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仕立て屋と旅の用意
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母と相談して、最初は兄のお下がりを貰う体でマリアローゼは話していたのだが、
基本的に公爵家ではサイズアウトした物は、使用人の子供に下賜するか、孤児院に寄付してしまい、
兄から弟へのお下がり、という慣例は存在していなかった。
という事で、急遽仕立て屋が呼ばれて採寸をされ、マリアローゼの為の服が用意される事となった。
「ねえ、ローゼ、折角ですからドレスも作りましょう」
「もう十分ございますわ、お母様。折角お父様とお母様が下さったお洋服ですもの。
袖を通さずに着られなくなるのは嫌ですわ……」
困った顔で主張すると、ミルリーリウムはまあ……と嬉しそうに微笑んだ。
そして、すかさずマリアローゼは笑顔で強請る。
「それよりも汚して良いように、ズボンは何着か頂きたいです。あと髪の毛を隠せる帽子も」
「帽子!そうね、帽子屋さんも呼びましょう。新しいものを幾つか見繕ってきて貰いましょうね。
もちろん少年に見える帽子も一緒に」
どちらかというとメインは後者なのだが、異論は無いのでマリアローゼはこくん、と頷いた。
「ナターシャ、仮縫いは今日中に出来まして?」
「ええ、奥様。一着は完成品をお渡しできますし、追加で2着までなら仮縫いまでご用意できます」
「大変結構です。後は我が家のお針子に仕上げをさせますわ」
母娘の希望を聞きながら、布や意匠をてきぱきと決めた仕立て屋のナターシャは、恭しく頭を下げた。
そして、助手のお針子を連れて退室していく。
「ふああぁぁ疲れましたわ……」
数時間後、マリアローゼは長椅子にぐったりと寝そべっていた。
淑女にあるまじき姿ではあるが、疲れ切っているので仕方ない、とマリアローゼは勝手に判断する。
仕立て屋が帰った後には帽子屋が来て、更にその後靴屋まで訪れ、更に下着商と靴下屋に手袋屋と続き、
革職人もやって来た。
全員まとめて来てほしい……
細分化し過ぎて、選ぶ方もくたくたである。
思えば現代では物が溢れていた。
店も沢山あるし、デパートやショッピングモールでは既に完成した既製品が売られていて、
好きなデザインや自分に合うサイズの品がすぐに手に入るのだ。
でもここの世界では違う。
物量が少ないのは材料不足というよりは、工業用の器具が少ないのが理由の一つだろう。
ミシンは必要ですわね。
電気がなくても魔法があるし、何なら最初は足踏みミシンでも十分だ。
どの分野に量産体制を築くとしても、それは緩やかな変化でなくてはならない。
下手をしたら教会に目をつけられてしまうし、急な成長には自然破壊やその他諸々弊害を生みやすいのだ。
まずは一次生産を潤しつつ、作業効率を上げる魔道具の開発、それから細分化された職業ギルドの併合…
問題は山積みであるが、マリアローゼはとりあえず甘いもので自分を労わることにした。
今日のお菓子は、チョコたっぷりのチョコブラウニーだ。
マリアローゼはしっとりした生地のブラウニーをフォークで切って口に運ぶ。
少しの苦味と圧倒的な甘さに、幸福感が広がる。
「美味しいですわ……」
はふうぅと溜息を吐きながらいい、ルーナの淹れてくれた甘味のないスッキリした紅茶で喉を潤す。
のんびりと甘味を楽しみつつ、マリアローゼは肝心の旅行、というよりも引越しに近い旅について考え始めた。
「忘れ物をしそう……」
思わずぽつりと呟くと、ルーナが心配そうに覗き込んできた。
「お嬢様の愛用の文具や身の回りの物は既に荷馬車に積んでおりますし、ロバは手荷物に入れてございます。
置物は明日の朝、追加致しますが、他に何かございましたら、お申し付け下さい」
「いえ、違うのです。ルーナは問題ありませんの。わたくし、色々考え過ぎてしまって、身近な事をすっかり忘れて
しまいそうで、少し不安になったのですわ」
心配させてしまったので、マリアローゼは安心させるようににっこりと微笑んだ。
ルーナはふと、思い浮かべる表情をして、こくん、と頷いて続ける。
「マリー様も先程馬車に乗せております」
「マリーちゃん!…ありがとう、ルーナ」
忘れてはいなかったのだが、やはりルーナが手配していなければ、明日慌てたかもしれない。
マリアローゼはふむ、と考え始めた。
基本的に公爵家ではサイズアウトした物は、使用人の子供に下賜するか、孤児院に寄付してしまい、
兄から弟へのお下がり、という慣例は存在していなかった。
という事で、急遽仕立て屋が呼ばれて採寸をされ、マリアローゼの為の服が用意される事となった。
「ねえ、ローゼ、折角ですからドレスも作りましょう」
「もう十分ございますわ、お母様。折角お父様とお母様が下さったお洋服ですもの。
袖を通さずに着られなくなるのは嫌ですわ……」
困った顔で主張すると、ミルリーリウムはまあ……と嬉しそうに微笑んだ。
そして、すかさずマリアローゼは笑顔で強請る。
「それよりも汚して良いように、ズボンは何着か頂きたいです。あと髪の毛を隠せる帽子も」
「帽子!そうね、帽子屋さんも呼びましょう。新しいものを幾つか見繕ってきて貰いましょうね。
もちろん少年に見える帽子も一緒に」
どちらかというとメインは後者なのだが、異論は無いのでマリアローゼはこくん、と頷いた。
「ナターシャ、仮縫いは今日中に出来まして?」
「ええ、奥様。一着は完成品をお渡しできますし、追加で2着までなら仮縫いまでご用意できます」
「大変結構です。後は我が家のお針子に仕上げをさせますわ」
母娘の希望を聞きながら、布や意匠をてきぱきと決めた仕立て屋のナターシャは、恭しく頭を下げた。
そして、助手のお針子を連れて退室していく。
「ふああぁぁ疲れましたわ……」
数時間後、マリアローゼは長椅子にぐったりと寝そべっていた。
淑女にあるまじき姿ではあるが、疲れ切っているので仕方ない、とマリアローゼは勝手に判断する。
仕立て屋が帰った後には帽子屋が来て、更にその後靴屋まで訪れ、更に下着商と靴下屋に手袋屋と続き、
革職人もやって来た。
全員まとめて来てほしい……
細分化し過ぎて、選ぶ方もくたくたである。
思えば現代では物が溢れていた。
店も沢山あるし、デパートやショッピングモールでは既に完成した既製品が売られていて、
好きなデザインや自分に合うサイズの品がすぐに手に入るのだ。
でもここの世界では違う。
物量が少ないのは材料不足というよりは、工業用の器具が少ないのが理由の一つだろう。
ミシンは必要ですわね。
電気がなくても魔法があるし、何なら最初は足踏みミシンでも十分だ。
どの分野に量産体制を築くとしても、それは緩やかな変化でなくてはならない。
下手をしたら教会に目をつけられてしまうし、急な成長には自然破壊やその他諸々弊害を生みやすいのだ。
まずは一次生産を潤しつつ、作業効率を上げる魔道具の開発、それから細分化された職業ギルドの併合…
問題は山積みであるが、マリアローゼはとりあえず甘いもので自分を労わることにした。
今日のお菓子は、チョコたっぷりのチョコブラウニーだ。
マリアローゼはしっとりした生地のブラウニーをフォークで切って口に運ぶ。
少しの苦味と圧倒的な甘さに、幸福感が広がる。
「美味しいですわ……」
はふうぅと溜息を吐きながらいい、ルーナの淹れてくれた甘味のないスッキリした紅茶で喉を潤す。
のんびりと甘味を楽しみつつ、マリアローゼは肝心の旅行、というよりも引越しに近い旅について考え始めた。
「忘れ物をしそう……」
思わずぽつりと呟くと、ルーナが心配そうに覗き込んできた。
「お嬢様の愛用の文具や身の回りの物は既に荷馬車に積んでおりますし、ロバは手荷物に入れてございます。
置物は明日の朝、追加致しますが、他に何かございましたら、お申し付け下さい」
「いえ、違うのです。ルーナは問題ありませんの。わたくし、色々考え過ぎてしまって、身近な事をすっかり忘れて
しまいそうで、少し不安になったのですわ」
心配させてしまったので、マリアローゼは安心させるようににっこりと微笑んだ。
ルーナはふと、思い浮かべる表情をして、こくん、と頷いて続ける。
「マリー様も先程馬車に乗せております」
「マリーちゃん!…ありがとう、ルーナ」
忘れてはいなかったのだが、やはりルーナが手配していなければ、明日慌てたかもしれない。
マリアローゼはふむ、と考え始めた。
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