼは幼い頃から、周囲に世話をされるのが普通だったので、ちぐはぐな印象を抱えつつも側仕えの侍女や小間使いに肌を見せるのには抵抗が無い。
他にも前世の記憶を持つ人がいれば、やっぱり色々な齟齬を抱えて生きているのかしら?とふと考える。
専門的な知識のある人物がいたら、是非捕まえたいところでもある。

「ふぁ…」

小さな欠伸を聞き逃さず、ルーナが髪を洗う手を止めた。

「お髪を洗い終えましたら、上がりましょうね、お嬢様」
「はい、ルーナ」

素直に頷いて、マリアローゼはルーナの手の気持ちよさに、ゆったりと目を閉じた。
しおりを挟む
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
感想 135

あなたにおすすめの小説

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな
ファンタジー
二児の子供がいるワーキングマザーの私。仕事、家事、育児に忙殺され、すっかりくたびれた中年女になり果てていた私は、ある日事故により異世界転生を果たす。 転生先は、前世とは縁遠い公爵令嬢「イザベル・フォン・アルノー」だったが……まさかの乙女ゲームの悪役令嬢!? しかも乙女ゲームの内容が全く思い出せないなんて、あんまりでしょ!! 破滅フラグ(攻略対象者)から逃げるために修道院に逃げ込んだら、子供達の扱いに慣れているからと孤児達の世話役を任命されました。 そりゃあ、前世は二児の母親だったので、育児は身に染み付いてますが、まさかそれがチートになるなんて! しかも育児知識をフル活用していたら、なんだか王太子に気に入られて婚約者に選ばれてしまいました。 攻略対象者から逃げるはずが、こんな事になるなんて……! 「貴女の心は、美しい」 「ベルは、僕だけの義妹」 「この力を、君に捧げる」 王太子や他の攻略対象者から執着されたり溺愛されながら、私は現世の運命に飲み込まれて行くーー。 ※なろう(現在非公開)とカクヨムで一部掲載中

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。