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マリアローゼの心痛
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「教会の件で心を痛めているんだね」
ジェレイドが珍しく、気遣うように静かに言った。
マリアローゼは、素直にこくん、と頷く。
「王都での人身売買が切っ掛けで、孤児院を作ろうと思い立ちましたけど、マグノリア様やお父様達のお陰で
王都ではもう、子供達に危険はありませんから、何れは…というつもりでいたのです。
でも、ここでも子供達が虐げられていて…わたくしの認識が甘かったのです。
ここで起きたという事は、他の地域でも多少なりとも問題を抱えているのだと思います。
そして、それは子供達の命の危険に直結しているのですわ…」
滔々と語るマリアローゼを見詰めて、ジェレイドは首を傾げた。
「何故そんなにも、子供達を助けたがるのかな?」
「貴族の義務だとか、持てる者の施しだとか、難しい事は申しませんけれど。
目の前の弱き者に手を差し伸べるのは、当たり前の事ではないでしょうか?」
見詰めるジェレイドの瞳を見返して、マリアローゼは逆に問いかけた。
が、ジェレイドは薄く、酷薄な笑みを浮かべる。
「君が行う必要は無い。君が心を痛める必要も無い」
「そうですわね。でも、知ってしまった以上、心が痛むのは仕方ありませんわ。
わたしは善い人間ではありません。自分の心が痛むのが嫌だから、そうしたいのですわ」
今にも食ってかかりそうなユリアを、カンナは必死で押さえていた。
分かっているのにジェレイドは視線すら寄越さずに、マリアローゼに微笑みかける。
「そういう事なら協力しよう。全面的に。僕の個人資産から出すよ。
兄上にも領地の使用許可はとっておく。君の願いなら断りはしないだろう」
「え、ど、どうしましたの?急に…」
反対されていると思ったマリアローゼは、目をぱちくりとさせた。
ジェレイドはふふっと笑って、マリアローゼの頭を撫でる。
「君の心が痛むのなら仕方ないじゃないか。僕はそれを取り除きたいんだよ。
孤児院だけじゃなく、今後必要になると、今、分かっている事は全部叶えてあげるからね」
そして、跪いてマリアローゼの小さな白い手を取って、その柔らかい甲に口付ける。
「返さなくてもいい、と言っても君は気にするだろうから、
きちんと商会が軌道に乗って順調に利益を伸ばしてからで構わないからね」
今度は手の甲にすりすりと頬を擦り付ける。
「穢れるぅぅ!」
と離れた所からユリアの怒声が聞こえ、隣に座るシルヴァインは苦みばしった顔を向けている。
「さて、では早速手配をしなくては。……シルヴァイン、悔しかったら君も立派な男になり給え。
僕は君の年頃にはもう、十分な個人資産があったよ」
煽るように言って、ジェレイドは哄笑を残して部屋を立ち去った。
「お兄様、挑発に乗らないで下さいませ。商会の立ち上げについても、草案はお兄様なのですから。
それに、わたくしはお兄様を十分立派な男性だと思っておりますわ」
マリアローゼの言葉に、悲しげにシルヴァインは微笑む。
「本当かい?マリアローゼの愛は変わってない?」
「変わっておりませんわ。お兄様の事尊敬しておりますし、愛しております」
慰めるように、マリアローゼが必死にシルヴァインの武骨な手に小さな両手を重ねた。
「じゃあ、結婚してくれる?」
「ええ…え?それはありませんわ…もう!またからかってらしたのね!」
頷きかけて、あまりの言葉にマリアローゼは頬を染めてぷりぷりと怒った。
シルヴァインは、嬉しそうに微笑んで、マリアローゼのぷっくりした頬を優しく手で包む。
「本気だけど?」
「もう!そういう事は未来のお嫁様になさいませ!」
マリアローゼは小さな手で、添えられた手をペチペチ叩き落とした。
カンナから解放されたユリアが拳を鳴らしながら近づいてくる。
「コイツもつまみだしましょうか?」
「ええ、そうしてくださる?」
小さな腕を組んで、マリアローゼはキッとシルヴァインを睨んだ。
怒っていても可愛らしさしかないマリアローゼに、シルヴァインはにっこり微笑む。
「悪かったよ。俺はつまみ出される前に退散しよう」
笑いながら言うと、シルヴァインも颯爽と部屋を出て行った。
ジェレイドが珍しく、気遣うように静かに言った。
マリアローゼは、素直にこくん、と頷く。
「王都での人身売買が切っ掛けで、孤児院を作ろうと思い立ちましたけど、マグノリア様やお父様達のお陰で
王都ではもう、子供達に危険はありませんから、何れは…というつもりでいたのです。
でも、ここでも子供達が虐げられていて…わたくしの認識が甘かったのです。
ここで起きたという事は、他の地域でも多少なりとも問題を抱えているのだと思います。
そして、それは子供達の命の危険に直結しているのですわ…」
滔々と語るマリアローゼを見詰めて、ジェレイドは首を傾げた。
「何故そんなにも、子供達を助けたがるのかな?」
「貴族の義務だとか、持てる者の施しだとか、難しい事は申しませんけれど。
目の前の弱き者に手を差し伸べるのは、当たり前の事ではないでしょうか?」
見詰めるジェレイドの瞳を見返して、マリアローゼは逆に問いかけた。
が、ジェレイドは薄く、酷薄な笑みを浮かべる。
「君が行う必要は無い。君が心を痛める必要も無い」
「そうですわね。でも、知ってしまった以上、心が痛むのは仕方ありませんわ。
わたしは善い人間ではありません。自分の心が痛むのが嫌だから、そうしたいのですわ」
今にも食ってかかりそうなユリアを、カンナは必死で押さえていた。
分かっているのにジェレイドは視線すら寄越さずに、マリアローゼに微笑みかける。
「そういう事なら協力しよう。全面的に。僕の個人資産から出すよ。
兄上にも領地の使用許可はとっておく。君の願いなら断りはしないだろう」
「え、ど、どうしましたの?急に…」
反対されていると思ったマリアローゼは、目をぱちくりとさせた。
ジェレイドはふふっと笑って、マリアローゼの頭を撫でる。
「君の心が痛むのなら仕方ないじゃないか。僕はそれを取り除きたいんだよ。
孤児院だけじゃなく、今後必要になると、今、分かっている事は全部叶えてあげるからね」
そして、跪いてマリアローゼの小さな白い手を取って、その柔らかい甲に口付ける。
「返さなくてもいい、と言っても君は気にするだろうから、
きちんと商会が軌道に乗って順調に利益を伸ばしてからで構わないからね」
今度は手の甲にすりすりと頬を擦り付ける。
「穢れるぅぅ!」
と離れた所からユリアの怒声が聞こえ、隣に座るシルヴァインは苦みばしった顔を向けている。
「さて、では早速手配をしなくては。……シルヴァイン、悔しかったら君も立派な男になり給え。
僕は君の年頃にはもう、十分な個人資産があったよ」
煽るように言って、ジェレイドは哄笑を残して部屋を立ち去った。
「お兄様、挑発に乗らないで下さいませ。商会の立ち上げについても、草案はお兄様なのですから。
それに、わたくしはお兄様を十分立派な男性だと思っておりますわ」
マリアローゼの言葉に、悲しげにシルヴァインは微笑む。
「本当かい?マリアローゼの愛は変わってない?」
「変わっておりませんわ。お兄様の事尊敬しておりますし、愛しております」
慰めるように、マリアローゼが必死にシルヴァインの武骨な手に小さな両手を重ねた。
「じゃあ、結婚してくれる?」
「ええ…え?それはありませんわ…もう!またからかってらしたのね!」
頷きかけて、あまりの言葉にマリアローゼは頬を染めてぷりぷりと怒った。
シルヴァインは、嬉しそうに微笑んで、マリアローゼのぷっくりした頬を優しく手で包む。
「本気だけど?」
「もう!そういう事は未来のお嫁様になさいませ!」
マリアローゼは小さな手で、添えられた手をペチペチ叩き落とした。
カンナから解放されたユリアが拳を鳴らしながら近づいてくる。
「コイツもつまみだしましょうか?」
「ええ、そうしてくださる?」
小さな腕を組んで、マリアローゼはキッとシルヴァインを睨んだ。
怒っていても可愛らしさしかないマリアローゼに、シルヴァインはにっこり微笑む。
「悪かったよ。俺はつまみ出される前に退散しよう」
笑いながら言うと、シルヴァインも颯爽と部屋を出て行った。
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