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兄達の運命を変えてしまった妹
しおりを挟む「カンナさん、お嬢様を渡してくれますか?」
「いいですよ」
まずはユリアが先に馬の背に乗り、カンナが抱き上げたマリアローゼを受け取って、前に座らせた。
ノクスとルーナはどうするのかしら?と見ていると、カンナは奥から葦毛の馬を連れてくる。
その背に跨ってから、手を伸ばしてルーナとノクスをそれぞれ馬上に引き上げた。
何だか、かっこいいですわ!
「わたくしも、ああいう風に乗れそうですけれど?」
とユリアを振り返って仰ぎ見るが、ユリアは笑顔で首を横に振った。
「もう少し鍛えてからでないと、駄目ですよ」
「むぅぅ…分かりましたわ、精進致します」
何でも肯定してくれる訳ではないらしい。
一番大事なのは、マリアローゼの安全なのだろう。
「しっかり捕まっていてくださいね。大船に乗ったつもりで、お任せ下さい」
泥舟じゃないといいけど、と心の中のシルヴァインの突込みが入るが、マリアローゼはこくん、と素直に頷いた。
しっかりとマリアローゼを抱えるように回されたユリアの手に、マリアローゼも捕まる。
ゆっくりと馬が歩き始めた。
「向こうは三人乗りですし、速度は出しませんからね」
「ええ、分かりました」
ポコポコと馬が歩く振動と音を感じながら、馬専用の土の道を真っ直ぐに進んでいく。
ここはまだ来た事のない道で、マリアローゼは物珍しげに辺りを見回した。
初夏の風が心地よく頬を撫で、緑の木立に挟まれた道は涼しげで爽やかだ。
時折、使用人棟や鍛冶工房等に向かう小道が現れて、木立の向こうに建物が見え隠れする。
後庭に通じる大きな道を横切ると、より一層緑の木々が生い茂っている道が続いていた。
だが、割と道に近いところに木立の切れ目と小道が続き、ユリアは馬首を回してその小道に入っていく。
木々の間の小道を進むと、間もなく練兵場が姿を現した。
後ろから来たカンナが馬を繋いでから、二人を降ろすと、マリアローゼとユリアの元にやってきて、
ユリアからマリアローゼを受け取るように抱き下ろした。
カンナの馬は既に馬丁が手綱を解いて、厩舎に連れて行っている。
ユリアは馬を飛び降りると、手綱を引いて、その後に続いた。
「じゃあ、私達は先に観覧席に向かいましょう」
「はい、カンナお姉様」
頷いたマリアローゼは、以前見学した際に座ったテラスに歩いて行く。
剣戟の音や威勢のいい声が響き渡っていて、今日も相変わらず盛況のようだ。
天幕の下に辿り着くと、気づいた騎士達が手を止め始めたので、マリアローゼは改めてお辞儀をした。
「お邪魔をしてしまって済みません。どうぞ、お続けになって下さいませ」
「はい!お嬢様!」
知り合いのフェレスが声をあげて、ブンブンと笑顔で手を振るので、マリアローゼも微笑みながら小さく手を振り返した。
騎士達は敬礼をしてから、また修練に戻り始める。
そして、驚いた事に、その修練中の騎士達の間に、双子の兄達も紛れていた。
いつもなら大きな声と身振り手振りで、存在を主張してくるのだが、今日は大人しいので見逃すところだった。
「ミカエルお兄様と、ジブリールお兄様も修練に来るのですわね…」
椅子に座って、感心した様に言うと、後ろからコホン、と咳払いが聞こえた。
振り返ると、ノクスが会釈しながら言う。
「僭越ながら…お嬢様に、弟扱いされた事が原因かと存じます」
そんなに?
と思って、ルーナを見ると、ルーナもノクスの意見に賛成するかのように頷いて見せた。
カンナも苦笑を浮かべている。
「お小さくても殿方なのですねえ」
「ま、まあ、筋肉をつけるのは、悪いことではありませんわ。強くなれば、自分の身も守れますし。
悪戯に関しては大掛かりになりそうで、心配ではございますけれど…」
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