悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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「ヴァローナ、キースお兄様」

名前を呼ばれた二人は、動きを止めて、マリアローゼを振り返った。

「ああ、ローゼ。来たんですね。いらっしゃい」
「お兄様がいらっしゃるなんて思いませんでしたわ」

簡単なお辞儀をしてから駆け寄って、キースの腕に飛び込みながらマリアローゼは笑顔を向けた。

「本を借りに来たのですが、まだ整理が出来ていないようだったので、手伝っていたのですよ」

マリアローゼの頭を優しく撫でながら、キースは嬉しそうに微笑んだ。
傍らのヴァローナも、にっこりと美貌に笑みを浮かべる。

「弟公爵殿が本を大量に用意して下さっていたのですが、並べ方が王都と異なっていたので、1から目録と番号の振り直しをして、それぞれの場所に並べ直している所です。と言っても出来上がってすらいませんでしたが……」
「僕も暫く手伝うけど、多分ここが正常な状態になるまで一週間はかかるだろうね?」

確認するようにキースがヴァローナに言うと、ヴァローナは認めるように会釈をした。
従業員と、優秀な司書と、その助手がいるからこその、一週間である。
ふむぅ、とマリアローゼは唸った。

「分かりましたわ。では、ここにはまた後日参りますので、目録はわたくしにもご用意して頂けますかしら?」
「はい、御望みのままに」

ヴァローナが綺麗な笑顔で、優雅に一礼する。
ここに普通の御令嬢がいたら失神していただろう痛恨の一撃だ。

(その笑顔は大量殺人を引き起こしますわね!)

マリアローゼは確信しつつ、頷き返した。
そして、最も気になっていた事を口にする。

「あの、アノスおじい様はお元気でして?」
「はい。でも旅の疲れが出たのか、よくお眠りになっているので、部屋でお休み頂いていますよ。きちんと世話人も付けているのでご心配なさいませんよう」
「ああ、良かった。では、また参りますわね。お兄様も、ヴァローナも無理はなさらないでね」

マリアローゼは安堵の吐息を漏らして、スカートを摘んでお辞儀をした。
キースはマリアローゼの言葉に微笑を返して、頷く。

「ローゼも冒険は程々にするんですよ」
「はい、お兄様」

やんちゃな振る舞いについて話題になった後の鋭い指摘に、マリアローゼはすぐに同意の言葉を返して、踵を返す。
あまりこの話題は引き摺りたくないのである。
トコトコと急ぎ足になりつつ、表に出て、マリアローゼはううん、と悩んだ。

無理を言ってという程ではないにしろ、連れて来た魔道具工房の姉弟にも会いたい気持ちがある。
幸いまだそこまで時間は経っていない。
温室も図書館も、マリアローゼの手伝う余地が無かったのである。

しかし。

マリアローゼは大きく真っ白な美しい彫像を見上げて、慌てて顔を背けた。

図書館に来る度に、この羞恥を乗り越えなければならないというのは、割と過酷な問題なのである。

「では、お屋敷に戻りましょう、お嬢様」

過酷な運命を背負わせたジェレイドに恨みを募らせていたマリアローゼは、声をかけたルーナを見詰めた。

「魔道具工房のクリスタとレノにもお会いしたいのだけれど…」
「では、その様に手配致します」

にっこりと、ルーナは微笑んだ。
確かに、主人がわざわざ会いに行く必要はない、と言われてしまえばそれ迄なのである。
勿論話したい事も、用事もあるので、話す機会があるのは良いことなのだが…。

「二人の職場も見てみたいのですわ」

マリアローゼの提案に、ルーナはオリーヴェに視線を送る。

「ええと、魔道具工房や武器工房はお城の地下にあるという説明は聞いたのですが、お城の事はまだ余り詳しくございませんので……」

とオリーヴェは困った様に、マーノを見ると、マーノも帽子を直しながら言った。

「私もオリーヴェさんと変わらない知識しかないので、ジェレイド様かコルニクスさんに聞いた方がいいかもしれませんなあ」

んー、とマリアローゼは唇に指を当てて考えた。
これ以上無理を言う訳にはいかない、とこくん、と首を縦に振る。

「それが宜しいですわね」
「では、僭越ながら申し上げます」

胸に手を当てて、礼儀正しくグランスが進み出た。

「帰り道は分かっておりますし、城は目と鼻の先です。折角なので城の前を通って、向こう側の道を辿って戻るのは如何でしょうか?」
「まあ、有難うグランス。では、そう致しましょう」

妥協案にマリアローゼは目を輝かせて、小さな手をぱちりと胸の前で叩いた。
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