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兄妹の約束
しおりを挟む「王妃殿下から、打診されたんだ」
王妃?
マリアローゼはシルヴァインのくぐもった声を聞きながらきょとん、とした。
「アルベルト殿下やロランド殿下から君を遠ざけたいと。
末弟の為なら兄二人は争わずに身を退くのではないかと。
エネア殿下なら成長まで時間があるし、忘れないように一度会いに来て貰えないかとそう仰っていた」
「お兄様、それを変に思いませんでしたの?」
「王妃殿下が兄弟の争いに発展させたくないだろうから、そういう手を打つ事はおかしな事ではないと」
「そちらではありません」
マリアローゼは真っ向から否定して、シルヴァインを見詰めた。
思ったより近いところに顔があって、ひゃあ、とマリアローゼは仰け反る。
顔面偏差値ぃぃぃ!
やつれた顔もイケメンなのが悔しい。
気を取り直して、マリアローゼは続けて言った。
「おかしいのは、その話をお兄様に持ってきたことですわ。普通ならばお母様を通すでしょう」
「………ああ、そうか。そういう事か」
勿論、お母様に対して言い出しにくい部分はあるかもしれないというのはある。
断られる可能性が高い、というのもある。
けれど、父と母を飛び越えて兄に打診するのは、おかしい。
兄の眼に、ギラリとした覇気が戻っていた。
「もう此処まで言えば、黒幕は誰かお分かりでしょう?わたくしは、わたくしを操ろうとする方は嫌です。お兄様、もう二度とわたくしの意に染まぬ事を、突然言い出すのはお止めください。
わたくしは、お兄様に利用されたのかと思いましたのよ。道具の様に」
「そんな事、あるわけないだろう」
シルヴァインが強く否定をしたが、マリアローゼはつん、と顔を反らした。
「そういう誤解を与えた罪です。きちんと理由も話さず、他の男性の元へ行けと言われましたのよ!」
相手は赤ちゃんだが、まあいい。
マリアローゼはそのまま押し切る事にした。
「わたくしを、物言わぬ道具とお考えではないのでしたら、今まで通り理由をちゃんと話して、わたくしの意志を望みを尊重してくださいませ」
「分かったよ、ローゼ。身に沁みた」
もう一度ぎゅっと抱き寄せられ、頭にすりすりと頬を摺り寄せられる。
大型の猫みたいで、マリアローゼは仕方なくされるままにしていた。
「本当でしたらもう一日くらい、先延ばしにする予定でしたのよ。でも叔父上の策略に搦め取られるのは絶対に嫌。ローゼの愛があるのですから、憔悴なさるのはもう終わりになさってね」
「…ああ、困ったな。弱みを見せてしまった。君に、この事をずっと言われそうだ」
「言われて困るような事なさいませんよう、ご忠告致しますわ。それに、こんな姿を見たのはわたくしだけ。
他の方にはお見せにならないで」
ふわりと頬に小さな手を添えると、シルヴァインの頬に朱が差した。
片手で口を覆いながら、眼を逸らす。
「参ったな。愛の告白に聞こえるんだが?」
「元気になったと思ったら、これですわ!」
自分のした事を棚に上げて、マリアローゼはぷんぷん怒り出した。
純粋に慰めたつもりだったのに!と言動を思い返しもせずに、シルヴァインの厚い胸板を小さな手でぺちぺち叩く。
そんなマリアローゼを、シルヴァインは両手でぎゅっと抱き込んだ。
「俺達が旅に出て、君の不在でキースやミカエルやジブリールが、寂しさを味わったように
俺も、君がいない人生は考えられないと改めて悟ったよ。だから、君の嫌がる事はもう絶対にしない。
愛してるよ、マリアローゼ」
「絶対ですわよ、お兄様。ローゼもお兄様を傷つけるのはもう、嫌です。ごめんなさいお兄様」
マリアローゼもシルヴァインの胸の鼓動を聞きながら、ぎゅっと抱き返した。
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