190 / 357
連載
公爵令嬢の望む物
しおりを挟む
「無事で何よりであった。そなたが戻って、我が王妃も息子達も大変な喜びようだ。
領地では伸びやかに過ごすと良い。何か希望があれば申してみよ」
挨拶を受けた王座に座る美しい王が、笑顔で言った言葉にマリアローゼは目を瞬かせた。
ん?
何故?
特に功績は挙げていないし、ただ行って戻って来ただけである。
もし交渉で何かを得たのなら、それは父やモルガナ公爵の力なのだし…
「勿体無いお言葉に感謝致します。ですが、わたくしは何かを為しえた訳ではございません」
とりあえず、言葉を選んで無難に答えながら、宰相として王の近くに控えている父を盗み見ると、
僅かに頷いた。
頷いた?
え?何か申していいの?
けれど、何かをくれ、というのは抵抗がある。
頭の中でぐるぐる悩んでいると、王は言葉を続けた。
「謙遜は良い。色々と国勢に影響する物を、得たのだ。我が姪よ」
確かに姪ですけども?!?
何かを得たって言われても…もしかして、リトリーの事かしら?
秘密と言っても、公爵家だけで囲っていたら謀反と疑われかねない秘密だし、
秘密はばれるものなので、王や王妃に伝えたとしても異論はない。
「では、申し上げます。わたくしは我が領において、孤児や貧民の育成に力を入れる予定でございます。
つきましては、孤児や貧民、生活に困窮している者の領地の移動を許可する書面を頂きとう存じます。
貴重な働き手などを奪う訳ではなく、大量の人々を移す訳でもないので、他の領にも痛手にはならぬかと
存じます」
気になっていたのは、この領民の移動についてだった。
孤児は問題ないだろうけれど、もし他の人を移動させたい時に一々交渉するのは面倒だな、と思っていたのだ。
勿論次善の策はないことはない。
交渉材料さえあれば、簡単に手放せるような人材しか求めるつもりもないからだ。
むふん、とドヤ顔で見ると、父は目を見開いている。
多分、驚いている。
え?駄目だったのかしら?
隣の兄を見上げると、口を歪めて俯いている。
こっちは笑いそうだ。
王と王妃を見ると、やはり驚いたように少しの間時が止っている。
「よい。早速作らせよう。しかし、ううむ。我が姪でもあるが、お前の娘は常識では測れぬな」
「私も日々驚かされております」
王がジェラルドに顔を向けると、畏まった雰囲気で、ジェラルドが王へと返事と共に会釈をした。
「もっと他に、自らの財となるような物の希望はないのか?」
興味津々、という目付きで、王が口にする。
自らの財、財産やお金と言われても、物や衣装や宝石?などは特に欲しくない。
かといって、領地!などとは口に出せないし、そこまで強欲にもなれない。
少し悩みはしたものの、特に思いつかなかった。
「今は思い浮かびませんので、考えるお時間を賜りたいと存じます」
「ふむ。いいだろう。そなたが一体何を欲するのか興味がある」
愉しむ様に王が目を細めて笑い、マリアローゼはにっこりと微笑を返した。
謁見が終ると、一緒に宰相である父も部屋から出て、スッとマリアローゼを抱き上げた。
「もっと他に欲しいものは無かったのかい?」
「だって、お父様とお母様が十分に色々な物を与えてくださいますし…お二人から戴けずに、
陛下から戴ける物と言ったら……あとは領地くらいしか…」
マリアローゼが言ったところで、ブハッとシルヴァインが噴き出した。
そのまま快活な笑い声をあげている。
「いえ、あの、広い領地とか豊かな領地ではなく…あの狭くていいので薬草が育つところがあればいいなと、……もう!お兄様うるさいですわ!笑わないでくださいませ!」
「そうか。それでも陛下は許可したかもしれないが、我が家の領地を好きに使って構わないんだよ、ローゼ」
「……それは、有難う存じます。フォルティス家の領地も使わせて戴く予定です」
ジェラルドは、ははっとシルヴァインのように嬉しそうに笑った。
「それも問題ないだろう。さて、執務室へ向かおうか」
廊下で待っていたランバート、カンナ、ユリア、ルーナも共にジェラルドの執務室へ向かう。
あら?1人足りない…。
「叔父様は何処に消えましたの……?」
「堅苦しい事は苦手だからと、謁見拒否して宰相様のお部屋に先に行くと言って消えましたよ」
「そうですのね」
ユリアの言葉に、マリアローゼはこくんと頷いた。
ただでさえ、父を驚かせて兄を笑わせた事態を引き起こしたので、逆にジェレイドが不在で良かったのかも知れない。
マリアローゼはもう一度こくん、と頷いた。
領地では伸びやかに過ごすと良い。何か希望があれば申してみよ」
挨拶を受けた王座に座る美しい王が、笑顔で言った言葉にマリアローゼは目を瞬かせた。
ん?
何故?
特に功績は挙げていないし、ただ行って戻って来ただけである。
もし交渉で何かを得たのなら、それは父やモルガナ公爵の力なのだし…
「勿体無いお言葉に感謝致します。ですが、わたくしは何かを為しえた訳ではございません」
とりあえず、言葉を選んで無難に答えながら、宰相として王の近くに控えている父を盗み見ると、
僅かに頷いた。
頷いた?
え?何か申していいの?
けれど、何かをくれ、というのは抵抗がある。
頭の中でぐるぐる悩んでいると、王は言葉を続けた。
「謙遜は良い。色々と国勢に影響する物を、得たのだ。我が姪よ」
確かに姪ですけども?!?
何かを得たって言われても…もしかして、リトリーの事かしら?
秘密と言っても、公爵家だけで囲っていたら謀反と疑われかねない秘密だし、
秘密はばれるものなので、王や王妃に伝えたとしても異論はない。
「では、申し上げます。わたくしは我が領において、孤児や貧民の育成に力を入れる予定でございます。
つきましては、孤児や貧民、生活に困窮している者の領地の移動を許可する書面を頂きとう存じます。
貴重な働き手などを奪う訳ではなく、大量の人々を移す訳でもないので、他の領にも痛手にはならぬかと
存じます」
気になっていたのは、この領民の移動についてだった。
孤児は問題ないだろうけれど、もし他の人を移動させたい時に一々交渉するのは面倒だな、と思っていたのだ。
勿論次善の策はないことはない。
交渉材料さえあれば、簡単に手放せるような人材しか求めるつもりもないからだ。
むふん、とドヤ顔で見ると、父は目を見開いている。
多分、驚いている。
え?駄目だったのかしら?
隣の兄を見上げると、口を歪めて俯いている。
こっちは笑いそうだ。
王と王妃を見ると、やはり驚いたように少しの間時が止っている。
「よい。早速作らせよう。しかし、ううむ。我が姪でもあるが、お前の娘は常識では測れぬな」
「私も日々驚かされております」
王がジェラルドに顔を向けると、畏まった雰囲気で、ジェラルドが王へと返事と共に会釈をした。
「もっと他に、自らの財となるような物の希望はないのか?」
興味津々、という目付きで、王が口にする。
自らの財、財産やお金と言われても、物や衣装や宝石?などは特に欲しくない。
かといって、領地!などとは口に出せないし、そこまで強欲にもなれない。
少し悩みはしたものの、特に思いつかなかった。
「今は思い浮かびませんので、考えるお時間を賜りたいと存じます」
「ふむ。いいだろう。そなたが一体何を欲するのか興味がある」
愉しむ様に王が目を細めて笑い、マリアローゼはにっこりと微笑を返した。
謁見が終ると、一緒に宰相である父も部屋から出て、スッとマリアローゼを抱き上げた。
「もっと他に欲しいものは無かったのかい?」
「だって、お父様とお母様が十分に色々な物を与えてくださいますし…お二人から戴けずに、
陛下から戴ける物と言ったら……あとは領地くらいしか…」
マリアローゼが言ったところで、ブハッとシルヴァインが噴き出した。
そのまま快活な笑い声をあげている。
「いえ、あの、広い領地とか豊かな領地ではなく…あの狭くていいので薬草が育つところがあればいいなと、……もう!お兄様うるさいですわ!笑わないでくださいませ!」
「そうか。それでも陛下は許可したかもしれないが、我が家の領地を好きに使って構わないんだよ、ローゼ」
「……それは、有難う存じます。フォルティス家の領地も使わせて戴く予定です」
ジェラルドは、ははっとシルヴァインのように嬉しそうに笑った。
「それも問題ないだろう。さて、執務室へ向かおうか」
廊下で待っていたランバート、カンナ、ユリア、ルーナも共にジェラルドの執務室へ向かう。
あら?1人足りない…。
「叔父様は何処に消えましたの……?」
「堅苦しい事は苦手だからと、謁見拒否して宰相様のお部屋に先に行くと言って消えましたよ」
「そうですのね」
ユリアの言葉に、マリアローゼはこくんと頷いた。
ただでさえ、父を驚かせて兄を笑わせた事態を引き起こしたので、逆にジェレイドが不在で良かったのかも知れない。
マリアローゼはもう一度こくん、と頷いた。
338
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。