悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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初めて呼んだ名前

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でも、文句を言っても距離は近くならない。
エネアはまた中々の早さで這い寄ってきた。
そして、今度はマリアローゼの膝の上にぽふりと顔を埋めたまま、スカートをぎゅっと握りしめた。

「まあ、殿下。わたくしも運動が不得手ですけれど、お励みにならないと将来困りますのよ?」

優しく言いながら、むうっとした頬を指でふにふにと触る。
ゆっくりと、手を開かせてから、マリアローゼは敷物の反対側へと移動して座った。
離れるのが分かったのか、いつの間にか着いて来たエネアに、マリアローゼはすぐに捕まってしまう。

「すごいですわ、殿下。ローゼは感服致しましてよ」

「ろー?」

偶然かもしれないが、名前だと認識したのかもしれない、とマリアローゼは笑顔を見せた。

「そうですわ殿下。わたくしは、ローゼ」
「ロー…」
「ローゼ」
「ロー…じぇ」
「そう、ローゼでございますわ」
「…おーじぇ…ろーじぇ…ろー…」
「はい、殿下」

名前を呼ばれるたびに、マリアローゼははい、と返事をし続けて、気がつくとゼナイダが
微笑ましい光景ににこにこと見守っているのに気づいた。

「殿下はもうお話になられますのね」
「いえ、でもお嬢様の名を覚えたようですので、多分すぐにお話するようになりますわね」
「それは重畳でございます」

「……んー…ぅー…じぇ…」

いつの間にかエネアはこくん、こくん、と頭を揺らしてうとうとし始めていた。

「はい、殿下、ローゼはここにおりますよ」

小さな背中をぽんぽん、と優しく叩くと、スカートを握りしめたまま眠ってしまった。

「お部屋に戻られますか?」

マリアローゼが問いかけると、ゼナイダは頷いて微笑んだ。

「初夏とはいえ、まだお外でお眠りあそばすには幼うございますので」

言いながら敷物を片付けるゼナイダの為に、マリアローゼはよいしょ、立ち上がってからエネアを抱き上げた。
スカートが持ち上がってしまうが、この際仕方がない。
「まあまあ、大変」

急いで片付けたゼナイダが、やんわりとエネアの手を開き、スカートを離させると、マリアローゼからエネアを受け取って抱きなおした。
そこで、エネアの意識が浮上したのか、パタパタと手足を動かして泣き始める。

「ろーじぇ…ろーじぇ…」
「まあ…どう致しましょう……」

何か渡せるものをと探すが、相応しいものは持っていない。
泣き止むかどうかは分からないが、マリアローゼは髪のリボンをしゅるしゅると外して、
泣いているエネアに握らせた。

「ほら、殿下。ローゼのリボンを差し上げますわ」

体力が残っていれば、違うと暴れたかもしれないが、限界を超えて泣いたせいか、瞳は閉じかけている。
手の中に握れるものがある事とマリアローゼが目の前にいる事に安心したのか、
すうっと目を閉じて、またスヤスヤと眠り始めた。

「ああ、良かった……」
「申し訳ございません、お嬢様」

流石に困ったような顔で言うゼナイダに、マリアローゼは微笑んだ。

「いえ、わたくしが余計な事を致しました。さ、早くお戻りになって下さいませ」
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