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マリーちゃんの元へ

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「よし、じゃあ俺が叔父上と、商会に準備をするように伝えてくるから、明日から料理開発をするよう、商会の雇った料理人と我が家の料理人を引き合わせよう」

即決して立ち上がったシルヴァインに、マリアローゼも立ち上がって、その腰に思わずひしっと抱きつく。
まさかそんな風に、話が転がるとは思わなかったし、兄の素早い決断にマリアローゼは感動していた。

「有難う存じます、お兄様。大好きです」
「おっと、俺も君が大好きだよ、ローゼ。だから、済ませたい用事は今日の内に済ませておいで」

そう言われて、マリアローゼははた、と気がついた。
マリーちゃんの事をすっかり忘れていたのである。

「はい、お兄様。気をつけて行っていらっしゃいませ」

マリアローゼは身体を離すと、スカートをつまんでお辞儀をして見送る。
シルヴァインは愉しげに、マリアローゼの小さな顎を指で掬って額にキスを落とした。

「じゃあ、行ってくるよ、お姫様」

小さな手で額を押さえて頬を染めたマリアローゼが、何か文句を言い出す前にシルヴァインは軽く笑って颯爽と部屋を出て行った。

子供では無いと何度言ったら伝わるのかしら…!

文句を言う相手も立ち去ったので、マリアローゼはおでこにかかる前髪を軽く払って、後ろを振り返った。

「わたくし達もマリーちゃんやコッコちゃんを見に参りましょう」

笑顔を向けつつ、マリアローゼが提案すると、ルーナとノクスとオリーヴェが返事を返した。

「「「はい、お嬢様」」」

一同は1階に下り、オリーヴェが正面の扉を手で指し示した。

「あちらは大広間となっております
右側に朝食室、その向いが晩餐室になっております」

(え?食事をするだけなのに、2つも…?)

マリアローゼの脳内を少しばかり貧乏性な考えが過ぎる。
王都ですら広いと思っていたのに、何もかも領地では倍になっている気がした。
大広間と朝食室の間の廊下の突き当たりには大きなガラスを嵌め込んだ扉があり、外からの光が廊下に注いでいる。
外に出ると、中央に噴水があり、ぐるりと囲むように配置された花壇には花が咲き乱れていた。
青々とした芝生が敷かれ、右の建物と左の建物から敷石の小道が続いている。

「右側は上級使用人の館、左側は客室となっております」
「それは、身分が高いということかしら?」

王都の公爵邸では、徹底的に使用人の影を見せないようにしていた様に見えたので、疑問に思ったのだ。
マリアローゼの問いに、オリーヴェはゆるく首を振った。

「いいえ、役職が高い方がお住まいになります」

(という事は、ここでも実力主義……)

ふうむ、と頷いて見上げると、ふわりとカーテンが揺れた気がした。
ちらりと見えた橙の髪が気になって、そのまま目を凝らしていると、向こうからも顔を覗かせた女性が、
慌てて頭を下げて、ガラス窓に額をぶつけていた。
痛そうに額を押さえて窓枠の下に姿が消える。

「あ、あの方は…大丈夫かしら?酷く頭をぶつけていたようですけれど」
「あ、あ…はい。あの方はナディアさんです。とてもお優しい方ですよ」

それは、何となくだけど見て分かった。
お辞儀をしようとして、目の前のガラス窓が見えなくなってしまう位真面目なのだろう。
マリアローゼはこくん、と頷くと、オリーヴェに微笑みかけた。

「あとでお見舞いを渡してくださる?わたくしの為に痛い思いをさせてしまったもの」
「……はい、お嬢様の仰せのままに」

勿体無いと伝えて、断るべきなのだろうが、オリーヴェはそうしなかった。
なるべく、マリアローゼの好きにさせるようにとジェレイドからも厳命されているのもあったが、やはりマリアローゼの優しい思いを全ての従業員に伝えたい、とオリーヴェは思っていたのである。
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