悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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肖像画へのお供え物

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「さて、すぐに帰りたいところですが、滝汗でユリアびっしょりなので、着替えてからお迎えに来ましょうか?」
「あ、いえ、ユリアさん、併設の兵舎に湯浴み用のお風呂がありますし、私の着替えが置いてあるので、
 それをお貸ししますよ」
「じゃあ、ひとっ風呂浴びてきますか。有り難く拝借しますね、カンナさん」

マリアローゼは普段の仲の良い二人に戻った事に安堵して、嬉しそうにこくこくと頷いて握っていた手を離した。

「では、わたくしここで待っておりますわ」
「はい。では行って参ります」
「すぐ戻ってきますね!」

良かった、と思いつつ、椅子に戻る時に、ずっと静かにしているルーナを見れば、何だか元気がない様子である。
マリアローゼはそんなルーナを見詰めた。

「どうか致しまして?ルーナ」
「あ、いえ、失礼致しました。二人がお強くて、馬にも乗れて、羨ましいのです」
「まあ……」

まだ子供なのに、そんな事を気にするなんて。

と涙ぐましく思うが、隣に立っているノクスもこくりと頷いている。
マリアローゼは、ルーナをぎゅっと抱きしめた。

「ルーナもノクスも十分すぎるくらい成長していましてよ。わたくしは誇りに思っておりますの。
馬術も武術も、これから一緒に学んでいくのですから、気を落とさないで。
お二人だって、幼い頃からいきなり出来た訳ではありませんのよ」

「はい、お嬢様。ご心配おかけしました。もう大丈夫でございます」

ランバートがいたら叱責されていたかもしれない、とルーナは思いながら笑顔を浮かべた。
使用人が主人に気を使わせて、慰められるなどもっての他なのだ。
マリアローゼは優しくて責任感が強いから、少し沈んでいただけでも心を砕いてくれる。
それは嬉しい事であると同時に、自分の責務を全うできていない証でもある。
強くなる以前の問題だ、とルーナは自戒した。
私情で優しいお嬢様を煩わせるなど、あってはならない。
じっ、と窺うように見てから、マリアローゼも柔らかく微笑み返した。

「分かりました。ルーナ、一緒に頑張りましょうね」
「はい、ルーナはお嬢様が大好きです」

ぎゅっと抱きしめると、マリアローゼは安心したように肩に頬を寄せてくる。
この柔らかく温かい大事な温もりを守り抜くためには、心も身体も強靭でなくてはならない。
改めて決意したルーナは、ノクスに力強い眼差しを向けた。
ノクスも、静かにこくりと頷きかえしたのである。


部屋に戻ったマリアローゼは、一目散にまた刺繍を始めた。
午前中みっちり刺繍に勤しんだお陰で、大分手馴れてきている、と実感していた。
晩餐の時間になると、父も母も出かけていたシルヴァインも戻っていて、賑やかな食事が始まる。
主に興奮した双子の兄が、カンナとユリアの強さを絶賛していて、更にグランスへの褒め言葉が続く。
両親も満足そうに頷きながら聞き、シルヴァインは、ほう、と感心したような声も漏らした。

「そういえば、今日、用事のついでに王城へ立ち寄ったのですが」

とシルヴァインが話し始めると、ジェラルドはふむ、とシルヴァインに目を向けた。

ついで、て。
王城はそんな気軽に行ける場所だったのかしら。

マリアローゼはジト目でシルヴァインを見つめる。

「エネア殿下がそれはもう、ローゼの肖像画に夢中になっていて、お気に入りの玩具を絵の前に置いたり、お菓子を貰うと、ローゼの肖像画にまず分け与えるそうですよ」

「まあ……」

マリアローゼはそんな事になっているとは思わず、絶句した。
すごく可愛らしい、のだが、同時に切なくもある。
会いに行きたいが、会ってしまえば別れが辛くなりそうだ、としょんぼりした。
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