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平原の城
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馬車が停まった。
道の途中のようだけど、着いたのかしら?
こてん、とマリアローゼが首を傾げたのを見て、フィデーリス夫人が優しく言った。
「門に着いたようでございますね。もうすぐですよ」
「まあ、そうでしたのね。楽しみですわ」
どんな屋敷なのだろう、と思いを馳せ…
だが、門から入った筈なのに、馬車は延々と森の中を走り続けている。
どれだけ広いのですか…?
20分程経ったころだろうか、森が開けて青い芝生と手入れされた花壇や生垣が目に入ってきて、漸く馬車が二度目の停車をした。
床で寛いで楽しそうに過ごしていた双子の兄が、今回も我先にと馬車を飛び出して行く。
マリアローゼは、近づいて来たシルヴァインにひょい、と抱き上げられると、馬車から外に連れ出された。
目の前にある屋敷は、屋敷ではなく城だ。
「平原のお屋敷と聞いてましたけれど、これはお城では…?」
「ああ、うん。城だね」
何度も来ているからか、シルヴァインは事も無げにそう言う。
クリーム色のツヤツヤした石で立てられた、尖塔もいくつか見える優美な城である。
その入口の前に、お仕着せをきた従業員が一列に並んでいた。
「お帰りなさいませ」
その中で家令を務めているのだろう片眼鏡をした初老の男性が、胸に手を当てて丁寧な最敬礼をすると、従業員達もそれに倣って丁寧にお辞儀をした。
「暫くの間、宜しくお願い致しますわね」
母が優しい声音でそう言い、城の中へ入っていく。
男性の使用人達はそれを皮切りに、後続の馬車へと向かい、荷運びを手伝い始め、女性の使用人はいそいそと使用人入口があるのだろう生垣に設えられた小さな木戸へと歩いて行った。
フィデーリス夫人は、家令と会話を交わしてから、ルーナとノクスを伴なってシルヴァインの前に立つ。
「お嬢様をお部屋にご案内致しますよ」
「ああ、俺が連れて行くよ。案内してくれ」
「畏まりました」
微笑を浮かべたまま、フィデーリス夫人は会釈をして、先頭を歩いて行く。
ノクスはマリアローゼの身の回りの品が入った鞄を両手に持ち、ルーナは何時もの手荷物を持って後ろを付いて来る。
使用人達はきちんと教育をされていて不快な気持ちにはならなかったのだが、視線はどうしても気になってしまう。
「ここでもお兄様は注目を集めますのね」
ちらちらと視線を送られていたのが気になったマリアローゼが笑顔で言うと、シルヴァインはマリアローゼの頬をぷにっと突いた。
「何を言ってるんだか、君は。皆、初めて見る末娘のマリアローゼお嬢様が気になっていたに決まってるじゃないか」
此処には初めて来たのだから、物珍しいのかもしれない。
とマリアローゼも納得して、ふんふんと頷いた。
玄関を通り抜けると大きな吹き抜けのホールがあり、天井の丸いガラス窓と幾つかのガラス窓から光が降り注ぐ。
金の縁取りの青い絨毯が延びている先は、大きな階段が有り、真ん中の踊り場で左右に分かれている。
そこを左に上がると、1つめの部屋がマリアローゼに与えられた部屋だった。
両扉の部屋の入口には、既に騎士が詰めていて、姿勢を正して一行を迎える。
部屋に入ると、そこはとても豪華な内装を施された部屋だった。
真ん中には大きな応接用の長机に長椅子が設えてあり、続き部屋には天蓋付きのベッドも見える。
家具も全て真新しくぴかぴかと磨き上げられていて、公爵邸にあった家具と遜色ない取り揃えだ。
部屋に一歩踏み入って、シルヴァインはマリアローゼを床に降ろした。
「着替えもあるだろうから、俺は失礼するよ。何か用があったら呼んでくれ」
「有難う存じます、お兄様」
マリアローゼはお辞儀をして、兄を見送ると、フィデーリス夫人も続いて出て行った。
「後は頼みましたよ」
とノクスとルーナに言い置いて、マリアローゼにお辞儀と挨拶をして。
道の途中のようだけど、着いたのかしら?
こてん、とマリアローゼが首を傾げたのを見て、フィデーリス夫人が優しく言った。
「門に着いたようでございますね。もうすぐですよ」
「まあ、そうでしたのね。楽しみですわ」
どんな屋敷なのだろう、と思いを馳せ…
だが、門から入った筈なのに、馬車は延々と森の中を走り続けている。
どれだけ広いのですか…?
20分程経ったころだろうか、森が開けて青い芝生と手入れされた花壇や生垣が目に入ってきて、漸く馬車が二度目の停車をした。
床で寛いで楽しそうに過ごしていた双子の兄が、今回も我先にと馬車を飛び出して行く。
マリアローゼは、近づいて来たシルヴァインにひょい、と抱き上げられると、馬車から外に連れ出された。
目の前にある屋敷は、屋敷ではなく城だ。
「平原のお屋敷と聞いてましたけれど、これはお城では…?」
「ああ、うん。城だね」
何度も来ているからか、シルヴァインは事も無げにそう言う。
クリーム色のツヤツヤした石で立てられた、尖塔もいくつか見える優美な城である。
その入口の前に、お仕着せをきた従業員が一列に並んでいた。
「お帰りなさいませ」
その中で家令を務めているのだろう片眼鏡をした初老の男性が、胸に手を当てて丁寧な最敬礼をすると、従業員達もそれに倣って丁寧にお辞儀をした。
「暫くの間、宜しくお願い致しますわね」
母が優しい声音でそう言い、城の中へ入っていく。
男性の使用人達はそれを皮切りに、後続の馬車へと向かい、荷運びを手伝い始め、女性の使用人はいそいそと使用人入口があるのだろう生垣に設えられた小さな木戸へと歩いて行った。
フィデーリス夫人は、家令と会話を交わしてから、ルーナとノクスを伴なってシルヴァインの前に立つ。
「お嬢様をお部屋にご案内致しますよ」
「ああ、俺が連れて行くよ。案内してくれ」
「畏まりました」
微笑を浮かべたまま、フィデーリス夫人は会釈をして、先頭を歩いて行く。
ノクスはマリアローゼの身の回りの品が入った鞄を両手に持ち、ルーナは何時もの手荷物を持って後ろを付いて来る。
使用人達はきちんと教育をされていて不快な気持ちにはならなかったのだが、視線はどうしても気になってしまう。
「ここでもお兄様は注目を集めますのね」
ちらちらと視線を送られていたのが気になったマリアローゼが笑顔で言うと、シルヴァインはマリアローゼの頬をぷにっと突いた。
「何を言ってるんだか、君は。皆、初めて見る末娘のマリアローゼお嬢様が気になっていたに決まってるじゃないか」
此処には初めて来たのだから、物珍しいのかもしれない。
とマリアローゼも納得して、ふんふんと頷いた。
玄関を通り抜けると大きな吹き抜けのホールがあり、天井の丸いガラス窓と幾つかのガラス窓から光が降り注ぐ。
金の縁取りの青い絨毯が延びている先は、大きな階段が有り、真ん中の踊り場で左右に分かれている。
そこを左に上がると、1つめの部屋がマリアローゼに与えられた部屋だった。
両扉の部屋の入口には、既に騎士が詰めていて、姿勢を正して一行を迎える。
部屋に入ると、そこはとても豪華な内装を施された部屋だった。
真ん中には大きな応接用の長机に長椅子が設えてあり、続き部屋には天蓋付きのベッドも見える。
家具も全て真新しくぴかぴかと磨き上げられていて、公爵邸にあった家具と遜色ない取り揃えだ。
部屋に一歩踏み入って、シルヴァインはマリアローゼを床に降ろした。
「着替えもあるだろうから、俺は失礼するよ。何か用があったら呼んでくれ」
「有難う存じます、お兄様」
マリアローゼはお辞儀をして、兄を見送ると、フィデーリス夫人も続いて出て行った。
「後は頼みましたよ」
とノクスとルーナに言い置いて、マリアローゼにお辞儀と挨拶をして。
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