悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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---ギルドで聞いた英雄譚

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次の場所は目抜き通り、ではあるが一番南側にある町の外れ近くにある大きな建物だ。
冒険者ギルドの看板が大きく掲げてある。
そして此処には大きな鮫のような怪物の骨、らしきものが飾りとして看板の上に取り付けられていた。

(きっとマリアローゼが見たら、また興味を示すだろうな)

そう思うと自然とシルヴァインの口に笑みが上る。
シルヴァインとキースが中に入ると、ギルド職員がカウンターから急いで2階へと駆け上がっていき、受付嬢の1人が近寄って来て丁寧にお辞儀をした。

「お待ちしておりました」

ギルド内は他の町と同じく、情報や依頼用の掲示板があり、その前には飲食用の机と椅子がある。
職員用の階段とは別に上に行く階段と、奥に厨房が見えるカウンター席もあり、半分は食事処と宿屋として機能しているのだ。
場所によって造りは違うが、ここでは一体化していて賑やかでもある。
あからさまに貴族と執事の出で立ちをしたシルヴァイン一行に、依頼なのか?お貴族冒険者か?と好奇の視線を向けはするが、2階からドカドカと足音がすると一瞬その場が静まり返った。

圧倒するような巨躯の男が、二階から降りてくる。
鬣のような逆立った髪と、顎と鼻の下に生えた髭が揉み上げまでツンツンと伸びていた。
日焼けした肌に鋭い目付きで、海賊だといわれれば納得してしまうような容貌だ。

「おう、何だジェレイドじゃねえのか」

呼びに行った職員を大男が振り返ると、肩まで真っ直ぐのさらさらな黒髪を揺らして、彼女は首を横に振った。

「先程、フィロソフィ家のご子息が参られたとお伝えしましたよね?」
「ジェレイドも子息だろうが」
「彼が来たならジェレイド様と伝えるでしょう。勘違いを他人の所為にするんじゃありません」

敬語だから低姿勢なのかと思いきや、ズバズバと言い返して、冷たい紫の目を細めて睨んでいる。
そんな女性の視線を意に介した風もなく、男は大きな肩を竦めた。

「じゃあ、お初にお目にかかる。この町の冒険者ギルドの主人、ヴァロと申します。以後、お見知りおきを。ところで、例の、小さな女神は一緒じゃないので?」

「ああ、宜しく頼む。妹は後日連れてくるよ。今日は挨拶がてら、薬を持ってきたので納めてくれ」
「ほほう、これが例の…有難く買い取らせていただこう」

ギラッファが渡した紙袋の中身を見て、ヴァロが買取を申し出るが、シルヴァインは首を横に振った。

「これは妹からの贈り物だ。金を受け取ったら俺が怒られてしまう」
「ははあ、どこでも女は怖い物ですなあ」

ちらりと後ろに控える職員に目を向けて、再度睨まれながら、ヴァロは髭を撫でつつガッハッハと大きく笑った。

「そういえば、ジェレイド叔父上とは友人なのか?」
「友人も何も、あの人はこの辺では英雄なんでな。……ああ、聞いてないのか、そうか」

シルヴァインとキースの顔を見て、ヴァロはまた髭を撫でた。

「立ち話も何だ、おい、お前らどけ」

一番近くのテーブルに居た冒険者を追いやって、席に着くと、ヴァロはキースとシルヴァインを手招きした。
冒険者達は食べ物を片手に、怒るでもなく近くの席から興味深そうに一行を見ている。

「何年も前の話になるが、ここから南に5日も行くとダンジョンがあるんだが、そこでスタンピードが起きかけた事がある。それをダンジョン内に押し留めたのが、ジェレイド達なんだ。まあ、俺らも参加はしたが」

「達、というと?」

シルヴァインはジェレイドの仲間に興味を惹かれて聞くと、ヴァロはニッと笑った。

「魔砲手ヴァネッサ、大魔法使いウィスクム、錬金術師エルナード、仮面の聖女ロータス、重戦車ヴェルム、剣士スペレッセ、普段は単独で行動するか、少人数で動くSS級冒険者達だ」

それは何度か耳にした事のある名前ばかりで、シルヴァインは絶句した。
隣に座るキースも思わず、というように嘆息する。

「まあ、なんだ、大事にならなかったから、話題にもそんなに上っていないだろうが、冒険者界隈では有名人ってこったな。

だが、あいつはこの土地から離れないと決めているようだから、冒険には出ない。
優秀な魔剣士なのに勿体無いという奴もいるが、あいつは領主代行としても優秀だからな、こっちは有難てえ」

ガッハッハ、と笑いながら、ツンツンした鬣をワシワシと大きな手で掻く。
その後幾つかの冒険譚を聞かされて、三人は馬車へと戻った。
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