179 / 357
連載
他愛ない約束
しおりを挟む
次にマリアローゼは沢山の酒を積んだワゴンを押して、ウルラートゥスの元へと向かった。
従僕やルーナが自分が押すと申し出たが断り、マリアローゼはふんすふんすとワゴンを押して歩いて行く。
「ルーナはここで待っていてね」
と、小屋の入口付近で待機させ、マリアローゼはウルラートゥスに声をかける。
「ウル、今帰りましたわ。以前お約束したお土産も持ってきましたの」
声をかけると、ごそごそと人の動く気配がして、カチャリと扉が開かれた。
「約束?土産?何の事だかわかんねぇが、まぁいいや。入れ」
「失礼致しますわね」
マリアローゼはゴロゴロとワゴンを押して、部屋に入ると、扉を押さえてみていたウルラートゥスが、
目を真ん丸くしてそのワゴン一杯の酒に目を留めた。
「以前、仰っていたではないですか。次に来る時にお酒を持ってきて欲しいと…
……それなのに、わたくしったら忘れてしまって、こんなに遅くなって、申し訳なく…」
としゅんとしながらスカートを摘んでいると、言葉の途中でウルラートゥスが大きく笑い声をあげた。
「ハハッ、おっまえ、そんな事気にしてたのか」
「しますわ。だって約束したのですもの」
一頻り笑った後、ウルラートゥスはどっかりと椅子に座った。
「約束……そうか、約束、な」
何処か思い詰めるような雰囲気に、マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
従魔師は定住の地を持たない。
それは今でも迫害を受けるからだ。
不信感と恐怖から、人には避けられるのが常の力を持っている。
そのウルラートゥスに、安住の地を与えたのはジェラルドだ。
それは、ウルラートゥスさえ制御し得る強さを、ジェラルドが持っていたからに他ならない。
だとしても、多大な感謝を覚えてはいる。
でも、目の前の少女は、そんな力もなく無防備に飛び込んできて、
ウルラートゥスを戸惑わせていた。
それに、約束
約束なんて、守られた事はなかったし、何時しか他人との約束などしなくなっていた。
本人ですら忘れるような、他愛も無い小さな約束だったのに。
ウルラートゥスは大きく息を吐いた。
様子を窺っていたマリアローゼが心配そうな視線を送ると、ウルラートゥスはふっと表情を緩めて、
そして段々と口の端を釣り上げて笑む。
「こんなに酒を持ってこられたら、何か返さねぇとな」
「じゃあ、お願いがございますわ!」
ぴょこんと飛び上がるように、マリアローゼは嬉しげに寝そべる犬型の従魔達を見た。
「あの子達を触らせてもらっても宜しくて?」
「はぁ?そんなんじゃ返礼にはならねぇだろ」
とは言うが、そんな些細な事を要求してくるのが面白くて、ウルラートゥスはクツクツと笑った。
「かまわねぇよ」
「では、失礼しますわね。…怖くありませんわよ」
と宥めるように、自分よりも大きく隆々とした体躯を持った犬に手を伸ばす様も、可笑しく
ウルラートゥスは笑いを堪え切れなかった。
怖がるのはフツーお前の方だろ、と茶々を入れかけて、言葉を止める。
何と言っていいか分からない感情が湧いてきて、涙すら出そうになったからだ。
マリアローゼは手を伸ばして犬を優しく撫でる。
犬も、主人を気にしつつ、マリアローゼの匂いを嗅いだり、その手を舐めたりしていた。
「ふふっ…いい子ね」
従僕やルーナが自分が押すと申し出たが断り、マリアローゼはふんすふんすとワゴンを押して歩いて行く。
「ルーナはここで待っていてね」
と、小屋の入口付近で待機させ、マリアローゼはウルラートゥスに声をかける。
「ウル、今帰りましたわ。以前お約束したお土産も持ってきましたの」
声をかけると、ごそごそと人の動く気配がして、カチャリと扉が開かれた。
「約束?土産?何の事だかわかんねぇが、まぁいいや。入れ」
「失礼致しますわね」
マリアローゼはゴロゴロとワゴンを押して、部屋に入ると、扉を押さえてみていたウルラートゥスが、
目を真ん丸くしてそのワゴン一杯の酒に目を留めた。
「以前、仰っていたではないですか。次に来る時にお酒を持ってきて欲しいと…
……それなのに、わたくしったら忘れてしまって、こんなに遅くなって、申し訳なく…」
としゅんとしながらスカートを摘んでいると、言葉の途中でウルラートゥスが大きく笑い声をあげた。
「ハハッ、おっまえ、そんな事気にしてたのか」
「しますわ。だって約束したのですもの」
一頻り笑った後、ウルラートゥスはどっかりと椅子に座った。
「約束……そうか、約束、な」
何処か思い詰めるような雰囲気に、マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
従魔師は定住の地を持たない。
それは今でも迫害を受けるからだ。
不信感と恐怖から、人には避けられるのが常の力を持っている。
そのウルラートゥスに、安住の地を与えたのはジェラルドだ。
それは、ウルラートゥスさえ制御し得る強さを、ジェラルドが持っていたからに他ならない。
だとしても、多大な感謝を覚えてはいる。
でも、目の前の少女は、そんな力もなく無防備に飛び込んできて、
ウルラートゥスを戸惑わせていた。
それに、約束
約束なんて、守られた事はなかったし、何時しか他人との約束などしなくなっていた。
本人ですら忘れるような、他愛も無い小さな約束だったのに。
ウルラートゥスは大きく息を吐いた。
様子を窺っていたマリアローゼが心配そうな視線を送ると、ウルラートゥスはふっと表情を緩めて、
そして段々と口の端を釣り上げて笑む。
「こんなに酒を持ってこられたら、何か返さねぇとな」
「じゃあ、お願いがございますわ!」
ぴょこんと飛び上がるように、マリアローゼは嬉しげに寝そべる犬型の従魔達を見た。
「あの子達を触らせてもらっても宜しくて?」
「はぁ?そんなんじゃ返礼にはならねぇだろ」
とは言うが、そんな些細な事を要求してくるのが面白くて、ウルラートゥスはクツクツと笑った。
「かまわねぇよ」
「では、失礼しますわね。…怖くありませんわよ」
と宥めるように、自分よりも大きく隆々とした体躯を持った犬に手を伸ばす様も、可笑しく
ウルラートゥスは笑いを堪え切れなかった。
怖がるのはフツーお前の方だろ、と茶々を入れかけて、言葉を止める。
何と言っていいか分からない感情が湧いてきて、涙すら出そうになったからだ。
マリアローゼは手を伸ばして犬を優しく撫でる。
犬も、主人を気にしつつ、マリアローゼの匂いを嗅いだり、その手を舐めたりしていた。
「ふふっ…いい子ね」
344
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。