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---孤児院の視察
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「それでは、不肖、このメルティが、お二人をご案内させていただきますねっ☆」
右手の人差し指と中指を立てて、その間に眼が収まるような妙な姿勢で、メルティと名乗る小間使いが名乗った。
髪は赤みがかった金髪で、頭の高い位置で両側を結わえており、毛先は肩に着くか着かないかの所で揺れている。
(うさんくさ……)
と表情を失いつつも、キースとジェラルドは無難な微笑を顔に貼り付けた。
「いや、2、3巡るだけだから問題ない」
やんわりと断るが、メルティは大声でえーーっと不満そうな声を上げた。
「でも、メルティが適任だってジェレイド様からの直々のご命令なのでぇ、護衛も兼ねているのでぇ、断られたら尾行になる
だけですよぉ?」
「では黙って着いてきなさい。君は喋らなくて結構です。護衛も私が参りますので、離れていて構いませんよ」
面倒くさい、と顔に出掛かっていた主人であるシルヴァインの気持ちを察したギラッファが笑顔で申し付けた。
(こんな場面をローゼに見られなくて良かった)
ちらりと階段を確認して、思わずシルヴァインは溜息を吐く。
散々言われているが、女性からうまく逃げられるようにとまた小言を貰ってしまうところだった。
しかも、ギラッファは最初から視察に付いてくると決まっていた訳でもない。
完全に助け舟を出されたのである。
(自分に降りかかる厄介事は、自分で払えるようにならなくてはいけないのにな……全く叔父上め)
敢えて面倒くさい人物を寄越したジェレイドに心の中で毒づきながら、シルヴァインは何事も無かったかのように言った。
「では行こう」
シルヴァインの言葉に従って、ギラッファが恭しく一礼すると、玄関を通り抜けて用意された馬車に乗り込んだ。
キースとシルヴァインが乗ったところで、ぱたんと戸が閉められる。
そして馬車が出発した。
「俺もまだまだだな」
窓の外を見詰めて呟いた言葉に、キースが答える。
「最初から完璧だったら、怖いですよ」
(でも、マリアローゼは)
シルヴァインにとっては理想以上の存在なのである。
足りないところも、突出した所も、突飛なところまで全てが、心を掴んで放さない。
(完璧ではないところがあって、完璧だというのは狡いな)
思わず思い浮かべて、シルヴァインは微笑む。
「そうだな。せいぜい精進しよう」
叔父とは和解したが、彼は弱点を突いてくるのを止めないだろう。
それは嫌がらせでもあり、成長を促す為でもある。
社交界でも、商業でも、海千山千の猛者を相手に戦うにはまだ足りないのだ。
マリアローゼを護る者、と認められていないという事でもある。
カタン、と小さな音を立てて馬車が停まった。
外から扉が開けられ、石畳の道路に降り立つと、町外れの教会と併設された孤児院が目の前にあった。
「アイテール程の街にしては教会が小さいな」
「ここは、神聖教の教会ではなく、この地に伝わる泉の女神の教会だと聞き及んでおります」
シルヴァインの呟きに、ギラッファが補足事項を伝える。
本には書いていない、地元ならではの知識だ。
「それを我が家が支援しているという訳か」
ギラッファは肯定するように会釈だけしてみせる。
馬車に気づいた子供達が騒いで、奥から修道女が慌てたように門へ走ってきた。
「お待たせ致しました。いつもお世話になっております」
深々と挨拶をした修道女に案内されて、シルヴァインとキースは孤児院を見て回った。
子供達は健康そうで、よく笑い、走り回っている。
世話人にジェレイド様はー?と聞いている子供の声も聞こえて、ここでの人気や信頼が高い事も知れた。
一通り案内を受けて、三人は次の場所へと向かう。
右手の人差し指と中指を立てて、その間に眼が収まるような妙な姿勢で、メルティと名乗る小間使いが名乗った。
髪は赤みがかった金髪で、頭の高い位置で両側を結わえており、毛先は肩に着くか着かないかの所で揺れている。
(うさんくさ……)
と表情を失いつつも、キースとジェラルドは無難な微笑を顔に貼り付けた。
「いや、2、3巡るだけだから問題ない」
やんわりと断るが、メルティは大声でえーーっと不満そうな声を上げた。
「でも、メルティが適任だってジェレイド様からの直々のご命令なのでぇ、護衛も兼ねているのでぇ、断られたら尾行になる
だけですよぉ?」
「では黙って着いてきなさい。君は喋らなくて結構です。護衛も私が参りますので、離れていて構いませんよ」
面倒くさい、と顔に出掛かっていた主人であるシルヴァインの気持ちを察したギラッファが笑顔で申し付けた。
(こんな場面をローゼに見られなくて良かった)
ちらりと階段を確認して、思わずシルヴァインは溜息を吐く。
散々言われているが、女性からうまく逃げられるようにとまた小言を貰ってしまうところだった。
しかも、ギラッファは最初から視察に付いてくると決まっていた訳でもない。
完全に助け舟を出されたのである。
(自分に降りかかる厄介事は、自分で払えるようにならなくてはいけないのにな……全く叔父上め)
敢えて面倒くさい人物を寄越したジェレイドに心の中で毒づきながら、シルヴァインは何事も無かったかのように言った。
「では行こう」
シルヴァインの言葉に従って、ギラッファが恭しく一礼すると、玄関を通り抜けて用意された馬車に乗り込んだ。
キースとシルヴァインが乗ったところで、ぱたんと戸が閉められる。
そして馬車が出発した。
「俺もまだまだだな」
窓の外を見詰めて呟いた言葉に、キースが答える。
「最初から完璧だったら、怖いですよ」
(でも、マリアローゼは)
シルヴァインにとっては理想以上の存在なのである。
足りないところも、突出した所も、突飛なところまで全てが、心を掴んで放さない。
(完璧ではないところがあって、完璧だというのは狡いな)
思わず思い浮かべて、シルヴァインは微笑む。
「そうだな。せいぜい精進しよう」
叔父とは和解したが、彼は弱点を突いてくるのを止めないだろう。
それは嫌がらせでもあり、成長を促す為でもある。
社交界でも、商業でも、海千山千の猛者を相手に戦うにはまだ足りないのだ。
マリアローゼを護る者、と認められていないという事でもある。
カタン、と小さな音を立てて馬車が停まった。
外から扉が開けられ、石畳の道路に降り立つと、町外れの教会と併設された孤児院が目の前にあった。
「アイテール程の街にしては教会が小さいな」
「ここは、神聖教の教会ではなく、この地に伝わる泉の女神の教会だと聞き及んでおります」
シルヴァインの呟きに、ギラッファが補足事項を伝える。
本には書いていない、地元ならではの知識だ。
「それを我が家が支援しているという訳か」
ギラッファは肯定するように会釈だけしてみせる。
馬車に気づいた子供達が騒いで、奥から修道女が慌てたように門へ走ってきた。
「お待たせ致しました。いつもお世話になっております」
深々と挨拶をした修道女に案内されて、シルヴァインとキースは孤児院を見て回った。
子供達は健康そうで、よく笑い、走り回っている。
世話人にジェレイド様はー?と聞いている子供の声も聞こえて、ここでの人気や信頼が高い事も知れた。
一通り案内を受けて、三人は次の場所へと向かう。
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