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馬になりたい叔父様
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三人は結局マリアローゼの提案で納得して反論も無かったので、ギラッファの合図を元に、二切れずつ従僕が給仕して回った。
和やかとは言い難い食事と、紅茶の時間が終ると、部屋にイルストが入ってきた。
ジェレイドかミルリーリウムに依頼されたのだろうが、いなくなる前に、マリアローゼはイルストの側に寄っていく。
「お、お嬢様…?」
「あの、今日釣り大会にいらしてまして?」
びっくりした様子のイルストを見上げて問いかけると、イルストはこくこくと何度か頷いた。
「でしたら、あの、大きなお魚を捕まえたユリアさんの絵を描いて欲しいのです。…ええと雰囲気重視で…強そうなのがいいです。
でも急ぎではないので、いつでも大丈夫です」
「あ、はい。わかりました。で、では…」
ぺこぺこと頭を下げ、扉を開けて押える従僕とぶつかりそうになりながら、慌てた様子でイルストは出て行く。
その姿を見送りながら、もう少し時間が出来たら彼に絵のこつを教わりたいなあ、
などとのんびりマリアローゼは考えていた。
「では、僕はこの辺でお暇します。義姉上」
「ええ、では明日の朝にまた、宜しくお願いね」
立ち上がってぴしりと挨拶をするジェレイドは、先程とうって変わった貴族らしい美しい所作を見せる。
そして、扉の近くでイルストと話をしていたマリアローゼの頭をふわりと撫でた。
「名残惜しいけど、また明日。それと、言い忘れていたけど…
乗りたくなったら、僕の背中はいつでも空いているからね!!」
びしりと立てた親指で自分を指差しながら、とんでもない事を言う。
マリアローゼはジェレイドの残念な姿に、すん、と暗くなった。
「お心だけ頂戴致しますわ……」
「心以外も!頭の天辺から足の爪先まで、僕はマリアローゼの物だからね!遠慮しないで!」
「いいえ、お心だけでもう、十分ですので…」
話が終りそうに無いので、マリアローゼは両手でぐいぐいとジェレイドを扉の外に押し始めた。
「そんな遠慮深いところも、奥ゆかしくて可愛らしいなあ!」
抱きしめようとした手を、マリアローゼの背後に立ったユリアがガッと掴んで阻止する。
「マリアローゼ様はお疲れですので、ね??名残惜しんでないでとっとと出て行ってください」
「君、意外と力強いね」
「また明日お会いいたしましょう。レイさま」
「分かったよ。また明日。愛しいマリアローゼ、良い夢を」
押していた両手を離して、体の前で揃えて挨拶をするマリアローゼに、
ユリアに両手首を掴まれたまま、姿勢を落として素早くその髪にジェレイドは口づけを落とした。
「あっ!」
「では失礼」
隙を突かれたユリアが手を緩めた途端に、手を広げて上げた体勢でジェレイドはスッと離れた。
悪戯っぽく片目を瞑って見せてから快活な高笑いを残して、颯爽と歩き去っていく。
「あのやろう……油断も隙もない……」
公爵の弟だと言う身分をすっかり忘れていそうなユリアを見上げて、
マリアローゼは苦笑した。
「お部屋に戻りましょう、ユリアさん」
「はい…マリアローゼ様。力及ばず、申し訳有りません……」
しょんぼりと、尻尾を巻いて耳を垂らした犬のような凹み具合に、マリアローゼはにっこり微笑みを見せた。
「そんな事ありませんわ。助太刀、力強く思っておりますのよ」
「天使ですね…今日も天使でしかないです…」
ほわわっと釣られて笑顔を浮かべたユリアを連れて、マリアローゼは母と兄に向けてお辞儀をした。
「それではおやすみなさいませ、お母様、お兄様」
「おやすみなさい、ローゼ」
「おやすみ、ローゼ」
二人の返事を聞いてから、マリアローゼは自分の部屋へと戻った。
ルーナに世話をされながら、湯浴みをして着替えを済ませると、ノクスが冷えた紅茶を運んでくる。
「折角ですので、お嬢様のお魚を頂いて参ります。その間はノクスがお世話致しますので」
二人で並んでぺこりとお辞儀をする。
マリアローゼは嬉しそうにノクスとルーナを見比べた。
「久しぶりにノクスとお話しますから、急がなくても大丈夫ですからね」
「はい、お嬢様」
ルーナが体の前で両手を合わせて、ぺこりと敬礼をして部屋から出て行く。
マリアローゼはノクスが用意してくれた、冷えた紅茶をこくりと飲み、ノクスに微笑みかけた。
和やかとは言い難い食事と、紅茶の時間が終ると、部屋にイルストが入ってきた。
ジェレイドかミルリーリウムに依頼されたのだろうが、いなくなる前に、マリアローゼはイルストの側に寄っていく。
「お、お嬢様…?」
「あの、今日釣り大会にいらしてまして?」
びっくりした様子のイルストを見上げて問いかけると、イルストはこくこくと何度か頷いた。
「でしたら、あの、大きなお魚を捕まえたユリアさんの絵を描いて欲しいのです。…ええと雰囲気重視で…強そうなのがいいです。
でも急ぎではないので、いつでも大丈夫です」
「あ、はい。わかりました。で、では…」
ぺこぺこと頭を下げ、扉を開けて押える従僕とぶつかりそうになりながら、慌てた様子でイルストは出て行く。
その姿を見送りながら、もう少し時間が出来たら彼に絵のこつを教わりたいなあ、
などとのんびりマリアローゼは考えていた。
「では、僕はこの辺でお暇します。義姉上」
「ええ、では明日の朝にまた、宜しくお願いね」
立ち上がってぴしりと挨拶をするジェレイドは、先程とうって変わった貴族らしい美しい所作を見せる。
そして、扉の近くでイルストと話をしていたマリアローゼの頭をふわりと撫でた。
「名残惜しいけど、また明日。それと、言い忘れていたけど…
乗りたくなったら、僕の背中はいつでも空いているからね!!」
びしりと立てた親指で自分を指差しながら、とんでもない事を言う。
マリアローゼはジェレイドの残念な姿に、すん、と暗くなった。
「お心だけ頂戴致しますわ……」
「心以外も!頭の天辺から足の爪先まで、僕はマリアローゼの物だからね!遠慮しないで!」
「いいえ、お心だけでもう、十分ですので…」
話が終りそうに無いので、マリアローゼは両手でぐいぐいとジェレイドを扉の外に押し始めた。
「そんな遠慮深いところも、奥ゆかしくて可愛らしいなあ!」
抱きしめようとした手を、マリアローゼの背後に立ったユリアがガッと掴んで阻止する。
「マリアローゼ様はお疲れですので、ね??名残惜しんでないでとっとと出て行ってください」
「君、意外と力強いね」
「また明日お会いいたしましょう。レイさま」
「分かったよ。また明日。愛しいマリアローゼ、良い夢を」
押していた両手を離して、体の前で揃えて挨拶をするマリアローゼに、
ユリアに両手首を掴まれたまま、姿勢を落として素早くその髪にジェレイドは口づけを落とした。
「あっ!」
「では失礼」
隙を突かれたユリアが手を緩めた途端に、手を広げて上げた体勢でジェレイドはスッと離れた。
悪戯っぽく片目を瞑って見せてから快活な高笑いを残して、颯爽と歩き去っていく。
「あのやろう……油断も隙もない……」
公爵の弟だと言う身分をすっかり忘れていそうなユリアを見上げて、
マリアローゼは苦笑した。
「お部屋に戻りましょう、ユリアさん」
「はい…マリアローゼ様。力及ばず、申し訳有りません……」
しょんぼりと、尻尾を巻いて耳を垂らした犬のような凹み具合に、マリアローゼはにっこり微笑みを見せた。
「そんな事ありませんわ。助太刀、力強く思っておりますのよ」
「天使ですね…今日も天使でしかないです…」
ほわわっと釣られて笑顔を浮かべたユリアを連れて、マリアローゼは母と兄に向けてお辞儀をした。
「それではおやすみなさいませ、お母様、お兄様」
「おやすみなさい、ローゼ」
「おやすみ、ローゼ」
二人の返事を聞いてから、マリアローゼは自分の部屋へと戻った。
ルーナに世話をされながら、湯浴みをして着替えを済ませると、ノクスが冷えた紅茶を運んでくる。
「折角ですので、お嬢様のお魚を頂いて参ります。その間はノクスがお世話致しますので」
二人で並んでぺこりとお辞儀をする。
マリアローゼは嬉しそうにノクスとルーナを見比べた。
「久しぶりにノクスとお話しますから、急がなくても大丈夫ですからね」
「はい、お嬢様」
ルーナが体の前で両手を合わせて、ぺこりと敬礼をして部屋から出て行く。
マリアローゼはノクスが用意してくれた、冷えた紅茶をこくりと飲み、ノクスに微笑みかけた。
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