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初めての兄妹喧嘩
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「これから領地に行くのだし、暫く戻れないから会いに行ってあげたらどうだい?」
マリアローゼは珍しく、敵に塩を贈る様な言動をするシルヴァインを繁々と見詰めた。
お兄様がそんな事を言うなんて、珍しい。
エネア殿下に情が湧いたのだろうか?
「シルヴァインお兄様はエネア殿下にはお優しいのですわね?」
「そうかな?マリアローゼが沈んだ顔をするから、薦めてみただけだよ」
直感的に、その返事が胡散臭いと感じたマリアローゼは、シルヴァインから目を逸らして、手元に視線を落とした。
エネア殿下を牽制に使う?
でもまだ赤ちゃんといってもいい年齢だし、ロランドやアルベルトを遠ざける程の効果はなさそうだ。
絆されたのか?という意味で問いかけた言葉に動揺した?
言い繕うにしても、動揺するほどの事ではないので、それも違いそうだ。
何にしても何かの思惑がありそうで、腑に落ちない。
マリアローゼは、シルヴァインを真っ直ぐ見詰めて、微笑んだ。
「そうですわね。それも良いかもしれません。エネア殿下が可愛すぎて王城で暮らす事になりそうですけれど」
何故、わたくしは怒りと悲しみを覚えているのか。
兄に利用された気がするからだろうか。
真っ直ぐ見詰め返したシルヴァインが、一瞬、表情を失くした。
そして、何時もの笑顔を浮かべる。
「それなら駄目だな」
「薦めたのはお兄様でしてよ」
パン、とジェラルドが手を叩いた。
「その話は終わりだ。シルヴァイン、私はお前を高く買っているが、ローゼの人生を左右する問題に、
嘴を挟む権利はない。下がりなさい」
ジェラルドの言葉に、シルヴァインが静かに立ち上がって食堂を出て行く。
それを見届けてから、改めてジェラルドはマリアローゼに静かに命じた。
「マリアローゼ、エネア殿下に会いに行く事は禁ずる。王城に立ち入る事もだ。そもそも君の領地行きは、王妃の提案で王家との婚約話や、他国との政治闘争から遠ざける為のものだ。分かるね?」
「はい、お父様」
そうだ。
原点に立ち返らなければいけない。
王族との婚姻を拒んだ理由は多岐に渡る。
自由でいること。
家族と一緒に暮らすこと。
ゲームの強制力等は信じていないが、オリーヴェやリトリーとの事件の様に、問題に巻き込まれる可能性を減らしたい。
エネアが可愛いのも会いたい気持ちもあるが、家族と比べるべくもない。
「重々承知しております。お父様のお言葉にマリアローゼは従います」
心配をかけないように、マリアローゼは父と母をそれぞれ見て、微笑んだ。
何事も無かったように食事を済ませて、マリアローゼは部屋へと戻った。
部屋の前には案の定、シルヴァインが立っている。
「ローゼ、ごめん、俺が悪かった」
済まなそうな顔で、謝るシルヴァインを見て、マリアローゼはふい、と顔を背けた。
「今は、お兄様とお話したくありません」
「ローゼ…」
悲しそうな声に胸が痛むが、マリアローゼは目の前でルーナに命じた。
「今日は誰ともお会いしません。他のお兄様が訪ねてきたらお伝えしてね、ルーナ」
「畏まりました。シルヴァイン様も、どうか、お引取りを」
シルヴァインの返事を聞く前に、マリアローゼはノクスの開けた扉から中に入った。
マリアローゼが拒んでいる以上、部屋に押し入ったりはしないはずで、
そのままフラフラとマリアローゼはベッドに倒れ込んだ。
敵と戦う方が簡単だ。
マリアローゼはほろほろと涙を零した。
愛する家族が相手だと、冷たくしてもされても、心が抉られるように痛む。
何故急に、あの兄がそんな事を言い出したのか。
そこにも作為的な何かを感じる。
シルヴァインを唆せる人間がいるとするならば、誰だろうか。
一喝したジェラルドにも、シルヴァインの意図は感じ取れていたし、穏やかではあるか痛烈な批判もしていた。
父でも母でもない。
他の兄では役者不足だ。
だとしたら、脳裏に浮かぶのはただ一人。
ジェレイド叔父様。
マリアローゼは珍しく、敵に塩を贈る様な言動をするシルヴァインを繁々と見詰めた。
お兄様がそんな事を言うなんて、珍しい。
エネア殿下に情が湧いたのだろうか?
「シルヴァインお兄様はエネア殿下にはお優しいのですわね?」
「そうかな?マリアローゼが沈んだ顔をするから、薦めてみただけだよ」
直感的に、その返事が胡散臭いと感じたマリアローゼは、シルヴァインから目を逸らして、手元に視線を落とした。
エネア殿下を牽制に使う?
でもまだ赤ちゃんといってもいい年齢だし、ロランドやアルベルトを遠ざける程の効果はなさそうだ。
絆されたのか?という意味で問いかけた言葉に動揺した?
言い繕うにしても、動揺するほどの事ではないので、それも違いそうだ。
何にしても何かの思惑がありそうで、腑に落ちない。
マリアローゼは、シルヴァインを真っ直ぐ見詰めて、微笑んだ。
「そうですわね。それも良いかもしれません。エネア殿下が可愛すぎて王城で暮らす事になりそうですけれど」
何故、わたくしは怒りと悲しみを覚えているのか。
兄に利用された気がするからだろうか。
真っ直ぐ見詰め返したシルヴァインが、一瞬、表情を失くした。
そして、何時もの笑顔を浮かべる。
「それなら駄目だな」
「薦めたのはお兄様でしてよ」
パン、とジェラルドが手を叩いた。
「その話は終わりだ。シルヴァイン、私はお前を高く買っているが、ローゼの人生を左右する問題に、
嘴を挟む権利はない。下がりなさい」
ジェラルドの言葉に、シルヴァインが静かに立ち上がって食堂を出て行く。
それを見届けてから、改めてジェラルドはマリアローゼに静かに命じた。
「マリアローゼ、エネア殿下に会いに行く事は禁ずる。王城に立ち入る事もだ。そもそも君の領地行きは、王妃の提案で王家との婚約話や、他国との政治闘争から遠ざける為のものだ。分かるね?」
「はい、お父様」
そうだ。
原点に立ち返らなければいけない。
王族との婚姻を拒んだ理由は多岐に渡る。
自由でいること。
家族と一緒に暮らすこと。
ゲームの強制力等は信じていないが、オリーヴェやリトリーとの事件の様に、問題に巻き込まれる可能性を減らしたい。
エネアが可愛いのも会いたい気持ちもあるが、家族と比べるべくもない。
「重々承知しております。お父様のお言葉にマリアローゼは従います」
心配をかけないように、マリアローゼは父と母をそれぞれ見て、微笑んだ。
何事も無かったように食事を済ませて、マリアローゼは部屋へと戻った。
部屋の前には案の定、シルヴァインが立っている。
「ローゼ、ごめん、俺が悪かった」
済まなそうな顔で、謝るシルヴァインを見て、マリアローゼはふい、と顔を背けた。
「今は、お兄様とお話したくありません」
「ローゼ…」
悲しそうな声に胸が痛むが、マリアローゼは目の前でルーナに命じた。
「今日は誰ともお会いしません。他のお兄様が訪ねてきたらお伝えしてね、ルーナ」
「畏まりました。シルヴァイン様も、どうか、お引取りを」
シルヴァインの返事を聞く前に、マリアローゼはノクスの開けた扉から中に入った。
マリアローゼが拒んでいる以上、部屋に押し入ったりはしないはずで、
そのままフラフラとマリアローゼはベッドに倒れ込んだ。
敵と戦う方が簡単だ。
マリアローゼはほろほろと涙を零した。
愛する家族が相手だと、冷たくしてもされても、心が抉られるように痛む。
何故急に、あの兄がそんな事を言い出したのか。
そこにも作為的な何かを感じる。
シルヴァインを唆せる人間がいるとするならば、誰だろうか。
一喝したジェラルドにも、シルヴァインの意図は感じ取れていたし、穏やかではあるか痛烈な批判もしていた。
父でも母でもない。
他の兄では役者不足だ。
だとしたら、脳裏に浮かぶのはただ一人。
ジェレイド叔父様。
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