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旅立ち
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旅立ちの朝である。
まだ暗い内に簡単な朝食を済ませて、使用人達との別れの挨拶をする為に、マリアローゼは階下へと足を運ぶ。
温室や図書館、下級使用人達の館などは既に昨日別れの挨拶は済ませてある。
パーティーや侯爵夫人の訪問によって、日程がずれた事に感謝しなくてはいけない。
階下では本邸で働く使用人達が集っている。
出発前の慌しさはあるものの、ここ数日用意に時間をかけることが出来たので、差程でもないようだ。
マリアローゼが現れると、使用人達は一斉に椅子から立ち上がった。
「休憩をお邪魔してごめんなさい。今までずっと、わたくし達の為に働いて頂き、ありがとう存じます。
暫く王都を離れますけれど、皆様がご健勝であられるように領地から祈っておりますわ」
丁寧な挨拶に、耐え切れず何人かが泣き出してしまった。
特に、不寝番を勤めたり、何かと近くで世話をしていたリーナとナーヴァは号泣である。
マリアローゼはそんな二人の側に寄ると、ぎゅっと小さな身体で抱きしめた。
「二人とも、お元気でね」
「…は、はい゛お嬢様あぁ゛」
「ほらほら二人とも、お嬢様がお困りですよ」
二人を慰めるように窘めたフィデーリス夫人は、首まで隠れる長袖の黒いお仕着せではなく、
珍しく明るい色彩の服を身に纏っている。
いつも腰から下げている、本邸の鍵束は今は身につけていない。
「フィデーリスさん゛……」
今度はフィデーリス夫人と二人は抱き合った。
「私はすぐ戻ってきますから、二人ともしっかりね」
「はいぃ…」
今回、領地へはフィデーリス夫人も一緒に行く事になっている。
領地の使用人達の様子を見て指導し、オリーヴェやステラという新人使用人の世話をする為である。
半年から1年、フィデーリス夫人のお眼鏡に叶うまでの期間、領地で過ごして王都に戻る予定だ。
マリアローゼはフィデーリス夫人と共に、他の従業員とも挨拶を重ねて、最後に家令のケレスにぎゅっと抱きついた。
「お嬢様、お帰りになられるのを心待ちにしております」
「はい、ケレス。立派な淑女になって戻って参りますわ」
「今でもお嬢様は立派な淑女で御座いますよ」
見上げると、優しい目に涙が浮かんでいて、マリアローゼも流石に涙を抑え切れなかった。
生まれた日から、ずっとこの公爵邸で過ごし、見守ってきてくれた人との別れなのだ。
「も、もっと立派になるのです……きっとケレスも驚いてしまいますわ」
「はい、お嬢様。楽しみにお待ちしております」
優しくハンカチで涙を拭われて、マリアローゼは微笑を浮かべた。
ずらりと並んだ使用人達に最後は見送られて、馬車はゆっくりと動き出す。
流石に今回は、ジェラルドも我慢をしたようで、我侭は言い出さずに見送った。
「お姫さん!またな!」
そんな中、フェレスの別れの声が響いて、ぶんぶんと手を振る姿が目に入り、マリアローゼも小さく手を振り返す。
本邸に残る騎士達も皆、フェレスと共にぶんぶんと手を振って見送ってくれた。
フェレスは兄弟を養っているので、5年もの間領地に行く事は出来ないので、グランスと交代する形で
マリアローゼの護衛騎士を退いたのだ。
まだ暗い内に簡単な朝食を済ませて、使用人達との別れの挨拶をする為に、マリアローゼは階下へと足を運ぶ。
温室や図書館、下級使用人達の館などは既に昨日別れの挨拶は済ませてある。
パーティーや侯爵夫人の訪問によって、日程がずれた事に感謝しなくてはいけない。
階下では本邸で働く使用人達が集っている。
出発前の慌しさはあるものの、ここ数日用意に時間をかけることが出来たので、差程でもないようだ。
マリアローゼが現れると、使用人達は一斉に椅子から立ち上がった。
「休憩をお邪魔してごめんなさい。今までずっと、わたくし達の為に働いて頂き、ありがとう存じます。
暫く王都を離れますけれど、皆様がご健勝であられるように領地から祈っておりますわ」
丁寧な挨拶に、耐え切れず何人かが泣き出してしまった。
特に、不寝番を勤めたり、何かと近くで世話をしていたリーナとナーヴァは号泣である。
マリアローゼはそんな二人の側に寄ると、ぎゅっと小さな身体で抱きしめた。
「二人とも、お元気でね」
「…は、はい゛お嬢様あぁ゛」
「ほらほら二人とも、お嬢様がお困りですよ」
二人を慰めるように窘めたフィデーリス夫人は、首まで隠れる長袖の黒いお仕着せではなく、
珍しく明るい色彩の服を身に纏っている。
いつも腰から下げている、本邸の鍵束は今は身につけていない。
「フィデーリスさん゛……」
今度はフィデーリス夫人と二人は抱き合った。
「私はすぐ戻ってきますから、二人ともしっかりね」
「はいぃ…」
今回、領地へはフィデーリス夫人も一緒に行く事になっている。
領地の使用人達の様子を見て指導し、オリーヴェやステラという新人使用人の世話をする為である。
半年から1年、フィデーリス夫人のお眼鏡に叶うまでの期間、領地で過ごして王都に戻る予定だ。
マリアローゼはフィデーリス夫人と共に、他の従業員とも挨拶を重ねて、最後に家令のケレスにぎゅっと抱きついた。
「お嬢様、お帰りになられるのを心待ちにしております」
「はい、ケレス。立派な淑女になって戻って参りますわ」
「今でもお嬢様は立派な淑女で御座いますよ」
見上げると、優しい目に涙が浮かんでいて、マリアローゼも流石に涙を抑え切れなかった。
生まれた日から、ずっとこの公爵邸で過ごし、見守ってきてくれた人との別れなのだ。
「も、もっと立派になるのです……きっとケレスも驚いてしまいますわ」
「はい、お嬢様。楽しみにお待ちしております」
優しくハンカチで涙を拭われて、マリアローゼは微笑を浮かべた。
ずらりと並んだ使用人達に最後は見送られて、馬車はゆっくりと動き出す。
流石に今回は、ジェラルドも我慢をしたようで、我侭は言い出さずに見送った。
「お姫さん!またな!」
そんな中、フェレスの別れの声が響いて、ぶんぶんと手を振る姿が目に入り、マリアローゼも小さく手を振り返す。
本邸に残る騎士達も皆、フェレスと共にぶんぶんと手を振って見送ってくれた。
フェレスは兄弟を養っているので、5年もの間領地に行く事は出来ないので、グランスと交代する形で
マリアローゼの護衛騎士を退いたのだ。
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