悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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ぬくぬく泡風呂

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再び馬上の人となったマリアローゼは、馬に揺られて聳え立つ巨大な城に向かっていた。
幾つかの尖塔を擁した佇まいは、映画や観光雑誌で見てきた西洋の美しい城と遜色が無い。
象牙色の壁に、屋根は公爵家の色フィロソフィ・サフィルスと呼ばれる美しく深い蒼である。
光の加減で水色に光っている部分も見え、あまりの美しさにマリアローゼは感嘆の吐息を漏らした。

城の前庭部分には薔薇の花壇や、蔓科の植物が絡まったアーチなども配されており、城の出入り口の正面に花壇を挟んで見事な三連の噴水も佇んでいた。
そして、青々とした生垣を使った迷路の様な空間も見える。
庭を巡回していた兵士や、扉の入口に控えている騎士は、通りかかるマリアローゼ一行に、其々敬礼をしていく。
城の前をゆったり通り過ぎると、次は使用人棟や兵舎の立っている木立の横を通り抜ける。
練兵場のある場所だけ、大きく開いた道が現れ、剣戟の音や掛け声等も聞こえてきた。

「グランスとウルススはこちらに参加されますのね」

マリアローゼの問いかけに、グランスが優しい声音で答えた。

「はい。任務の合間に」

マリアローゼはこくん、と頷いて微笑んだ。

「では此処は、ウルススやグランスが訓練の時に改めて参りましょう」

一旦足を止めさせた馬を、またゆっくりと歩かせて漸く厩舎に辿り着き、馬を返すとマーノに任せて、全員は部屋へ
引き上げた。
そして、部屋に入ると入口付近に何か倒れていた。

そう、ユリアである。

「あの…どうかされまして?」

心配そうに首を傾げて近寄ろうとするマリアローゼを、ルーナがその身体の前に手を広げて制止した。

「構ってはなりません、お嬢様」

冷たい言葉に、ユリアはむくりと上半身だけ腕の力で起き上がった。

「ええ~~冷たいですよ、るうなさあんっ、私ローゼ様不足で倒れてしまったんですよ?」
「さっきまで元気にお菓子食べてましたけどね」

若干うざいユリアの訴えを、後ろの長椅子に座って紅茶を飲んでいたカンナが秒殺した。
んばっとそのままの体勢で振り返ったユリアが、今度はカンナに不平を言う。

「あっ、カンナさんバラしましたね!?」

その隙にルーナはそそくさとマリアローゼを続きの間へ続く廊下に誘導すると、扉の前で一礼した。

「お嬢様はお疲れですのでお休みになります。お静かになさいますようお願い申し上げます」

「あっ!」

ユリアが再度振り返った時には、マリアローゼはもう目の前から姿を消していた。
マリアローゼの世話の為に寝室への扉を閉めて退出した姉に代わって、ノクスがユリアに無慈悲な言葉を投げつける。

「静かにして頂けないと、部屋から出て頂きます」

何か叫びだしそうだったユリアは、更に起き上がって、しおしおとカンナの隣に戻った。

「カンナさあん…」
「はいはい、今日の晩餐会のドレス姿が楽しみですね」

泣き言を言いそうなユリアにカンナが笑顔で先手をうつと、ユリアは途端にぱああ、と笑顔になった。

「きっと寿命が延びますね!!」

ユリアは今日も何時もどおりなのである。


そんなユリアの多大な期待を他所に、マリアローゼはオリーヴェとルーナに世話をされながら湯浴みをしていた。
可愛いらしい金色の猫足のついた浴槽の近くにはお湯の注ぎ口が有り、温度調節も出来るダイヤルまでついていて、それとは別にシャワーまである。
全てこの城の魔道具開発で作られた物であると、オリーヴェが丁寧にルーナに使い方を教えていた。
マリアローゼはぬくぬくと泡の浮いたお湯に浸かりながら、身体を伸ばす。

(乗馬って意外と疲れますのね……?)

浴槽に入るまで気付かなかったが、身体のあちこちが疲れているのにやっと気付いたのだ。
そして、小鳥の囀りの様な二人の話し声を聞きながら、考える。
記憶の中の彼女は、あの世界では平凡な一生を送っていた、と思う。
料理は自分で作ったし、着替えも一人でしていたし、風呂にも勿論1人で入っていた。
その感覚で言えば、風呂に自分以外がいるというのは異常事態である。

はずかしい!自分でやるから出て行って!
となるかもしれない事態なのだ。

でもマリアローゼは幼い頃から、周囲に世話をされるのが普通だったので、ちぐはぐな印象を抱えつつも側仕えの侍女や小間使いに肌を見せるのには抵抗が無い。
他にも前世の記憶を持つ人がいれば、やっぱり色々な齟齬を抱えて生きているのかしら?とふと考える。
専門的な知識のある人物がいたら、是非捕まえたいところでもある。

「ふぁ…」

小さな欠伸を聞き逃さず、ルーナが髪を洗う手を止めた。

「お髪を洗い終えましたら、上がりましょうね、お嬢様」
「はい、ルーナ」

素直に頷いて、マリアローゼはルーナの手の気持ちよさに、ゆったりと目を閉じた。
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