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忘れていた約束
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「ふやぁあぁぁ」
素っ頓狂な声を上げて、マリアローゼが飛び起きた。
まだ明け遣らぬ朝の事だ。
びっくりしたルーナが、慌ててマリアローゼの側に走り寄った。
「マリアローゼ様!」
早朝から起きていたユリアとカンナも驚いて、二人の様子を見る。
「はぁ…はぁ…わたくし、忘れてましたわ……」
「何をですか?お嬢様…」
宥めるように、ルーナが小さな背中を何度も撫でさすっていた。
驚きのあまり、敬語も覚束なくなっているルーナは、涙目でマリアローゼを見ている。
ふうふう、と息を整えて、マリアローゼはぽつりと零した。
「約束を、忘れていたのです。ああ、どうしましょう……」
「何か、私で出来る事がございますか?」
漸くマリアローゼが落ち着いたのを見て、ルーナも段々と落ち着きを取り戻した。
ルーナの問いかけに、マリアローゼはこくん、と頷いた。
「今からでも遅くはありませんわね……いえ、お店の方にはご迷惑をかけてしまうかしら……
あの、マスロで購入できる、お酒が欲しいのです」
マリアローゼの言葉を聞いて、ルーナは今度こそ大きく息を吐いた。
何かもっと重要で、切迫した内容かと思っていたので、安心できたのだ。
そして、まだ困った様に眉を下げているマリアローゼを安心させるように、にっこりと微笑んだ。
「では、こうしましたら如何でしょう。ここは高級宿ですので、お客様にお出しするお酒が余分にある筈です。それを売って頂けるか、交渉して貰います。
それから、町にある醸造所かお店が始まったら、お酒を注文して公爵邸に送って頂きましょう。手間賃をお支払いして、宿の者に頼んで参ります」
「まあ…ルーナ……素晴らしく機転がききますのね。是非お願いしますわ」
寝起きでなければ、マリアローゼにも簡単に指示出来る事なのだろうが、絶賛されてルーナは微笑んだ。
「伝えて参りますので、少々お待ち下さい。お紅茶もお持ち致します」
ルーナが足早に出て行った後、きょとんとした顔でユリアがマリアローゼに質問した。
「マリアローゼ様はお酒を嗜まれていましたっけ?」
思い返す限りのユリアの記憶では、マリアローゼが口にしていたのは紅茶か果実水か水くらいだ。
妖精さんかな?
思わず首を捻って妄想に入りかけたところで、マリアローゼからの答えが返ってきた。
「いえ、わたくしのではありませんの。……前に約束をして、次に訪ねる時はお酒が欲しいと言われていたのに自分の用事ですっかり忘れてしまっていて…その後すぐ神聖国の招聘と旅で
…ずうっとそのまま……」
マリアローゼはずーんと暗くなって、手元のシーツを小さな手できゅっと握っている。
ユリアから見れば、大した約束でもなければ、マリアローゼがそこまで傷心する理由にも思えない。
というか、何してくれやがってんだという怒りすら覚えるのだ。
「いやぁ、こんな可愛くて幼い子にお酒ねだるなんて碌な大人じゃないので、ノーカンですよ。大丈夫です」
罪悪感に胸を痛めていたのに、あっけらかんと言い放たれて、マリアローゼは顔を上げた。
まあ確かに…関係のない第三者から見ればそうかもしれない。
「それも、一理有りますわね。でも、約束を忘れていたのは事実なので…」
「文句言うようなら私が代わりに話しますよ!」
思いっきり拳を見せ付けてくるユリアに、マリアローゼは困った笑顔のまま固まった。
また拳で語る気ですわね…
「いえ、まだ間に合うので、わたくしに約束を守らせてくださいませ」
「お嬢様、どうぞ」
戻って来たルーナが、朝の紅茶を渡してくれたので、マリアローゼは受け取った。
「ありがとう、ルーナ」
「お酒の件、ギラッファさんが引き受けて下さったので、大丈夫です」
「良かったですわ…安心しました」
マリアローゼはほっとして、何時もどおりの美味しい紅茶をこくりと飲んで微笑んだ。
心配事が一つ減って心が軽くなっていた。
素っ頓狂な声を上げて、マリアローゼが飛び起きた。
まだ明け遣らぬ朝の事だ。
びっくりしたルーナが、慌ててマリアローゼの側に走り寄った。
「マリアローゼ様!」
早朝から起きていたユリアとカンナも驚いて、二人の様子を見る。
「はぁ…はぁ…わたくし、忘れてましたわ……」
「何をですか?お嬢様…」
宥めるように、ルーナが小さな背中を何度も撫でさすっていた。
驚きのあまり、敬語も覚束なくなっているルーナは、涙目でマリアローゼを見ている。
ふうふう、と息を整えて、マリアローゼはぽつりと零した。
「約束を、忘れていたのです。ああ、どうしましょう……」
「何か、私で出来る事がございますか?」
漸くマリアローゼが落ち着いたのを見て、ルーナも段々と落ち着きを取り戻した。
ルーナの問いかけに、マリアローゼはこくん、と頷いた。
「今からでも遅くはありませんわね……いえ、お店の方にはご迷惑をかけてしまうかしら……
あの、マスロで購入できる、お酒が欲しいのです」
マリアローゼの言葉を聞いて、ルーナは今度こそ大きく息を吐いた。
何かもっと重要で、切迫した内容かと思っていたので、安心できたのだ。
そして、まだ困った様に眉を下げているマリアローゼを安心させるように、にっこりと微笑んだ。
「では、こうしましたら如何でしょう。ここは高級宿ですので、お客様にお出しするお酒が余分にある筈です。それを売って頂けるか、交渉して貰います。
それから、町にある醸造所かお店が始まったら、お酒を注文して公爵邸に送って頂きましょう。手間賃をお支払いして、宿の者に頼んで参ります」
「まあ…ルーナ……素晴らしく機転がききますのね。是非お願いしますわ」
寝起きでなければ、マリアローゼにも簡単に指示出来る事なのだろうが、絶賛されてルーナは微笑んだ。
「伝えて参りますので、少々お待ち下さい。お紅茶もお持ち致します」
ルーナが足早に出て行った後、きょとんとした顔でユリアがマリアローゼに質問した。
「マリアローゼ様はお酒を嗜まれていましたっけ?」
思い返す限りのユリアの記憶では、マリアローゼが口にしていたのは紅茶か果実水か水くらいだ。
妖精さんかな?
思わず首を捻って妄想に入りかけたところで、マリアローゼからの答えが返ってきた。
「いえ、わたくしのではありませんの。……前に約束をして、次に訪ねる時はお酒が欲しいと言われていたのに自分の用事ですっかり忘れてしまっていて…その後すぐ神聖国の招聘と旅で
…ずうっとそのまま……」
マリアローゼはずーんと暗くなって、手元のシーツを小さな手できゅっと握っている。
ユリアから見れば、大した約束でもなければ、マリアローゼがそこまで傷心する理由にも思えない。
というか、何してくれやがってんだという怒りすら覚えるのだ。
「いやぁ、こんな可愛くて幼い子にお酒ねだるなんて碌な大人じゃないので、ノーカンですよ。大丈夫です」
罪悪感に胸を痛めていたのに、あっけらかんと言い放たれて、マリアローゼは顔を上げた。
まあ確かに…関係のない第三者から見ればそうかもしれない。
「それも、一理有りますわね。でも、約束を忘れていたのは事実なので…」
「文句言うようなら私が代わりに話しますよ!」
思いっきり拳を見せ付けてくるユリアに、マリアローゼは困った笑顔のまま固まった。
また拳で語る気ですわね…
「いえ、まだ間に合うので、わたくしに約束を守らせてくださいませ」
「お嬢様、どうぞ」
戻って来たルーナが、朝の紅茶を渡してくれたので、マリアローゼは受け取った。
「ありがとう、ルーナ」
「お酒の件、ギラッファさんが引き受けて下さったので、大丈夫です」
「良かったですわ…安心しました」
マリアローゼはほっとして、何時もどおりの美味しい紅茶をこくりと飲んで微笑んだ。
心配事が一つ減って心が軽くなっていた。
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