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連載
冒険がしたい男装お嬢様
しおりを挟む天幕の下に戻ったマリアローゼに、早速ルーナがサンドイッチとスープを運んできた。
野外用に作られた木の盆を膝の上に乗せて、マリアローゼはもくもくとサンドイッチを平らげる。
スープは天幕の横で、調理人が温めたものを騎士達にも振る舞っていた。
いつもながら、とても美味しいのである。
燻製肉とクリームチーズや葉野菜に加えて、マスロのチーズも挟まれていて、濃厚な味のサンドイッチに、肉と野菜を煮込んだあっさり目の味のスープが良く合っている。
冷やされた紅茶も、爽やかでスッキリした味わいで美味しい。
兄達も楽しそうにもぐもぐと食べている。
「お母様、少しぼ……お散歩してきても宜しいですか?」
「ええ、構いませんわよ。皆が食べ終えるまで時間がかかるものね」
「はい。有難う存じます」
明らかに冒険と言おうとした妹を、シルヴァインが見逃す筈もなく…
「俺も一緒に行くよ」
朗らかに申し出るが、マリアローゼはふるふるっと首を横に振った。
「マリーちゃんの様子を見に行くだけですし、グランスとユリアさんとカンナお姉様もおりますので」
「それならまあ、いいだろう。俺は騎士達と運動でもしてくるかな」
身体を動かしつつ、立ち上がったシルヴァインはマリアローゼに片目を瞑って見せてから、
騎士達のいる方へと歩いて行った。
好戦的な兄なのである。
マリアローゼは食べ終わると早速立ち上がると、ルーナとノクスも連れてマリーのいる川べりに歩いて行く。
マリーは水を飲み終わったのか、熱心に草をむしゃむしゃと食べていた。
「ふふ…可愛いですわねえ……」
そんな食いしん坊な羊の背中を、ぽんぽんと撫でながら満足そうにマリアローゼは微笑んだ。
ぴぃぴぃ……
何処かからか細い口笛のような音が聞こえてきて、マリアローゼは視線を巡らせた。
暫くすると、また同じ声が聞こえてきて、少し離れた場所に小さい生き物がいるのを見つけ、
マリアローゼは急いで駆け寄った。
黄色いふわふわの、鶏の雛がよれよれになって蹲っている。
「まあ……どうしたの?親は何処にいるのかしら?」
マリアローゼが掌に乗せてその雛を観察すると、少しだけ傷がついて血が出ている。
「ルーナ、お薬を頂戴」
「はい、お嬢様」
言いながら、ルーナは持参した手荷物から薬を取り出すと、マリアローゼに手渡した。
マリアローゼは迷うことなく薬の蓋を開けて傷口に薬を塗りこむと、雛は一瞬動きを止めたものの、傷の痛みが引いたからか、ぴょん、とマリアローゼの手から飛び降りた。
「あら…どこにいくの?お母さんのところかしら?」
ぴぃぴぃと忙しなく鳴きながら走っていく雛の後ろについて、マリアローゼもちょこちょこ着いて行く。
大きな茂みのある場所に辿り着き、雛はその茂みの隙間によちよちと歩を進めている。
「何とか行けそうですわね」
子供1人通れそうな茂みの穴に、躊躇なく頭を突っ込む公爵令嬢に、さすがにルーナは制止の声をかけた。
「駄目です!お嬢様」
「でもあの子を放ってはおけませんわ!」
もそもそと身を屈めて這って行くマリアローゼを止められず、ルーナはグランスを見た。
「私は向こう側に先回りする。侍女殿はそのままマリアローゼ様の後ろを頼む」
「分かりました!」
もそもそと進んでいくと、やがて前方が開けているのが見えてきて、茂みから顔を出した所でその犬に出くわした。
雛は倒れた親鳥の近くでぴぃぴぃと鳴き、親鳥は今まで戦っていたのか、満身創痍で倒れている。
マリアローゼは慌てて穴から這い出ると、その二匹を背に庇った。
ど、どうしましょう、武器になるもの…
咄嗟に辺りを見回すが、武器になりそうなものは落ちていない。
ハッと気がついて、足に備えていたナイフに手を伸ばす前に、目の前の犬が唸りをあげた。
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