悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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重い家族愛

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平原の城でゆっくりと3日間過ごし、階下の使用人達とも交流をして過ごしたマリアローゼは、
馬車に揺られて海辺の町、アイテールを目前にしていた。
アイテールはフィロソフィー公爵領で一番大きな町であり、公爵家の本拠地でもある。
大きな港町と穏やかな海岸線もあり、風光明媚で温暖な気候とあって、行楽地としても保養地としても名高い。
そろそろ町に近づいて来たかという所で馬車が停まった。

また、乗り換えるのかしら?

マリアローゼは兄弟達と顔を見合わせて、こてん、と首を傾げた。
ノクスが席を立って、入口の鍵を外すと、外から扉を開ける人物がいる。
笑顔でジェレイドが手招きした。

「ローゼ、おいで」

「?はい」

よく分からないまま、マリアローゼはキースの膝から降りて、入口に向かってとてとてと歩いて、
ジェレイドにふわりと抱き上げられた。
後ろでパタン、と馬車の扉が開く音がして、再度マリアローゼは首を傾げた。

「え?あの…わたくしだけですの?」
「うん、そうだよ」

ジェレイドは晴れやかな笑顔で頷いた。
そのまま騎士が持っていた愛馬の手綱を受け取って、マリアローゼを片手に抱いたまま、ひらりと馬の背に乗った。
全然衝撃を感じない所作で、もしかしたら魔法も使っているのかもしれない。

「僕が皆にお披露目したいのは君だけだからね」

笑顔で片目を瞑って見せる悪戯っぽい表情は、年上と言うより双子の兄に対するような弟を見るような気分になり、
マリアローゼは、はあ、と溜息を吐いた。

「またそんな事を仰って…」
「流石に大きい町だし、祭りもそろそろ始まるから他国からも人が来てる。人数が多いと守りきれないだろうけど、
あの馬車なら安全だ。対魔法結界も張ってあるし」

初耳ですが!?

「で、ではわたくしも安全な馬車の中にいた方がよろしいのでは」
「いや、僕の腕の中が世界中で一番安全だよ、愛しいお姫様」

糖度が増した言葉に、胸焼けしそうになりつつも、マリアローゼは小さな手で、ジェレイドの騎士鎧をぺちぺち叩いた。

「では安心して護られますので、参りましょう。海のお屋敷まではまだ距離がございますでしょう?」
「うん。だから今日は町にある僕の屋敷に立ち寄るよ」

それも初耳ですわ!?

ジェレイドがさっと片手を上げると、先頭の騎士が合図のラッパを吹いて、一行はまた進み始める。
この前と同じ様に、街からの歓声が押し寄せてきた。
アイテールの町並みは、白壁にオレンジの屋根、そして見え隠れする紺碧の海という、海外の素敵な町、といった
風情だった。
モルファよりも更に沢山の人々でごった返し、ここでもまた花弁が上から撒かれる歓迎振りだ。
そして何よりジェレイドの名を呼ぶ人々が多い。
「レイ様はこちらでも大人気ですわねえ」

小さく手を振りながら、マリアローゼが感心したように言うと、不意にジェレイドがマリアローゼの髪に口付けて、
ワーっと歓声があがった。

「ちょっとお待ちになって、それは今必要でして?!」
「必要だよ?だってずっと君を此処に連れ帰るのを待ち望んでいたのだから。街の人も知ってるさ」

なんの衒いもなく笑顔で言われて、それに呼応するかのように、群集からマリアローゼ様ーと声がかかる。
マリアローゼは慌てて、そちらに顔を向け、小さく手を振って応えた。
やっぱりここでも街の人々は明るく、健康的だ。

「ほらね?」

嬉しそうなジェレイドの声が上から降って来て、マリアローゼはジェレイドの抱きしめている腕をぽんぽんと撫でた。

「ええ、レイ様が街の人に愛されているのは十分分かりましたわ」

我侭で独善的な所はあるけれど、人当たりも良く、領民にとって過ごしやすい環境を作る素晴らしい領主、
代行なのである。

「全部、君の為だよ」
「はい、レイ様の愛は伝わりました」

それは、とても危うく、重い家族愛だというのは十分承知していた。
心からの善意で行動していなかったとしても、多少の善意で悪政を布く人物より格段に良いと言えよう。
マリアローゼが望むのなら、彼はこのまま平穏で優しい世界を形作ってくれるのだから。

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