悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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マスロの特産品と美味しいケーキ

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居間にはミルリーリウムとシルヴァインとカンナがテーブルについていた。
マリアローゼは、控えめにお辞儀をしてミルリーリウムの横にちょこんと座る。

「ローゼ、釣りは楽しめまして?」
「はい、お母様。とても楽しかったですわ」

優しい母の問いかけを切欠にマリアローゼは身振り手振りを交えて、湖での出来事を事細かに語りだした。
そんな娘の可愛らしい様子に、ミルリーリウムも目を細めて微笑んでいる。
可愛らしい声の響く団欒の合間に、ケーキが運ばれてきた。

「お嬢様がお気に召したようですので、マスロのチーズを使って作らせましたケーキでございます」

上面はこんがりと焼かれ、側面はしっとりとしたベイクドチーズケーキである。
マリアローゼは目をぱちくりさせて眺めてから、ぱくり、と一口含んだ。

「まあ、柑橘系の香りもして、とても美味しいですわ」

ほっぺを抑えるようにして、にっこりとルーナに微笑みかける。
きっと宿に戻ってすぐに、指示を出して作らせたのだろう。

何て優秀な侍女なのかしら…!

「ルーナ、後でいいから貴方も絶対に食べてね」
「はい、お嬢様。頂きます」

本当は一緒に食べたいのだが、公私混同をあまり他の使用人の前で披露するのはよくないだろう、とマリアローゼも我慢した。
娘の気持を汲んで、ミルリーリウムもその決定の邪魔はせずに、運ばれたケーキを口にしている。

「あら…本当に美味しいわ。これは家でも食べれるかしら?」

視線を投げたのはエイラにで、聞かれたエイラはぺこりと会釈を返した。

「はい。チーズは買い付けておりますので、恙無く」
「ふふ。お茶会にも是非出したいわ」
「では、その様に手配致します」

エイラもマリアローゼの侍女なのだが、元を辿れば母がフォルティス公爵家から連れてきた侍女である。
ルーナときちんと連携を取っていて、淀みなく答えた姿に母も満足したようだ。
優しいようでいて、甘やかさないというミルリーリウムの姿勢に、改めてマリアローゼは驚いた。
勿論ふわふわとした母の事だから、ただ単に聞いただけ、とも言えなくも無いが、そんな人では公爵夫人としての社交は務まらないのである。

そこへ高らかなラッパの音が、遠くから響いてきた。

「あら、いらしたわね」

ミルリーリウムが、紅茶を置き、窓の方に顔を向けた。
チーズケーキを堪能していたマリアローゼがこてん、と首を傾げる。

「騎士団が町に入る合図だよ。急ぎの場合や通り過ぎるだけの時は省略される事もあるけどね」

王国ではそういう慣習がある。
町に入る際に先触れが鳴らすのだそうで、それは何も貴族だからと威張っている訳ではなく、主に事故防止の為である。
騎馬隊が町に突然大挙してくれば、町の人も驚くし、子供が老人が道に出ているかもしれない。
その上での配慮なのだ。
実際に耳にするのは初めてだったので、その音がそうなのだとマリアローゼには分からなかったが、合図だと聞けば本で読んだ知識が頭の中で構築される。

慌ててぱくぱくとチーズケーキを口に放り込み、マリアローゼは居ずまいを正した。

「あらあら、そんなに急いで食べなくてもいいのに…」

くすくすとミルリーリウムが、細い指先でマリアローゼの口元についた汚れを払う。
コンコン、とノックの音と、「先触れが参りました」とギラッファの声がする。

「お通しして」

「フィロソフィ公爵夫人、ただ今到着致しました。間もなくジェレイド様もお見えになります」

「ええ。本当に”間もなく”来そうですわね」
「ええ…はい…その通りです…」

ぐったりとした様子の伝令役の騎士は、頭を下げてから廊下へと出て行く。
本当に間を置かず、廊下を歩く軍靴の音が聞こえてきた。
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