276 / 357
連載
重い家族愛
しおりを挟む
平原の城でゆっくりと3日間過ごし、階下の使用人達とも交流をして過ごしたマリアローゼは、
馬車に揺られて海辺の町、アイテールを目前にしていた。
アイテールはフィロソフィー公爵領で一番大きな町であり、公爵家の本拠地でもある。
大きな港町と穏やかな海岸線もあり、風光明媚で温暖な気候とあって、行楽地としても保養地としても名高い。
そろそろ町に近づいて来たかという所で馬車が停まった。
また、乗り換えるのかしら?
マリアローゼは兄弟達と顔を見合わせて、こてん、と首を傾げた。
ノクスが席を立って、入口の鍵を外すと、外から扉を開ける人物がいる。
笑顔でジェレイドが手招きした。
「ローゼ、おいで」
「?はい」
よく分からないまま、マリアローゼはキースの膝から降りて、入口に向かってとてとてと歩いて、
ジェレイドにふわりと抱き上げられた。
後ろでパタン、と馬車の扉が開く音がして、再度マリアローゼは首を傾げた。
「え?あの…わたくしだけですの?」
「うん、そうだよ」
ジェレイドは晴れやかな笑顔で頷いた。
そのまま騎士が持っていた愛馬の手綱を受け取って、マリアローゼを片手に抱いたまま、ひらりと馬の背に乗った。
全然衝撃を感じない所作で、もしかしたら魔法も使っているのかもしれない。
「僕が皆にお披露目したいのは君だけだからね」
笑顔で片目を瞑って見せる悪戯っぽい表情は、年上と言うより双子の兄に対するような弟を見るような気分になり、
マリアローゼは、はあ、と溜息を吐いた。
「またそんな事を仰って…」
「流石に大きい町だし、祭りもそろそろ始まるから他国からも人が来てる。人数が多いと守りきれないだろうけど、
あの馬車なら安全だ。対魔法結界も張ってあるし」
初耳ですが!?
「で、ではわたくしも安全な馬車の中にいた方がよろしいのでは」
「いや、僕の腕の中が世界中で一番安全だよ、愛しいお姫様」
糖度が増した言葉に、胸焼けしそうになりつつも、マリアローゼは小さな手で、ジェレイドの騎士鎧をぺちぺち叩いた。
「では安心して護られますので、参りましょう。海のお屋敷まではまだ距離がございますでしょう?」
「うん。だから今日は町にある僕の屋敷に立ち寄るよ」
それも初耳ですわ!?
ジェレイドがさっと片手を上げると、先頭の騎士が合図のラッパを吹いて、一行はまた進み始める。
この前と同じ様に、街からの歓声が押し寄せてきた。
アイテールの町並みは、白壁にオレンジの屋根、そして見え隠れする紺碧の海という、海外の素敵な町、といった
風情だった。
モルファよりも更に沢山の人々でごった返し、ここでもまた花弁が上から撒かれる歓迎振りだ。
そして何よりジェレイドの名を呼ぶ人々が多い。
「レイ様はこちらでも大人気ですわねえ」
小さく手を振りながら、マリアローゼが感心したように言うと、不意にジェレイドがマリアローゼの髪に口付けて、
ワーっと歓声があがった。
「ちょっとお待ちになって、それは今必要でして?!」
「必要だよ?だってずっと君を此処に連れ帰るのを待ち望んでいたのだから。街の人も知ってるさ」
なんの衒いもなく笑顔で言われて、それに呼応するかのように、群集からマリアローゼ様ーと声がかかる。
マリアローゼは慌てて、そちらに顔を向け、小さく手を振って応えた。
やっぱりここでも街の人々は明るく、健康的だ。
「ほらね?」
嬉しそうなジェレイドの声が上から降って来て、マリアローゼはジェレイドの抱きしめている腕をぽんぽんと撫でた。
「ええ、レイ様が街の人に愛されているのは十分分かりましたわ」
我侭で独善的な所はあるけれど、人当たりも良く、領民にとって過ごしやすい環境を作る素晴らしい領主、
代行なのである。
「全部、君の為だよ」
「はい、レイ様の愛は伝わりました」
それは、とても危うく、重い家族愛だというのは十分承知していた。
心からの善意で行動していなかったとしても、多少の善意で悪政を布く人物より格段に良いと言えよう。
マリアローゼが望むのなら、彼はこのまま平穏で優しい世界を形作ってくれるのだから。
馬車に揺られて海辺の町、アイテールを目前にしていた。
アイテールはフィロソフィー公爵領で一番大きな町であり、公爵家の本拠地でもある。
大きな港町と穏やかな海岸線もあり、風光明媚で温暖な気候とあって、行楽地としても保養地としても名高い。
そろそろ町に近づいて来たかという所で馬車が停まった。
また、乗り換えるのかしら?
マリアローゼは兄弟達と顔を見合わせて、こてん、と首を傾げた。
ノクスが席を立って、入口の鍵を外すと、外から扉を開ける人物がいる。
笑顔でジェレイドが手招きした。
「ローゼ、おいで」
「?はい」
よく分からないまま、マリアローゼはキースの膝から降りて、入口に向かってとてとてと歩いて、
ジェレイドにふわりと抱き上げられた。
後ろでパタン、と馬車の扉が開く音がして、再度マリアローゼは首を傾げた。
「え?あの…わたくしだけですの?」
「うん、そうだよ」
ジェレイドは晴れやかな笑顔で頷いた。
そのまま騎士が持っていた愛馬の手綱を受け取って、マリアローゼを片手に抱いたまま、ひらりと馬の背に乗った。
全然衝撃を感じない所作で、もしかしたら魔法も使っているのかもしれない。
「僕が皆にお披露目したいのは君だけだからね」
笑顔で片目を瞑って見せる悪戯っぽい表情は、年上と言うより双子の兄に対するような弟を見るような気分になり、
マリアローゼは、はあ、と溜息を吐いた。
「またそんな事を仰って…」
「流石に大きい町だし、祭りもそろそろ始まるから他国からも人が来てる。人数が多いと守りきれないだろうけど、
あの馬車なら安全だ。対魔法結界も張ってあるし」
初耳ですが!?
「で、ではわたくしも安全な馬車の中にいた方がよろしいのでは」
「いや、僕の腕の中が世界中で一番安全だよ、愛しいお姫様」
糖度が増した言葉に、胸焼けしそうになりつつも、マリアローゼは小さな手で、ジェレイドの騎士鎧をぺちぺち叩いた。
「では安心して護られますので、参りましょう。海のお屋敷まではまだ距離がございますでしょう?」
「うん。だから今日は町にある僕の屋敷に立ち寄るよ」
それも初耳ですわ!?
ジェレイドがさっと片手を上げると、先頭の騎士が合図のラッパを吹いて、一行はまた進み始める。
この前と同じ様に、街からの歓声が押し寄せてきた。
アイテールの町並みは、白壁にオレンジの屋根、そして見え隠れする紺碧の海という、海外の素敵な町、といった
風情だった。
モルファよりも更に沢山の人々でごった返し、ここでもまた花弁が上から撒かれる歓迎振りだ。
そして何よりジェレイドの名を呼ぶ人々が多い。
「レイ様はこちらでも大人気ですわねえ」
小さく手を振りながら、マリアローゼが感心したように言うと、不意にジェレイドがマリアローゼの髪に口付けて、
ワーっと歓声があがった。
「ちょっとお待ちになって、それは今必要でして?!」
「必要だよ?だってずっと君を此処に連れ帰るのを待ち望んでいたのだから。街の人も知ってるさ」
なんの衒いもなく笑顔で言われて、それに呼応するかのように、群集からマリアローゼ様ーと声がかかる。
マリアローゼは慌てて、そちらに顔を向け、小さく手を振って応えた。
やっぱりここでも街の人々は明るく、健康的だ。
「ほらね?」
嬉しそうなジェレイドの声が上から降って来て、マリアローゼはジェレイドの抱きしめている腕をぽんぽんと撫でた。
「ええ、レイ様が街の人に愛されているのは十分分かりましたわ」
我侭で独善的な所はあるけれど、人当たりも良く、領民にとって過ごしやすい環境を作る素晴らしい領主、
代行なのである。
「全部、君の為だよ」
「はい、レイ様の愛は伝わりました」
それは、とても危うく、重い家族愛だというのは十分承知していた。
心からの善意で行動していなかったとしても、多少の善意で悪政を布く人物より格段に良いと言えよう。
マリアローゼが望むのなら、彼はこのまま平穏で優しい世界を形作ってくれるのだから。
298
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。