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料理がしたいお嬢様
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「普段からお行儀が悪いのですもの。この位何という事もありませんわ。この機会に床での旅をご堪能くださいませ」
「も、もしかして、今朝の事、根に持ってる?」
「半分こなんて冗談だよ、ローゼ」
慌てたように双子が懇願を始めるが、マリアローゼは動じなかった。
「そうですの?でしたら次はもう少し言葉にお気をつけくださいませね?」
今回は譲ってはくれないようで、双子はしおしおと床に座った。
「さ、フィデーリス夫人、こちらに一緒にお座りになって」
「ええ、お嬢様」
二人が一緒に席に着くと、ノクスが出発の合図を壁越しに伝えて、馬車は走り出した。
そして、双子はと言えば、普段は出来ない床での旅を早速満喫し始めている。
最初から嫌だなんて思っていないのは分かっていたけれど、本当に自由奔放すぎますわ。
自分が命じたにも関わらず、マリアローゼは寛ぐ双子をジト目で見て、それから布の袋から焼きたてのパンを取り出して、ルーナとノクスにひとつずつ、フィデーリス夫人と自分の分を取ってから、後ろの兄達の席に布袋ごと手渡した。
「さあ、頂きましょう」
声をかけて、マリアローゼもパンを千切って食べ始める。
パリッと焼けた香ばしい固めの皮に、中はふんわりと甘みを感じる芳醇な味わいのパンだった。
そこに果実を煮たソースと、柔らかく煮えた果実の実がしっとりとした甘みを付け加える。
甘すぎず、酸味も程ほどでとてもパンにあう美味しさだ。
「まあ、本当に美味しいですわ」
「はい、美味しいです、お嬢様」
「美味しいです」
ルーナとノクスも、もぐもぐと食べながら頷いて笑顔を見せた。
マリアローゼは旅をしている間に忘れてしまった事を思い出して、二人を見てはにかむ。
「二人の美味しそうに食べる姿を見て思い出しましたわ。わたくし、領地ではお料理のお勉強もしたいのです」
「まあまあ、それは、お嬢様がなさる事ではございませんよ」
一緒にパンを食べていたフィデーリス夫人が驚いたように言うが、本気で否定している訳ではない。
「だって、お母様やお兄様達にも、美味しい物を作って差し上げたいの。勿論、ルーナやノクスや夫人にもですわ」
「そんな事を言われてしまって、断れる人がいるかどうか」
苦笑をするフィデーリス夫人の目は優しい。
そして、こっそりとマリアローゼに顔を近づけ、声を潜めて囁く。
「ミルリーリウム様も、昔同じ事を仰って、よく一緒に厨房に立ったものですわ」
「まあ、では、問題ありませんわね?とても嬉しいですわ」
フィデーリス夫人は姿勢を正して、コホンと咳払いをすると、ルーナとノクスを見た。
「でも少しお時間を頂かなくてはなりません。ルーナとノクスにも基本的な事を学ばせませんと。お嬢様のお手伝いが出来ますように」
「はい、勿論、ご教授頂きたく存じます」
「私も、頑張ります」
ルーナとノクスもキリッとした顔で、フィデーリス夫人に答え、マリアローゼは期待に胸を膨らませるのだった。
「も、もしかして、今朝の事、根に持ってる?」
「半分こなんて冗談だよ、ローゼ」
慌てたように双子が懇願を始めるが、マリアローゼは動じなかった。
「そうですの?でしたら次はもう少し言葉にお気をつけくださいませね?」
今回は譲ってはくれないようで、双子はしおしおと床に座った。
「さ、フィデーリス夫人、こちらに一緒にお座りになって」
「ええ、お嬢様」
二人が一緒に席に着くと、ノクスが出発の合図を壁越しに伝えて、馬車は走り出した。
そして、双子はと言えば、普段は出来ない床での旅を早速満喫し始めている。
最初から嫌だなんて思っていないのは分かっていたけれど、本当に自由奔放すぎますわ。
自分が命じたにも関わらず、マリアローゼは寛ぐ双子をジト目で見て、それから布の袋から焼きたてのパンを取り出して、ルーナとノクスにひとつずつ、フィデーリス夫人と自分の分を取ってから、後ろの兄達の席に布袋ごと手渡した。
「さあ、頂きましょう」
声をかけて、マリアローゼもパンを千切って食べ始める。
パリッと焼けた香ばしい固めの皮に、中はふんわりと甘みを感じる芳醇な味わいのパンだった。
そこに果実を煮たソースと、柔らかく煮えた果実の実がしっとりとした甘みを付け加える。
甘すぎず、酸味も程ほどでとてもパンにあう美味しさだ。
「まあ、本当に美味しいですわ」
「はい、美味しいです、お嬢様」
「美味しいです」
ルーナとノクスも、もぐもぐと食べながら頷いて笑顔を見せた。
マリアローゼは旅をしている間に忘れてしまった事を思い出して、二人を見てはにかむ。
「二人の美味しそうに食べる姿を見て思い出しましたわ。わたくし、領地ではお料理のお勉強もしたいのです」
「まあまあ、それは、お嬢様がなさる事ではございませんよ」
一緒にパンを食べていたフィデーリス夫人が驚いたように言うが、本気で否定している訳ではない。
「だって、お母様やお兄様達にも、美味しい物を作って差し上げたいの。勿論、ルーナやノクスや夫人にもですわ」
「そんな事を言われてしまって、断れる人がいるかどうか」
苦笑をするフィデーリス夫人の目は優しい。
そして、こっそりとマリアローゼに顔を近づけ、声を潜めて囁く。
「ミルリーリウム様も、昔同じ事を仰って、よく一緒に厨房に立ったものですわ」
「まあ、では、問題ありませんわね?とても嬉しいですわ」
フィデーリス夫人は姿勢を正して、コホンと咳払いをすると、ルーナとノクスを見た。
「でも少しお時間を頂かなくてはなりません。ルーナとノクスにも基本的な事を学ばせませんと。お嬢様のお手伝いが出来ますように」
「はい、勿論、ご教授頂きたく存じます」
「私も、頑張ります」
ルーナとノクスもキリッとした顔で、フィデーリス夫人に答え、マリアローゼは期待に胸を膨らませるのだった。
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