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役立つ道具と商人
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執務室に入ると、長椅子に向かい合うように、ジェレイドと銀髪の男が座り、
そしてその間にある一人用の椅子には、お茶会へ出かけたはずのミルリーリウムが坐していた。
「お母様」
驚いたように声をあげるマリアローゼを見て、ミルリーリウムはにっこりと微笑んだ。
「驚かせてしまったわね。わたくしも急にお姉様に呼ばれて、急遽駆けつけたのですよ。
伯爵夫人には悪いことをしてしまったわ。後日埋め合わせをしませんとね」
おっとりと頬に手をやって、ミルリーリウムは溜息を吐く。
王妃様直々に呼ばれたのに拝謁しないということは…
「お母様は王妃様とお茶会なさいますの?」
「ふふ、そうよ。貴女と是非お話がしたいのですって」
「わかりました。わたくしも用事がございましたので、助かりました」
これで、指輪も返せるし、お礼も言える!
マリアローゼはジェラルドの腕の中で、ふんす、と力強く頷いた。
その間にジェレイドと、マローヴァは立ち上がって挨拶を始める。
「では兄上、紹介致しましょう。この怪しげな風体の商人が、我が悪友マローヴァです」
「怪しさではお前の方が上だろ。…失礼しました、公爵殿、公爵夫人、ご令嬢にご令息。
それから麗しい淑女のお二人。私が紹介に預かりました、商人のマローヴァでございます。
この度は会頭という大任をお任せ戴き、恐悦至極に存じます」
一々一人一人に顔を向け、会釈をしながらそつなく挨拶をするところは、いかにも商人という雰囲気だ。
そして最後にもう一度、マリアローゼをしっかりと見詰める。
「何より、フィロソフィ嬢、貴女の才覚には惚れ惚れと致します。
どうぞ、私の事は手足のようにお使い下さい」
ジェレイドの悪友だけあって、少し雰囲気が似ている気がする。
笑うと糸目になるし、ぱっと見分かりにくいが、瞳は左右違う色をしていて、緑と茶色だ。
怪しげな風体、とまではいかないが、確かに色々なものが服のあちこちにぶら下がったり、はみ出したりしていて一体何を持っているのだろうと、持ち物検査をしたくなった。
「まあ、お言葉はありがたいですけれど、わたくしも若輩ですから、色々と教えを請いたいと思っておりますのよ。
どうぞ、宜しくお願い致しますわ」
お辞儀は出来ないので会釈をすると、マリアローゼを抱えたままジェラルドはミルリーリウムと向かい合うように
置かれている一人用の椅子に腰掛けた。
シルヴァインはジェレイドの隣に、ユリアとカンナはマローヴァの隣に座る。
ノクスとルーナは並んで扉近くに控えていた。
ランバートは執務机の横に立っている。
「まずは父上に、あれを」
とシルヴァインが言うと、心得たようにランバートが銀盆の上に小箱を載せて、ジェラルドに差し出した。
「試作品ですね」
とマローヴァが言う。
受け取って箱を開けたジェラルドは、ほう、と声をあげた。
続いてランバートは机の上にさっと、試し書き用の紙を載せて、ジェラルドはそこにペンを走らせた。
「ふむ、使い心地も良いな。これは大したものだ」
更に箱からもう一つ、封蝋判子を取り出すと、紙にぎゅっと押し付けて、封蝋の具合を確かめる。
「これはかなりの時間短縮になりそうだ」
ジェラルドは、二つの魔道具を並べて頷く。
「まずはこの商品は城に卸してもらおう、次に役所。仕事の効率がまるで変わってくるぞ」
嬉しそうなジェラルドの様子に、マリアローゼまで嬉しくなってぎゅっとジェラルドに抱きついた。
そしてその間にある一人用の椅子には、お茶会へ出かけたはずのミルリーリウムが坐していた。
「お母様」
驚いたように声をあげるマリアローゼを見て、ミルリーリウムはにっこりと微笑んだ。
「驚かせてしまったわね。わたくしも急にお姉様に呼ばれて、急遽駆けつけたのですよ。
伯爵夫人には悪いことをしてしまったわ。後日埋め合わせをしませんとね」
おっとりと頬に手をやって、ミルリーリウムは溜息を吐く。
王妃様直々に呼ばれたのに拝謁しないということは…
「お母様は王妃様とお茶会なさいますの?」
「ふふ、そうよ。貴女と是非お話がしたいのですって」
「わかりました。わたくしも用事がございましたので、助かりました」
これで、指輪も返せるし、お礼も言える!
マリアローゼはジェラルドの腕の中で、ふんす、と力強く頷いた。
その間にジェレイドと、マローヴァは立ち上がって挨拶を始める。
「では兄上、紹介致しましょう。この怪しげな風体の商人が、我が悪友マローヴァです」
「怪しさではお前の方が上だろ。…失礼しました、公爵殿、公爵夫人、ご令嬢にご令息。
それから麗しい淑女のお二人。私が紹介に預かりました、商人のマローヴァでございます。
この度は会頭という大任をお任せ戴き、恐悦至極に存じます」
一々一人一人に顔を向け、会釈をしながらそつなく挨拶をするところは、いかにも商人という雰囲気だ。
そして最後にもう一度、マリアローゼをしっかりと見詰める。
「何より、フィロソフィ嬢、貴女の才覚には惚れ惚れと致します。
どうぞ、私の事は手足のようにお使い下さい」
ジェレイドの悪友だけあって、少し雰囲気が似ている気がする。
笑うと糸目になるし、ぱっと見分かりにくいが、瞳は左右違う色をしていて、緑と茶色だ。
怪しげな風体、とまではいかないが、確かに色々なものが服のあちこちにぶら下がったり、はみ出したりしていて一体何を持っているのだろうと、持ち物検査をしたくなった。
「まあ、お言葉はありがたいですけれど、わたくしも若輩ですから、色々と教えを請いたいと思っておりますのよ。
どうぞ、宜しくお願い致しますわ」
お辞儀は出来ないので会釈をすると、マリアローゼを抱えたままジェラルドはミルリーリウムと向かい合うように
置かれている一人用の椅子に腰掛けた。
シルヴァインはジェレイドの隣に、ユリアとカンナはマローヴァの隣に座る。
ノクスとルーナは並んで扉近くに控えていた。
ランバートは執務机の横に立っている。
「まずは父上に、あれを」
とシルヴァインが言うと、心得たようにランバートが銀盆の上に小箱を載せて、ジェラルドに差し出した。
「試作品ですね」
とマローヴァが言う。
受け取って箱を開けたジェラルドは、ほう、と声をあげた。
続いてランバートは机の上にさっと、試し書き用の紙を載せて、ジェラルドはそこにペンを走らせた。
「ふむ、使い心地も良いな。これは大したものだ」
更に箱からもう一つ、封蝋判子を取り出すと、紙にぎゅっと押し付けて、封蝋の具合を確かめる。
「これはかなりの時間短縮になりそうだ」
ジェラルドは、二つの魔道具を並べて頷く。
「まずはこの商品は城に卸してもらおう、次に役所。仕事の効率がまるで変わってくるぞ」
嬉しそうなジェラルドの様子に、マリアローゼまで嬉しくなってぎゅっとジェラルドに抱きついた。
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