295 / 357
連載
新しい温室
しおりを挟む
「でも、感謝して頂く程の事ではございませんことよ。皆様命を賭して働いていらっしゃったのですもの。わたくしも冒険者さまを支援してゆくとお約束致しますわ」
「勿体無き、お言葉でございます」
まさか、小さな幼女にその様な言葉をかけられる等とは予想していなかったマーノは驚いて、そして帽子を脱いで胸に抱えながら、深く頭を下げた。
今の公爵にも代理人の弟公爵にも感謝はしていたが、さらに次世代の公爵家の人間まで慈しみ深いとは、予想もしていなかったのである。
しかも、小さな少女が。
「ではマーノさん、温室へ参りました後、図書館にご案内致しますので、宜しくお願い致します」
先に馬上に乗せたオリーヴェに言われて、マーノは頷いた。
「了解しました」
オリーヴェの後ろに乗ったマーノの馬の後に続いて、ウルススとグランスも馬を歩かせる。
「此方の道は傾斜しておりまして、階段ではないので、馬で庭や城に向かわれる時は、こちらの道をお使いください」
先ほど観察した通りの説明に、マリアローゼもこくん、と頷き、騎乗している護衛騎士の二人が其々返事を返す。
「分かった」
「分かりました」
そして下庭に出た後で右に馬首を回す。
昼前に居た森の近くに、ガラス張りの建物が見え隠れしていた。
「あちらに見えるのが、温室ですわね?」
「ええ、そうです」
王都の公爵邸に合った温室も大きかったが、こちらの温室は更に大きそうである。
マーノはゆっくりと馬を歩かせながら、更に続けた。
「温室自体は森の方にもございますが、こちらは今年に入って新設された物でして。マリアローゼお嬢様の為に、ジェレイド様が特別な植物も沢山手に入れられたとか」
(初耳ですわ!
そんな事今まで一度も仰らなかったではないですか!
……本当に予知の力は失われたのかしら……?)
疑問を思い浮かべながらも、マリアローゼは声を弾ませる。
「それは、大変嬉しゅうございますわ。わたくし、植物にとても興味がございますの」
古い記憶が呼び覚まされ、懐かしさと混乱の中に居た頃、よく読んだのは植物図鑑だ。
そして、アルベルトに贈った誕生日の贈り物も。
もしかしたら、ジェレイドはそういう話も両親から知らされていたのかもしれない。
温室の前までくると、その巨大さと荘厳さにマリアローゼは圧倒された。
土台は煉瓦だが、天井まで全て硝子で出来た建物である。
この世界で硝子は希少品の部類に入るので、一般庶民の家の窓にはガラス等はない。
木の枠と木の両扉で作られていて、二階は日中開け放している家も多いだろうが、1階は防犯の為に家人が不在の時は閉め切っている家が殆どである。
早速温室の中に入ると、燃えるような赤い髪の巨躯の青年がせっせと土を運んでいた。
「エレパース!」
「……お嬢様」
びっくりして担ぎ上げた土の袋を取り落としそうになりながらも持ち直し、駆け寄ってきた小さな主人を、エレパースは嬉しそうに微笑んで迎えた。
「勿体無き、お言葉でございます」
まさか、小さな幼女にその様な言葉をかけられる等とは予想していなかったマーノは驚いて、そして帽子を脱いで胸に抱えながら、深く頭を下げた。
今の公爵にも代理人の弟公爵にも感謝はしていたが、さらに次世代の公爵家の人間まで慈しみ深いとは、予想もしていなかったのである。
しかも、小さな少女が。
「ではマーノさん、温室へ参りました後、図書館にご案内致しますので、宜しくお願い致します」
先に馬上に乗せたオリーヴェに言われて、マーノは頷いた。
「了解しました」
オリーヴェの後ろに乗ったマーノの馬の後に続いて、ウルススとグランスも馬を歩かせる。
「此方の道は傾斜しておりまして、階段ではないので、馬で庭や城に向かわれる時は、こちらの道をお使いください」
先ほど観察した通りの説明に、マリアローゼもこくん、と頷き、騎乗している護衛騎士の二人が其々返事を返す。
「分かった」
「分かりました」
そして下庭に出た後で右に馬首を回す。
昼前に居た森の近くに、ガラス張りの建物が見え隠れしていた。
「あちらに見えるのが、温室ですわね?」
「ええ、そうです」
王都の公爵邸に合った温室も大きかったが、こちらの温室は更に大きそうである。
マーノはゆっくりと馬を歩かせながら、更に続けた。
「温室自体は森の方にもございますが、こちらは今年に入って新設された物でして。マリアローゼお嬢様の為に、ジェレイド様が特別な植物も沢山手に入れられたとか」
(初耳ですわ!
そんな事今まで一度も仰らなかったではないですか!
……本当に予知の力は失われたのかしら……?)
疑問を思い浮かべながらも、マリアローゼは声を弾ませる。
「それは、大変嬉しゅうございますわ。わたくし、植物にとても興味がございますの」
古い記憶が呼び覚まされ、懐かしさと混乱の中に居た頃、よく読んだのは植物図鑑だ。
そして、アルベルトに贈った誕生日の贈り物も。
もしかしたら、ジェレイドはそういう話も両親から知らされていたのかもしれない。
温室の前までくると、その巨大さと荘厳さにマリアローゼは圧倒された。
土台は煉瓦だが、天井まで全て硝子で出来た建物である。
この世界で硝子は希少品の部類に入るので、一般庶民の家の窓にはガラス等はない。
木の枠と木の両扉で作られていて、二階は日中開け放している家も多いだろうが、1階は防犯の為に家人が不在の時は閉め切っている家が殆どである。
早速温室の中に入ると、燃えるような赤い髪の巨躯の青年がせっせと土を運んでいた。
「エレパース!」
「……お嬢様」
びっくりして担ぎ上げた土の袋を取り落としそうになりながらも持ち直し、駆け寄ってきた小さな主人を、エレパースは嬉しそうに微笑んで迎えた。
309
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。