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叔父上、来襲
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カツカツと高らかな軍靴の音が響き、扉から入ってきたのは騎士鎧に身を包んだ美青年だ。
青みがかった銀髪も、氷の様な瞳も父とよく似ている。
父よりも髪が長くて、緩やかにウェーブしているが、何より違うのは纏っている雰囲気だ。
にこやかで穏やかな笑みを浮かべたその人は、立膝をついて左胸に手を当て、挨拶をする。
「フィロソフィ公爵夫人にして王国の薔薇と謳われる、美しき義姉上、
我が親愛なる兄、フィロソフィ公爵の命により、弟ジェレイド、罷り越しましてございます」
「ふふ、相変わらずですね、ジェレイド。よく来て下さいました」
「そして!我が一族の宝にして、我が命。愛しの姪御マリアローゼ!!!」
テンションがおかしい。
跪いたまま両手を広げて、歓喜の表情を浮かべる美青年…もどきがマリアローゼの目に映っていた。
「驚かせてしまったかな?二年振りだから、僕の事は忘れてしまっただろうか」
恐ろしいスピードでにじり寄ってきて、手を握られて、マリアローゼはひっ、と短い悲鳴を上げた。
立ったら怖がると思ったのだろうけれど、低い姿勢のまま高速で近寄られた方が怖い。
挙動の不審さと、なめらかに動ける筋力の凄さに、色々圧倒されたマリアローゼは、若干離れるように母の方へ身体を傾けながら答えた。
「あ……いえ、少しだけ覚えておりますの……」
尻尾だけですが。
とは取り合えず言わずに、形だけは美しい容姿を見詰める。
「ああ、感激だよマリアローゼ……忘れないでいてくれたなんて。
さあ、叔父上に二年ぶりのキスをおくれ」
と頬を差し出され、マリアローゼはミルリーリウムを窺った。
ミルリーリウムはくすくすと笑いながら頷く。
いいんですか……
抵抗はあるが、ほんのちょびっとだけ、差し出された白皙の頬に唇を寄せる。
「はあ……っっ、この為に生きてきたと言っても、過言ではない!
義姉上、本当に本当にマリアローゼをこの世に送り出して頂いた事、感謝致します」
「貴方にも昔からお世話になってきたものね。わたくしが諦めずに頑張ってこられたのも貴方のお陰よ」
「そんな、勿体無いお言葉です。それにしても、ああ、こんなに愛らしく成長して…」
隣に座る母にぺこりと礼をして、マリアローゼに向き直って笑顔を向ける。
世話になった…?
父と母は幼い頃から婚約していた筈なのだが、何を世話したのだろう。
そして、わたくしが生まれるのを諦めなかったのは叔父の存在も理由の1つなのかしら…?
聞いたことの無い事実が出てきて、マリアローゼは繁々と目の前のジェレイドを見詰めた。
「何故、去年はいらっしゃらなかったのですか?」
何を置いても放り出しても駆けつけそうな人なのに、どうしてなのかとても疑問だったので、思わず聞いてみると、ジェレイドは胸に手をあてる。
「拗ねているのかい?寂しかったのかい?ああローゼ、これからは一緒にいられるからね!!」
「いえ、そういう事ではなく……」
ずいずいと寄って来るジェレイドに、眉を下げて困った様にマリアローゼが否定するが、ジェレイドがふと悲しげな顔をした。
「本当ならマリアローゼとの逢瀬のついでに、新年を祝いに王都へ訪れる予定だったのだが、去年は酷い寒波に見舞われた上に、領民達に風邪が流行ってしまってね。
予防に予後に保護をしなくてはならなくて、領地を離れるわけにはいかなかったのだよ」
「まあ……」
予想外の返答に、マリアローゼは驚きを隠せなかった。
青みがかった銀髪も、氷の様な瞳も父とよく似ている。
父よりも髪が長くて、緩やかにウェーブしているが、何より違うのは纏っている雰囲気だ。
にこやかで穏やかな笑みを浮かべたその人は、立膝をついて左胸に手を当て、挨拶をする。
「フィロソフィ公爵夫人にして王国の薔薇と謳われる、美しき義姉上、
我が親愛なる兄、フィロソフィ公爵の命により、弟ジェレイド、罷り越しましてございます」
「ふふ、相変わらずですね、ジェレイド。よく来て下さいました」
「そして!我が一族の宝にして、我が命。愛しの姪御マリアローゼ!!!」
テンションがおかしい。
跪いたまま両手を広げて、歓喜の表情を浮かべる美青年…もどきがマリアローゼの目に映っていた。
「驚かせてしまったかな?二年振りだから、僕の事は忘れてしまっただろうか」
恐ろしいスピードでにじり寄ってきて、手を握られて、マリアローゼはひっ、と短い悲鳴を上げた。
立ったら怖がると思ったのだろうけれど、低い姿勢のまま高速で近寄られた方が怖い。
挙動の不審さと、なめらかに動ける筋力の凄さに、色々圧倒されたマリアローゼは、若干離れるように母の方へ身体を傾けながら答えた。
「あ……いえ、少しだけ覚えておりますの……」
尻尾だけですが。
とは取り合えず言わずに、形だけは美しい容姿を見詰める。
「ああ、感激だよマリアローゼ……忘れないでいてくれたなんて。
さあ、叔父上に二年ぶりのキスをおくれ」
と頬を差し出され、マリアローゼはミルリーリウムを窺った。
ミルリーリウムはくすくすと笑いながら頷く。
いいんですか……
抵抗はあるが、ほんのちょびっとだけ、差し出された白皙の頬に唇を寄せる。
「はあ……っっ、この為に生きてきたと言っても、過言ではない!
義姉上、本当に本当にマリアローゼをこの世に送り出して頂いた事、感謝致します」
「貴方にも昔からお世話になってきたものね。わたくしが諦めずに頑張ってこられたのも貴方のお陰よ」
「そんな、勿体無いお言葉です。それにしても、ああ、こんなに愛らしく成長して…」
隣に座る母にぺこりと礼をして、マリアローゼに向き直って笑顔を向ける。
世話になった…?
父と母は幼い頃から婚約していた筈なのだが、何を世話したのだろう。
そして、わたくしが生まれるのを諦めなかったのは叔父の存在も理由の1つなのかしら…?
聞いたことの無い事実が出てきて、マリアローゼは繁々と目の前のジェレイドを見詰めた。
「何故、去年はいらっしゃらなかったのですか?」
何を置いても放り出しても駆けつけそうな人なのに、どうしてなのかとても疑問だったので、思わず聞いてみると、ジェレイドは胸に手をあてる。
「拗ねているのかい?寂しかったのかい?ああローゼ、これからは一緒にいられるからね!!」
「いえ、そういう事ではなく……」
ずいずいと寄って来るジェレイドに、眉を下げて困った様にマリアローゼが否定するが、ジェレイドがふと悲しげな顔をした。
「本当ならマリアローゼとの逢瀬のついでに、新年を祝いに王都へ訪れる予定だったのだが、去年は酷い寒波に見舞われた上に、領民達に風邪が流行ってしまってね。
予防に予後に保護をしなくてはならなくて、領地を離れるわけにはいかなかったのだよ」
「まあ……」
予想外の返答に、マリアローゼは驚きを隠せなかった。
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